高経年マンションと空き家問題に新たな解決策を~住環境を守る日新火災の挑戦
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国土交通省の資料*1によれば、築40年以上のマンションは2024年末で約148万戸に達し、10年後には約293万戸まで増加すると予測されています。そこで社会課題となっているのが、高経年マンションの維持管理。ニュースでも頻繁に取り上げられる戸建て住宅の「空き家問題」を含め、住環境の維持と向上はSDGsの観点からも重要な課題とされています。
この社会課題に対し、損害保険会社の立場から保険商品の提供を通じて改善につながる取り組みを行っているのが、東京海上グループの日新火災海上保険株式会社(以下、日新火災)です。取り組みを推進する、商品企画部の赤穂真一郎、黒木晏華(はるか)、本田里帆の3名にインタビューしました。

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※【】内は築40年以上となるマンションの築年。
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※建築着工統計等を基に推計した分譲マンションストック戸数及び国土交通省が把握している除却戸数を基に推計。
お客さまの「声」で察知した、住環境にまつわる社会課題
── 日新火災が、マンションの高経年化や空き家問題といった、「社会課題の改善に貢献する保険商品」の開発に着手した経緯について教えてください。

はじめに、社会課題に向き合う当社の基本スタンスについてお話しします。私たち日新火災は「リテールのお客さま一人ひとりに寄り添い“あんしん”をお届けする」というパーパスを掲げています。この一文には、個人のお客さまや地域の事業者さまなど、どちらかといえば、経済的に弱い立場にある方にご納得いただける保険商品やサービスをきちんとお届けし、安心して安定した生活や事業を営んでいただくことを大切にしたいという私たちの強い想いが込められています。商品開発についても、この考え方がベースにあり、商品を企画するときのスタートラインとなっています。

そこで重視しているのが、お客さまの「声」です。お客さまと密に接している全国の保険代理店さんからはもちろん、私たちも直接お客さまからご意見をいただくことがよくあります。またインターネットなどを通じ、私たちがお届けする保険商品にかかわる方々の声を、常にリサーチしています。
そうした活動を通じ、マンションの高経年化や、いわゆる「空き家問題」といった住環境にまつわるお悩みを持つ方が、年々増えていることに気づきました。住環境の維持や向上は、SDGs目標のひとつ(11.住み続けられるまちづくりを)であり、お客さまに“あんしん”をお届けするという、日新火災のパーパスにも通じています。そこで、これらの社会課題の改善に貢献できる保険商品の開発に着手しました。
マンション管理組合の真摯な活動が報われる、新しい保険の形を目指して
── 住環境の維持や向上に貢献できる保険商品として、日新火災は「マンションドクター火災保険*2」と「空き家専用保険*3」を発売しています。まず、「マンションドクター火災保険」を開発された背景について教えてください。

2015年から発売している「マンションドクター火災保険」は、マンションの管理組合さま向けの保険商品です。最大の特徴は、マンションの築年数だけではなく共用部分のメンテナンス状況など、管理組合さまが取り組んでこられたマンションの管理状況を診断・評価して、その結果に応じて保険料が決まることです。本商品の開発当時は、築年数だけで保険料が決まるマンション共用部分向け火災保険が主流であり、「きちんと管理を続けてきたマンションなのに、築年数だけで保険料が決まるのは納得できない」というお客さまの声があがっていたことが商品開発のきっかけになりました。マンションを診断し、その状態に応じて最適な提案を行う“お医者さん”のような存在でありたい——そんな想いを込めて「マンションドクター火災保険」という名前を付けています。
お客さまの声を踏まえて実態を検証したところ、同じ築年数でもきちんと管理をしているマンションと、そうではないマンションとでは、共用部分のリスクに差があることがわかりました。ただ、管理状況を評価するためには、公平かつ客観的な物差しが必要となります。そこでマンション管理の専門家として国家資格となっているマンション管理士の存在に着目しました。マンション管理士の全国組織である、一般社団法人日本マンション管理士会連合会さまに、当社と連携して取り組んでいくことをご提案したところ、幸いにしてご協力いただけることになりました。

地域にとっても悩みの種になる「空き家」。その所有者が抱く不安に保険で寄り添う
── もうひとつの「空き家専用保険」は、どのような背景から開発されたのでしょうか。
このような状況を踏まえ、お客さまの「空き家を所有することに対する不安」に寄り添う保険商品の開発を検討した結果、NPO法人空き家・空地管理センターさまとの提携により、2024年に空き家の管理サービスと万が一のリスクに対する補償をセットにした「空き家専用保険」を発売しました。

