物流の安全を支える「点呼ロボット」~制度対応と現場課題に応える新提案
- 社会課題・高度化社会
物流業界は今、大きな転換期を迎えています。
ドライバー不足や運行の過密化が重なり、業務効率と安全確保の両立という難題に、日々直面しています。東京海上日動と東京海上ディーアールは、事故や災害が発生する前の段階—— 特にドライバーの安全運転や健康管理といった“事故予防”領域に踏み込み、運送業界を支える“仕組み”の提供に取り組んできました。
その一つが、日本通運様の実務課題に応える運行管理の再設計。“話す・見る・聞く”機能を備えた運行管理支援AIロボットの導入を通じて、法制度の変化と現場に応える支援を続けています。
“保険+α”でお客様に寄り添い、変化をカタチにしていく—— その軌跡から、東京海上グループが描く“これからのリスクソリューション”をお届けします。
大手物流企業・日本通運を担当する営業パーソン。制度改正とニーズの接点を捉えたソリューション提案をリードした。

現場目線を徹底した運行管理支援AIロボットの開発責任者。多くの改善要望に応え、制度準拠と現場対応の両立を追求した。

保険だけでは守れない。保険会社が “物流の課題”に向き合う
私たちの衣食住や企業の経済活動は、物流があるからこそ成り立っています。しかし、そんな社会インフラともいうべき物流には、作業者や第三者の怪我、輸送中の貨物損害など、様々なリスクも存在するのです。
東京海上日動は、これらのリスクに備える“保険”を提供するとともに、事故を未然に防ぐ「+α」の支援にも取り組んできました。
一方で、物流業界を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。ドライバーの高齢化や人手不足、長時間労働、属人化した管理業務など、物流の現場課題は深刻化の一途をたどっています。保険による補償だけでは追いつかない、“日々の運行をどう支えるか”という課題が顕在化しているのです。
保険だけでなく、事故の未然予防や発生時の損害拡大の防止、安全管理制度対応や従業員教育支援といった周辺課題にも向き合い、お客様企業を支える存在へ—— 東京海上グループでは今、保険の枠を超えて企業の実務に深く入り込み、課題解決に寄り添う取り組みを本格化させています。

トラック運送事業の働き方をめぐる現状



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※(出典)経済産業省「物流を取り巻く現状と取組状況について」より作成
そうした中で取り組んできた施策の一つが、日本通運様の実務課題に応えるプロジェクトです。東京海上日動と東京海上ディーアールは、ともに現場へ足を運び、ヒアリングを重ねる中で、点呼や安全教育といった業務に潜む「保険では守りきれない課題」に丁寧に向き合ってきました。
──現場の課題を深く理解することで実装に至ったのが、今回ご紹介する「運行管理支援AIロボット」なのです。
ドライバーを支える、パートナー。現場のリアルに応える運行管理支援AIロボット
東京海上ディーアールが開発に携わった「運行管理支援AIロボット」は、“話す・見る・聞く”の機能を備えた、国土交通省認定の業務後自動点呼機器です。
たとえば、ドライバーの本人確認はAIを活用した顔認証で行い、健康状態は体温・血圧データと連携してチェック。アルコール検査や運転免許証の読み取りも可能で、業務前後の点呼データはすべて一元管理されます。これにより、従来の電話や手書きによる記録管理に比べ、精度と効率が大幅に向上。ドライバーが複数拠点をまたいで乗務する場合の情報連携にも対応し、特定の担当者に依存しない管理体制を実現しています。
(左:点呼+ロボット版 Kebbi 右:点呼+デスクトップ版)

“教育の仕組み化”までカバーする多機能性
「教育って、動画を見せれば終わりじゃないんです。ドライバーの経験や担当業務に応じて、それぞれに合った内容を用意することや、記録管理・理解度の把握まで含めて、ようやく教育になります」と語るのは、開発を担当した花島。
「運行管理者とドライバーの間に立って、コミュニケーションを円滑にする。そんな存在になれたらという思いで、機能を一つひとつ積み上げていきました」

