大阪・関西万博「ミライの防災・減災」フォーラム 現地レポート -阪神淡路大震災から30年、東京海上グループが示した「保険の枠を超えた防災・減災」-
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2025年8月10日、大阪・関西万博会場内のテーマウィークスタジオにて東京海上日動火災保険株式会社*1主催の「ミライの防災・減災」フォーラムが開催されました。
以下、現地で取材を行ったジャーナリスト小町ヒロキ氏のレポートで、当日の様子をお伝えします。

東京海上ホールディングス専務執行役員の生田目雅史氏、神戸市長の久元喜造氏、公益財団法人 大阪観光局理事長の溝畑宏氏による講演と、ICEYE社*2、日本工営株式会社*3、タイトレック株式会社*4の3社による最新防災技術のプレゼンテーションが行われました。
阪神淡路大震災から30年、大阪万博で防災を語る意義
阪神淡路大震災から30年という節目の年に、最新テクノロジーと各国文化が融合する万博で、損害保険会社が革新的な技術により激甚化する自然災害に立ち向かう姿を示すことは大きな意義があります。
今回のフォーラムには業界関係者だけでなく一般来場者も多数参加し、万博グッズを身につけた万博ファンの姿も。会場はほぼ満席となり、その熱気は防災への関心の高さを物語っていました。とりわけ、阪神淡路大震災という未曾有の災害を経験したこの地域だからこそ、災害対応に対する感度が高いことを実感しました。
損害保険会社の役割は「事後の補償」というイメージが覆された
そんなことを感じながら、改めて災害時に損害保険会社が果たす役割について考えてみると、まず思い浮かぶのは、損傷した家屋や自動車に対する保険金といった「事後の経済補償」。実際に筆者である私も、損害保険会社は何かしらの事故やトラブルが発生した際に必要とされる存在だというイメージを持っていました。
しかし、今回のフォーラムを通じて、その認識は大きく覆されることになります。
自然災害大国の日本だからこそ、未来社会に貢献できる
いよいよフォーラムの開始時間。会場のモニターにはオープニング映像が映し出されました。
「日本はこれまでにも数多くの災害を乗り越えてきた。その日本で事業を行っている我々は、これまでの災害対応の経験に最先端テクノロジーを融合させることで、強靭で持続可能な未来社会に貢献できる」
力強いメッセージとともに、「ミライの防災・減災」フォーラムがスタートします。
三者三様の防災・減災への想い
「自然災害は、人間の能力をはるかに超えた次元で起こってしまうため、これまでに人類の無力さに直面するシーンも多くあった。だからといって、人類はこの自然災害に対して、このまま無力であっていいのだろうかという問題意識を私たちは強く感じている」
この問いかけこそが、まさに今回のフォーラムの核となる部分だと感じました。
「人知を超えたリスクに対するアプローチの一つが、科学技術やデータテクノロジーの力を使うことです。テクノロジーの力を十分に活用しながら、我々人類にとって価値のあるものにしていく不断の努力をしていきたい」

万博の広報・PRのため、会期中着用している公式キャラクター・ミャクミャクのかぶり物をこの日もつけて登場した溝畑氏を見て、会場は笑いに包まれるシーンもありました。
これまでに9回もの被災経験を持つ溝畑氏は、12歳での水害体験、阪神淡路大震災での親友の死、関空台風被害での訪日外国人避難問題など、数々の実体験から得た教訓を語ります。
そして、今回のフォーラムの意義をこう強調しました。
「これだけ多くの災害を経験した日本の防災ノウハウを、日本のみならず世界に共有していく。これが本フォーラムの最大のミッションだ」

神戸市では震災翌年から災害に強いまちづくりを推進。大容量送水管の整備や防潮鉄扉の設置など、ハード面での対策を約15年かけて整備したと言います。
そして、今後の防災のあり方について力強くこう締めくくりました。
「今後は防災におけるDX化をさらに推進し、自治体間の連携強化を図っていく。レジリエントな都市、レジリエントな社会、レジリエントな日本にしていくことが求められている」

人工衛星を活用し、精緻な解析データを提供
最初に登壇したのは、フィンランドの衛星ベンチャーICEYE。
渡部氏はICEYEが提供するレーダー衛星の最大の強みは、光がなくても観測が可能で、雲や煙といったものが上がっても透過して観測ができること。そのため、24時間365日にわたって安定した観測ができるという特徴があるという。
「洪水解析では、気象データ・川の流量情報・地形データ・災害時のSNSへの投稿などを可能な限り集め、AIなどを活用しながら、浸水の現状をなるべく早く正確に分析したマップを作っている」

また、渡部氏は東京海上グループとの協業の経緯についてこう語ります。
「ICEYEで自然災害ソリューションを作るというときに、一番初めに協業のお申し出を頂いたのが東京海上日動さん。2020年から約5年間にわたり、一緒にソリューションを作ってきた」
さらにICEYEは、将来への取り組みとして地震・津波解析への展開も進めているとのこと。会場には、ICEYEの最先端の技術についてメモをとりながら熱心に聞いている来場者の方も目立ちました。
建設コンサルのリーディングカンパニーが開発した「リアルタイム災害情報把握システム」
内山氏は日本工営の持つ革新的なソリューションを紹介しました。
まずは堤防越流シミュレーション。3Dディスプレイを使って災害状況を把握できる技術を紹介。河川水が住宅街に浸水していく様子をリアルに再現した映像は大きなインパクトがありました。

