社外役員インタビュー

2022年8月

気候変動イシューに対する取締役会の貢献

(左)社外取締役 片野坂 真哉
全日本空輸に入社後、同社人事部長、ANAホールディングス株式会社代表取締役社長等を経て、現在は同社代表取締役会長。2020年6月より当社取締役に就任。

(右)社外取締役 大薗 恵美
一橋大学大学院経営管理研究科ICS専攻長、教授。2021年6月より当社取締役に就任。

気候変動イシューに対する取締役会の貢献とその実効性

重要な社会課題である気候変動に真正面から取り組むために、多様な経験とスキルを持つ社外役員と実効性のある議論を展開

Q当社は気候変動を最重要課題と位置付けていますが、取締役会での議論はどのようなものでしたか?
片野坂
2021年度は気候変動を中心としたサステナビリティをテーマとして4回の集中議論を行いました。内容は、グループサステナビリティ中長期戦略の策定や、それに基づく年次・中長期計画、石炭火力発電所等に係る保険引受や投融資方針の改定などです。社外役員の意見は、総じて会社方針を支持するものでしたが、そのうえで、更に検討・留意すべき点についての議論が進んだと思います。
大薗
例えば、当社は2021年12月に「2050年GHG排出量ネットゼロ目標」を公表しましたが、事業会社のトップを経験された社外役員から、「こうした目標を上手に活用しながら、実態をいかに前進させていくかが重要」といった意見が出されていました。世界トップクラスのグローバル保険会社である当社には、自社の数値目標の達成だけを目的化することなく、広く世の中のネットゼロ実現に向けて、小資源国日本の置かれている現状等も踏まえながら、気候変動イシューに真正面から向き合い、地に足を着けて、本質的な解決策を講じていってほしいという我々社外役員共通の想いが現れた意見だと思います。
片野坂
本当にその通りです。グローバル保険会社として、またグローバル機関投資家として、ダイベストメントすれば、それで責任を果たしたという安易な発想ではなく、どうすればネットゼロ社会の実現に当社が真に貢献できるか。できること、できないこと含めて、今後も取締役会でしっかりと議論していきたいと思います。
大薗
時にダイベストメントも必要ですが、イノベーションでトランジションを後押しすることで拡大均衡に持っていくことが重要です。世の中の流れに惑わされることなく、地に足を着けて、「お客様のトランジションにしっかり寄り添います」ということを、自信を持って言えばいい。また、そう言うからには、責任を持って実績を積み上げていくことがとても大事ですので、当社の力を最大限活用してお客様のトランジションを後押ししていっていただきたいと思います。
片野坂
地に足を着けて、といえば、ある社外役員は、グループサステナビリティ中長期戦略を議論する取締役会の中で、「当社のサステナビリティ戦略において、気候変動は2030年、2050年といった中長期的に取り組むべき課題、というトーンがやや強すぎる。そもそも、気候変動への対応は当社にとっての足元のビジネスチャンスでもある訳で、そうしたチャンスにいち早く、今から対応していくことをもう少し強く表現してもよいのではないか」という指摘をされていましたね。本業を通じて気候変動という社会課題の解決に貢献することを戦略・計画の中でより強く具体的に表現することで、取組みの主体である社員の「我が事感」をこれまで以上に引き上げようという、これもまた地に足を着けましょうという指摘だと思います。
大薗
そうですね。これは実際に「社会のサステナビリティに寄与する商品・サービスの開発・提供」という形でサステナビリティ年次計画に織り込まれ、災害レジリエンス関連の商品・サービスの検討が加速するきっかけとなりました。
そして、この他にも、取締役会における社外役員の発言が着実に形になってきているなという実感を持っています。例えば、当社は、日本の保険会社としては初めてNet-Zero Insurance Alliance(NZIA)に加盟して、保険引受面でもネットゼロ社会の実現に貢献するというステートメントを出しましたが、これは「2050年ネットゼロの対象に保険引受も含めるべき」という社外役員の意見を踏まえて実行されたものです。また、形にはまだなっていませんが、「2050年ネットゼロ目標に向けて、マイルストーン(中間目標)を設定して、もっと実効性を上げていくべき」といった社外役員の意見に対しても、当社グループの保険引受・資産運用ポートフォリオから排出されるGHGの概算量を算出した後に、中間目標を設定する方向で検討が進んでいます。
Q取締役会の実効性についてどのように捉えていらっしゃいますか?
片野坂
大薗さんがおっしゃる通り、当社は社外役員の意見にしっかり耳を傾け、できるだけ引き出そうとしています。取締役会の最後に議長が、もう一回、「これでよろしいですか」と畳みかけたりするのはいいですね。企業価値の向上に向けてすごく貪欲だといつも思います。
勿論社外役員の意見が全てそのまま採用される訳でもありません。例えば、TCFDの物理的リスクの開示について。「予想損害額を開示すべきだ」という意見が社外役員から出されましたが、「当社独自の予想損害額をそのまま開示することは、メーカーでいうところの設計図を開示するものであり、当社の企業価値向上に繋がらないのではないか」といった理由から、当社も参画し、議論をリードしている国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)のシナリオ分析ツールをベースにした「支払保険金の変化幅」を物理的リスクとして開示することになりました。いずれにしても、社外役員の意見に真摯に向き合い、議論の末に皆が納得する結論に至っていることは極めて健全だと思います。
このように当社の取締役会では、多様多彩な社外役員とともに侃々諤々、様々な意見が飛び交います。皆さんもおっしゃっていることですが、当社の取締役会は非常に活発で内容の濃いディスカッションを重ねていると私自身も実感しています。
大薗
はい、全員が会社方針の背景を共有した上でしっかりと議論ができていると思います。また、社外役員のバックグラウンド・スキルが違うというのは、様々な観点での検討が要される気候変動の議論にとって、とても有益です。
そして、どのイシューに関しても、皆さんすごくまじめに本質的な解を求めますよね。私は2017年に東京海上日動の社外監査役に就任しましたが、初めての取締役会での最初の発言が「転勤を何とかできないか」というものでした。専業主婦が前提だった時代にできた労働慣行に現在も意味があるのか、家庭への負荷が強すぎるのでその価値を根本から見直して欲しいと申し上げたのです。
片野坂
それが実現したということですね。
大薗
時間はかかりましたが、コロナ禍でリモートワークなどの新しい働き方が定着したことなどの後押しもあって、同意なき転居転勤を廃止する方向で、転勤政策を見直そうとしています。制度運用を変える時には必ず軋轢があるものですから、現場をよく観察しながら丁寧にかつ慎重に設計を進めているのだと思います。どんなイシューでも、根本的な策をよく考えて、期待を上回るものを打ち出す実行力はこの会社の良さの一つです。そのため、様々な利害関係の調整が必要になってくる気候変動イシューに関しても、必ずや最適解を見つけていけると信じています。
片野坂
このほかにも、2022年度から、役員の業績連動報酬に非財務指標が導入されましたね。これは2年半前から報酬委員会で検討を進めてきたもので、私もANAの役員報酬に導入している事例を執行サイドにご紹介したことがありますが、当社の場合は、会社業績を決定するKPIの中に「社員エンゲージメント指標」と「サステナビリティ戦略に係る指標」をそれぞれ5%ずつ導入することになりました。比率としては小さいかもしれませんが、社内外に対して覚悟を示すという観点でまず始めたことを評価します。気候変動対策をはじめとするサステナビリティ戦略の推進は、個人の力だけではどうしようもない部分も大きいので、今後は社員に取組みの重要性をしっかりと理解させて広めていってほしいと思います。