見逃さなかった“変化の兆し”。制度改正とお客様ニーズへの対応
2023年、国土交通省が定める点呼制度に、選択肢を広げる新たな運用ルールが加わりました。条件を満たせば、「遠隔点呼」や「業務後自動点呼」といった、従来は原則対面でしか認められていなかった点呼を、機械で代替することが可能になったのです。
しかし、「制度が緩和されたから導入できる」という単純な話ではありません。実際の現場では、実務設計の見直しや記録管理の再構築など、複数の課題が同時に浮上していました。
東京海上日動は、こうした「制度と現場のギャップ」にいち早く着目。制度改定という外的変化と現場の実態、両方にアンテナを張り続けたことで、その“ズレ”を直感的に捉え、迅速な行動へとつなげました。
企業のリスクマネジメントを支援する立場として、法改正の背景や要点を読み解き、「どうすれば現場で無理なく活用できるか」をお客様とともに考えるアプローチを実施。日本通運様との対話を重ねる中でも、制度対応の実態を丁寧にヒアリングしていきました。
こうしたプロセスからたどり着いたのが、「点呼ロボットを活用した運行管理業務の再設計」という提案です。単なるツール導入ではなく、“制度と現場のズレを埋める仕組み”として、実務に寄り添ったこの提案は、日本通運様から高い共感を得ることができました。
“今ならでは”のタイミングを、逃さない
制度改正の発表前から、その動きを見据えて準備を進めていた東京海上ディーアールは、制度が正式に改定される前の段階で、技術提供の体制を整えていました。法改正によって業務フローにどのような変化が生じるのか、東京海上ディーアールの担当者が現場の管理者やドライバーに丁寧に説明を重ねながら、理解と納得を得ることに注力していたのです。
営業担当だった宮本は、「まずは物流の現場で何が起きているのかを知ることから始めました」といいます。
制度がどう変わるのか。それがどんな業務の変化につながるのか。点呼や安全教育にまつわる課題を一つずつ拾い上げる中で、「これは保険だけでは支えきれないなと、実感しました」。

本格導入にあたり、89の要望に応えたプロジェクト担当者
日本通運様から届いた改善要望は、89個。「たとえば、ドライバーの登録方法や応援運転者の扱い、ドライバーへの指導内容など驚くほど細部にわたりました」。しかし、現場で背景を聞いていくと「これは本当に必要だと腑に落ちるんです」。
花島は時間を惜しまずヒアリングを重ね、試験期間中も何度も現地へ足を運びました。「一緒に画面を見ながら、“ここが使いづらい”とか“こうしたほうがいい”と、都度フィードバックをいただき、開発パートナー企業とともに実装と改善を繰り返しました」。
「たった1社の声かもしれませんが、そこには業界全体に通じるヒントがあると思っています。要望というより、一緒につくっているという感覚でした」
地道に積み重ねてきた対話と改善のプロセスは、日本通運様の国内全拠点(約400カ所)への導入につながりました。現場起点で育てられたこのソリューションは、まさに“人と現場でつくりあげた成果”といえるものです。

“保険+α”の先、物流業界全体を見据えた展開
日本通運様での導入成功は、一社との取引を意味するものではありません。拡張性のあるシステム設計と運用の実績を評価いただき、現在は他の運送事業者への導入も次々と進んでいます。現場に寄り添い改善を重ねたそのプロセス自体が、他の企業にとっても「信頼の証」となり、物流業界全体へと広がろうとしています。
さらに東京海上ディーアールでは、2025年度に向けた「乗務前点呼の自動化」や、業務システムとのAPI連携といった新機能のサービス展開にも着手。点呼や教育といった法定業務の“仕組み化”を通じて、業務設計そのものへの支援が始まっているのです。
現場起点だからこそ、中小企業にも届く
この取り組みが示す価値は、決して大手企業に限定されるものではありません。むしろ、業界全体の約99%を占める中小の運送事業者にとってこそ、ドライバー確保や教育体制、法令順守といった課題はより深刻です。
東京海上グループが提供するこのソリューションは、点呼や安全教育といった法定業務の“仕組み化”を支援することで、人的リソースの限られた現場にも導入しやすく設計されています。
背景にあるのは、東京海上日動が掲げる「保険+α」というグループの経営戦略です。保険だけでなく、事故の未然防止・制度対応・教育支援といった周辺領域まで広げ、ビジネスそのものを支える。その視点が、変化の多い物流業界において、大きな力となっています。
保険会社のこれからを、形にしていく
社会が変わり、制度が変わるとき——企業には、これまで以上に柔軟な対応力と、未来を見据えた行動が求められます。
東京海上グループは、「もしも」に備えるだけでなく、「どうすればリスクを回避できるか」に「いつも」応える存在へ。制度改正と現場のニーズが交差する瞬間を見逃さず、知見と技術でカタチにしてきた今回の取り組みは、その象徴のひとつです。
これからも、社会の変化に向き合いながら、企業とともに進化する存在であり続けること。
東京海上グループは、リスクに寄り添い、ともに未来を描くパートナーとして、その歩みを進めていきます。