社外役員インタビュー

2019年8月

社会課題の解決と持続的な企業価値向上の両立

(右)取締役(社外取締役) 三村 明夫
新日本製鐵株式会社の代表取締役社長、代表取締役会長等を歴任し、現在は日本製鉄株式会社の名誉会長。日本商工会議所・東京商工会議所の会頭や日本郵政株式会社の社外取締役等を兼職。2010年6月より当社取締役に就任。

(左)監査役(社外監査役) 大槻 奈那
スタンダード&プアーズ・レーティング・ジャパン株式会社、メリルリンチ日本証券株式会社等、様々な金融機関でアナリスト業務に従事。現在はマネックス証券株式会社の執行役員チーフ・アナリスト。名古屋商科大学大学院マネジメント研究科教授等を兼職。2018年6月より当社監査役に就任。

Q1879年の創業以来、東京海上グループは、保険事業を通じてお客様や地域社会の様々な"いざ"を支えてきました。こうした社会課題を解決するという当社の事業目的は今後も変わることはありませんが、社外役員のお二人から見た当社に対する期待や課題をお聞かせください。

東京海上グループは自然体で私益と公益を両立する稀有な会社

三村
当社の設立に尽力した渋沢栄一氏は、著書『論語と算盤』の中で、「企業が、利益を追求すること(私益)と社会の繁栄に責任を持つこと(公益)は高い次元で両立する」と語っています。
企業が社会に貢献する手段としては、利益の一部を社会に還元するいわゆるCSR活動もありますが、企業の事業活動自体が社会課題の解決に直結し、その結果として利益も上がるのであればそれに越したことはありません。渋沢氏の考え方はまさに「日本版SDGs」です。最近の、SDGsを唱えていれば許される、という風潮は嫌いです。SDGsには17の目標があるわけですが、大事なことは、自社がきちんとしたフィロソフィーを持ち、そのフィロソフィーに合った社会課題の解決をめざすことです。それにより、企業・社会双方にとってのサステナブルな発展が現実的なものになると考えています。
その点、当社は、保険事業を通じて、大規模化する自然災害や自動車事故への対応、地方創生、健康経営といった社会課題の解決にあたっている。そして、その結果として、お客様や地域社会から選ばれ、成長を続けている。こういった点で、渋沢氏のめざした私益と公益の両立を自然体で体現する稀有な会社といえるのではないでしょうか。
大槻
日本は、言わずと知れた自然災害大国です。こうした背景もあってか、日本人は、世界的に見ても防衛的ペシミスト、つまり不安を克服するために一生懸命努力する国民性を持っていると言われています。
日本は、関東大震災、敗戦、モータリゼーション、バブル崩壊、東日本大震災といった幾多の難局や環境変化を乗り越えてきたわけですが、振り返ってみれば、当社は、その荒波の真っただ中にあるお客様や地域社会に常に寄り添い、"いざ"を支え、挑戦を後押ししてきました。そうした積み重ねの結果が今日の当社であり、三村さんも言われた通り、まさに保険事業を通じて自然体で私益と公益を両立してきた会社だと思います。

"Good Company" to Whom?

三村
そうした会社を当社では、"Good Company"と呼んでいますが、次の100年も社会課題の解決と企業価値の向上を両立する"Good Company"であり続けるために重要なことは、「誰に対するGood Companyか」ということです。
確かに、企業が、資本の提供者である株主のために事業活動を営むという考え方を否定することはできません。しかしながら、株主にも色々な方がいらっしゃいますから、すべての株主の言うことを鵜呑みにすると、持続的な成長に悪影響を及ぼすこともあります。
例えば、前職の社長時代に、アメリカの投資家から、顧客の意向を受けて商品をカスタマイズするよりも、画一的な商品を大量販売することでコスト削減をめざすべきという提言をいただいたことがあります。確かに短期的には利益が増えるかもしれませんが、顧客の意向に対応することで技術者の開発力が高まったり、今後の技術動向を予測することに役立ったりと、持続的な成長に繋がる長期的な目線を忘れてはいけないと思います。当社には、これまでと同様に、「お客様」、「社会」、「社員」、「株主」といったあらゆるステークホルダーに価値を提供し続け、その結果として、会社の持続的な成長と長期的な株主価値の最大化に繋げてほしいと考えています。
大槻
投資家は年金などの資金提供者の負託を受けてビジネスを営みますから、その資金を早く増やしたいというインセンティブがどうしても働きます。
そんな投資家側に長期的な視点を与えるひとつの思想がESG投資だと考えています。ESG投資は、環境・社会問題への取り組みや、ガバナンス強化に向けた取り組みを積極的に行っている企業は、5年後、10年後に企業価値が向上しているだろうと考える投資手法であり、企業の社会課題解決に向けた取り組みを資金面から支援することに繋がります。
当社の事業活動を通じたESG関連の取り組みは、すでに多くのグローバルなESG評価機関からも高い評価を受け、世界的ESGインデックスにも採用されています。社会課題の解決という共通の目的を持つESG投資家と当社が資本市場で繋がり、持続可能な社会の実現に向けて資金の好循環が生まれていると言えるのではないでしょうか。
Q東京海上グループは、被買収会社を含め、優れた人材・専門性をグローバルベースで活用しています。同時に、それらをひとつのチームとして結びつけるために、コア・アイデンティティである"To Be a Good Company"の浸透にも注力しています。こうした当社のグループ一体経営について、社外役員としての評価をお聞かせください。