当社に対する期待

企業価値の更なる向上に向けて、カルチャーを大切にしつつも、リーダーシップを発揮して舵取りのスピードを上げる

Qとても時間がかかったというお話もありましたが、企業価値の更なる向上に向けて、東京海上に対する期待を教えてください。
大薗
気候変動やダイバーシティといったイシューについて、数字目標を掲げるだけでなく、根本を解決することが大事だという考え方が会社として一貫している点は良いと感じます。素晴らしいカルチャーです。ですが、こうしたイシューは解決に時間がかかるものです。この点、欧州企業はまずはやってみる。そして実績を見ながら改善していく。当社としても、もう少しスピードアップできる方法はないか、と言い続けることが社外役員の役割でもあります。
片野坂
企業としての成長を図りながら気候変動という社会課題の解決へと向かう訳ですから、これまでの仕事のやり方も変革しながら進めないと、現在のような激動の環境変化についていくことができないのではないでしょうか。仕事のやり方の変革に関して、身近な例を挙げますと、取締役会にも、もっと生煮えの段階で報告してもらってよいと思います。結局、雑談的なところに本質がある。「まずは今年始めました、でもこんな不具合が見つかったのでこれから修正します」というくらいのテンポが大事です。小刻みに手直しすることがスピードアップにも繋がります。
大薗
そうですね。Fail Fast, Fail Forwardの号令は既に社内に発信されていますが、私たちの前ではもっともっと前のめりに転んでいただいて構わないですし(笑)、課題解決の過程で、或いはこれからやりたいことのテコとして、もっと早い段階から私たちを利用して欲しいと思います。
その意味でも、花火を打ち上げて方向を示す。成功するかどうかは未知数でも、リスクがあっても最初に走り出す、そういうところにチャレンジしても良いと思います。日本では東京海上という強いブランドが出来上がっていますが、世界中に東京海上グループのブランドを更に広げていくためには、自らポジションを取ってリードしていく言動が増えてもいいかなと思います。気候変動との対峙は未知の領域です。それであれば、自分たちがやりたいことのルールは自ら作ればいい。元来、当社はずっとそのようなアプローチを続けてきたからこそ業界のリーダーでいる訳ですが、これからも世界の第一線で活躍していくという観点からすると、そこをもっと頑張ってほしいと思います。
片野坂
おっしゃる通りです。加えて、グループのデジタルビークルである東京海上ディーアールで気候変動に関するデータの活用を進めていることや、GCubeを買収して再生可能エネルギーの発展に貢献しようとしていることなど、すでに気候変動の領域でリーダーシップを発揮して取組みを始めていることも数多くある訳ですから、そういったものを前面に押し出して社内外にアピールしていくことも、企業価値の向上には有効です。
片野坂
様々な社会課題がある中で、東京海上が本業を通じて解決する最優先事項が気候変動なのです。それほど重要で、しかもビジネスチャンスでもあります。日本の、いえ世界のトップ企業グループとして先頭を走り続けて欲しいと思っています。
大薗
私が関わっている経済産業省の「グリーンイノベーション基金」では、10年間で総額2兆円規模の予算をつけるといった思い切ったことをしています。ここでは、バイオ燃料や高速高効率な光トランジスタなど多様な分野のイノベーションに対する研究開発・実証から社会実装の支援が行われています。革新的な技術を利用してソリューションを創造しないと、経済成長と環境負荷低減は両立できません。トランジションを支えるというからには、当社は、アンテナを高く張り、しっかりと理解して、お客様に伴走し、お客様の背中を押して差し上げる必要がある。当社はそうしたことを実現できる企業グループだと確信していますし、私たち社外役員も必要な協力を惜しみません。
片野坂
その通り、We can do it!!ですね。

本日はお忙しい中、ありがとうございました。