── お客さまが抱く「空き家を所有することに対する不安」とは、具体的にどのような内容が多いのでしょうか。
端的にまとめると「空き家の近隣にお住まいの方々に迷惑を掛けてしまうかもしれない」ということです。管理されていない状態が続いた空き家は地域の美観や治安を損ねるほか、倒壊や放火といった物理的なリスクが高くなり、近隣の住宅に損害が生じるおそれもあります。
空き家を所有されているお客さまに、空き家管理サービスをご利用いただくことで、空き家の日常的な管理を任せていただけます。さらに、当社が万が一の事態があった際の補償をご提供することで、より一層の安心をお届けできます。この商品は、空き家に関する様々な相談を受けている空家・空地管理センターさまとの共同開発により、互いの領分を活かしたサービスの提供を実現いたしました。
「住み続けられるまちづくり」に保険を通じて貢献したい
── 最後に、日新火災が目指す取り組みのこれからについて教えてください。
高経年マンションや、住む人がいない空き家については、所有する方や居住する方それぞれに、「安心して住み続けたい」、あるいは「すぐに処分はできないけれど管理はきちんとしておきたい」などの“想い”があります。こうした「なんとかしてより良い未来にしたい」という想いを受け止め、少しでも私たちがお手伝いすること。この組み合わせによって、マンションなどの住まいに、新たな「資産価値」を生むこともできると実感しています。

実際の「マンションドクター火災保険」のケースですが、ご加入いただいた管理組合さまから、「メンテナンスに費用もかけて真面目に取り組んだことが評価されたことで保険料が安くなっただけでなく、新たな入居者も増えた」という、嬉しいお言葉をいただいています。一部の住宅情報サイトで診断結果を公開しており、その情報を見た方に「管理組合がしっかりしているマンションなら、安心して住むことができる」と思っていただけたのです。
築年数を経たマンションは、入居者の高齢化問題を抱えているケースも少なくありません。しかし、ご紹介した例のように、最近は管理がしっかりしているマンションを比較的若い世帯が購入して、部屋をリノベーションして居住するという動きもでてきています。マンションに多様な世代が居住することは、メンテナンスの継続性といった施設のハード面だけでなく、マンション内のコミュニティの活性化といった、住みやすさというソフト面にも好影響をもたらします。
このような社会的なインパクトまで考慮すると、マンション管理の取り組みを評価し、応援する私たちの商品は、お客さまの大切な住まいの価値を守るだけでなく、誰もが住みたくなる住まいを実現することにつながります。そして「住み続けられるまちづくりを」というSDGs目標の達成にも貢献できる可能性があります。今後は、このようにサステナブルな社会の実現という幅広い観点から、さらに商品・サービスの付加価値を高めていく余地があるのではないかと考えています。
「住み続けられるまちづくりを」への貢献という点では、「空き家専用保険」も同様です。なぜなら、空き家の放置は、所有者だけでなく、空き家がある地域の持続性にも影響をおよぼす可能性があるからです。
住む人がいなくなった空き家にも、親や親族など、かつて住んでいた方の想いが残されています。空き家とともに先住者の想いを継いだ方が、自身による管理が困難という理由だけで処分を決めるのは、とても大きな決断を伴うことです。そうしたお客さまの想いに寄り添う商品づくりができればと考えています。
たとえば「空き家専用保険」については、空き家の管理や補償に加えて、所有者や地域の皆さまがこれからも安心して暮らすことができるような、空き家の利活用に関するご提案をサービスに含めることを検討していきたいですね。「マンションドクター火災保険」については、管理組合さまが抱える現状の課題である、安定した管理組合の運営に貢献できるように、さらなる商品・サービスのブラッシュアップを検討したいと考えています。
これからも当社は商品やサービスを通じ、“住まいのお医者さん”として地域の安心と安全を支えていきます。

お客さまの想いに寄り添いながら、誰もが安心して暮らすことができる住環境を目指して。日新火災の取り組みはこれからも続きます。
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※掲載内容は2025年8月取材時のものです。
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*2「マンションドクター火災保険」は、マンション管理組合特約付すまいの保険のペットネームです。
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*3「空き家専用保険」は、空き家所有者補償特約をセットした統合賠償責任保険です。
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