世界に類を見ない当社のダイバーシティ推進の取り組みは順調に進捗

大槻
グローバル企業が持続的な成長を実現するには、ダイバーシティの推進が不可欠であることは言うまでもありません。
当社は、2008年以降海外保険事業の本格的な拡大を図り、外国人社員の割合は、グループ4万人の社員のうち約4割に達しました。被買収会社の社長を共同グループ総括に起用したり、専門性を横展開するなど、優れた人材・専門性をグローバルベースで活用する、当社のグループ一体経営の取り組みは世界に類を見ません。グループの様々な意思決定の場には、すでに多くの外国人や女性が参画しています。取締役会では、多様なバックグラウンドをお持ちの方が、文字通り自由闊達な雰囲気で忌憚のない意見をぶつけ合っています。当社は、我々社外役員の意見も掛け値なしに良く取り入れていますが、今後もこの価値観を大切にして、ダイバーシティ推進の取り組みを更に加速することを期待しています。
三村
グループ一体経営の恩恵のひとつに、国内の社員教育もあげられるのではないかと思います。もちろん海外に駐在する社員は増えていますし、ERMや海外M&A等の戦略論議を行う各種委員会では、メンバーが海外の専門人材と直接コミュニケーションを取る必要があります。これらは、委員会メンバーを支える若手社員にとってもグローバルスタンダードを学ぶ良いトレーニングの場になっているのではないでしょうか。このように、海外の考え方や文化に触れる機会が社員に多く提供されていることは、今後の更なるグローバル展開に向けて非常に有益だと思います。

さらに素晴らしいのはコア・アイデンティティの浸透に向けた取り組み

三村
ところで、日本企業の多くが海外M&Aで失敗している中、当社はM&A巧者と言われています。どうしてこのような差が生まれるのか、それ自体大きな研究テーマだと思いますが、その問いに対する私なりの答えは明快です。それは、当社は買収基準として「カルチャーフィット」を重視しているからです。
ここでいう「カルチャーフィット」とは、その会社がお客様を本当に大事にしているか、短期主義ではなく持続的な成長をめざしているか、といったもので、取締役会で買収の是非を議論する際も重要なテーマになっています。実際に、当社グループの海外トップマネジメントは保険引受や資産運用といった分野に長けており、当社は彼らの専門性に大きな期待をしているわけですが、何より彼ら自身が、"To Be a Good Company"の理念をよく理解し、当社グループ全体へのコントリビューションに熱心です。
また、彼らにとって、これまで培ってきた経験や考え方を認めてもらえることはとても嬉しいことだと思います。これは、私も社長でしたから良く分かります。
つまり、当社のPMIプロセスには、「同じ理念を持つ会社同士が一緒になり、ノウハウを共有し合うことで、次第に同化していく」というメカニズムが組み込まれているということだと思います。当社にとってのM&Aは、利益の拡大やリスク分散といった財務的な成果を得るだけではなく、ノウハウや企業文化の吸収、人材育成への活用と、まさにそのうま味を骨の髄までしゃぶり尽くしている印象ですね。(笑)
大槻
(笑)確かにその通りだと思います。買収後の統合フェーズで注意しなければいけないもののひとつとして、買収会社と被買収会社間の関係悪化リスクがありますが、当社は、このリスクに対するマネジメントが非常にうまいと感じています。
三村さんが言われた同化メカニズムが存在することによるものだと思いますが、私が知っている例は、社内イベントの音楽コンサートに海外のトップマネジメントを招待するというものです。そこでグループCEOが参加者に向けて彼らを紹介するのですが、こういったきめ細かなおもてなしの心も同化のプロセスに一役買っていると思います。
また、私が当社の米国現地法人を訪れた際には、幹部候補社員向けの研修の一環で、"Good Company"をイメージした絵を描く取り組みが行われていました。絵を描くことを通じて"Good Company"とは何かを深く考えるきっかけを提供する試みで、コア・アイデンティティの浸透に向けた素晴らしい取り組みです。ちなみに、去年と今年とで絵の中身が全然違っていたのですが(笑)、その年ごとの米国の流行などを表しているのか、興味深いですね。

社会課題の解決は、従業員の働き甲斐・モチベーションアップにも直結
価値提供の原動力である従業員の力で、私益・公益両面で更なる高みをめざしてほしい

三村
当社4万人の社員のうち約75%が回答したアンケートに「東京海上グループで働いていることを誇りに思っている」という質問があったのですが、回答は5段階中4.1点という結果になりました。多くの社員が高い評価を付けた背景には、彼らが仕事を通じて社会のお役に立てていることを実感していることもあるのではないでしょうか。私は、事業活動を通じた社会課題の解決は社員の幸せにも直結していると信じています。
大槻
2018年は多くの自然災害が発生しましたが、お客様への迅速な保険金支払いのために、全国各地から延べ5万人を超える社員を動員し、対応にあたりました。その中には、自ら手を上げて応援に向かった社員もかなり多かったと聞いています。
また、全国の小学校で、地震や津波の起こる仕組みや備えについて分かりやすく説明する「ぼうさい授業」を社員が自発的に行い、受講者数は約4万人、実施回数は延べ500回を超えています。
こうした社員一人ひとりの行動は、"To Be a Good Company"という東京海上グループのコア・アイデンティティが浸透している証拠です。今後も、コア・アイデンティティの浸透に向けた取り組みを通じて、社員の働き甲斐やモチベーションを高め、私益・公益両面で更なる高みに到達することを期待しています。