そして、特に注目を集めたのは「リアルタイム災害情報把握システム」です。従来は複数のサイトで確認していた作業を一つの画面にまとめて効率化し、15時間先までの河川水位予測も可能にしているという。
実際のシミュレーション画像は非常にリアリティがあり、日本工営の高い防災技術を実感する発表でした。
ドローン測量による3D解析×4Dシミュレーション
山口氏は「実際に全国各地で起きた災害現場に行って、災害復旧復興の工事に長年携わってきた。被災地により近い目線で、現場第一主義の生きた技術として災害復旧復興に貢献していきたい」と語りました。
東京海上日動との協業で実現した福岡県飯塚市での実証実験では、「手書き感覚で即座に3D道路設計と土量計算ができる独自アプリを活用し、スピーディに複数の仮設道路を計画することに成功しました」とのこと。
また、実際の災害予防効果が出た事例も紹介されました。

「センサー搭載のドローンを用いて3D解析を行い、時間軸を付加した4Dシミュレーションとして浸水状況を再現し、対策案の洗い出しを実施。数年後に同地区で似たような災害が発生しましたが、対策箇所は浸水せず、災害を防ぐことができた」
未来の防災・減災のソリューションの必要性を強く感じている山口氏の熱い想いが込められた発表でした。

各社のプレゼンテーション後には、登壇者とのディスカッションの時間が設けられました。
溝畑氏は熱心にメモを取りながら聞いており、3社の技術力の高さに強い関心を示していました。また、久元氏からは技術力の高さへの驚きとともに、過去の歴史的な知見とかけ合わせることの重要性についてコメントもありました。
ディスカッションの中では「連携」というキーワードが何度も聞かれ、技術の可能性と実用化への期待が高まっているのが感じられる時間となりました。
こうして約2時間にわたるフォーラムは幕を閉じました。
東京海上ホールディングス 生田目氏、大阪観光局理事長 溝畑氏、神戸市長 久元氏による講演に続き、ICEYE、日本工営、タイトレックの3社が最新防災技術を発表。人工衛星による災害監視やAIを活用したリアルタイム解析、ドローン測量による予測シミュレーションなど、最先端テクノロジーと長年蓄積された防災ノウハウが融合した事例が数多く紹介されたフォーラムでした。
自然災害で亡くなる方が1人でも少なくなることを目指して
内山氏は、2011年に発生した東日本大震災での避難所体験について詳しく語ってくれました。福島への出張中に被災した内山氏は、地域防災計画に位置づけられた住人向けの避難所とそうではない一時滞在者向けの避難所との設備格差を痛感。このような被災の経験が、現在の防災技術開発への強い動機のひとつとなっているという。
「東京海上グループに加入してから、多くの方々に当社の技術やノウハウを提供できるようになった。今後も東京海上グループのネットワークを活用して、これまで届かなかった企業にもアプローチしていきたい」
そして、防災・減災への強い想いについて語りました。
「自然災害で亡くなる方を1人でも少なくしたい。そのために、防災意識の醸成という点で、一人ひとりの意識を向上させることが重要であり、企業としてもそういった部分を積極的に打ち出していきたいと考えている」

「これはあくまで出発点」ー万博で示した防災・減災への新たな決意ー

生田目氏は今回のフォーラムについて、「万博という場から世界に向けて発信することができたのは、大変意義深いことだった」と手応えを語りました。
さらに「防災・減災というテーマは決して一つの企業、一人の個人だけの問題ではなく、社会の普遍的な課題。それぞれの強みをかけ合わせること、組み合わせること、そして連携をさせることによって、より創造的な自然災害に対する解決策ができるのではないか」と話します。
「防災・減災は世界の普遍的なテーマであり、我々東京海上グループがグローバルに持っているプラットフォームの中でも、極めて高い優先順位を持つ取り組み領域。当社がこれまで築き上げてきたグローバルネットワークの中でこそ、防災・減災の取り組みが最大の効果を発揮すると考えている。今日はあくまで出発点であり、今日登壇していただいた皆様をはじめ、これからもさまざまな方々との連携を深めていきたい」
災害大国である日本のノウハウを世界へ
私にとって、これまでの東京海上のイメージは「伝統的で堅実な損害保険会社」でした。しかし、今回のフォーラムで目の当たりにしたのは、そのイメージを大きく変える取り組みの数々です。
保険金支払いという「事後対応」から、災害予測・予防という「事前対応」へ。保険会社として東京海上日動が1世紀以上蓄積してきたノウハウに、最先端のテクノロジーをかけ合わせることで生まれる新たな防災の「カタチ」。これは一企業の事業戦略ではなく、日本が世界に示すべき災害対策のモデルケースになり得るかもしれません。
阪神淡路大震災から30年。その間に蓄積された経験と教訓、そして最先端のテクノロジーが融合することで、災害大国である日本のノウハウが世界の希望に変わっていくことを期待しています。
東京海上グループの保険の枠を超えた挑戦は、まだ旅の途中とのことです。この取り組みが日本の防災・減災分野、そして世界の災害対策に大きなインパクトを与えていくことを期待してみたい。そんなことを感じさせてくれるフォーラムでした。

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*1東京海上日動火災保険株式会社
1879年創業の日本初の保険会社であり、グローバルに事業展開する東京海上グループの中核会社。損害保険をコア事業に、保険の事前と事後で顧客を支えるソリューション事業を組み合わせ、社会課題解決に取り組んでいる。防災・減災領域においては、防災コンソーシアムCOREを発起し、業界の垣根を超えたソリューション開発を推進している。 -
*2ICEYE
フィンランドに本社を置く小型衛星の製造を行う企業として2014年に設立。2025年8月時点で計54基の衛星を打ち上げ、SAR衛星のコンステレーションとして世界最大規模を誇る。2022年に東京海上グループが資本業務提携を行い、災害対応分野でのソリューション開発を進めている。 -
*3日本工営株式会社
インフラの整備・維持に関わる事業を展開する建設コンサルティング業界のリーディングカンパニー。高い技術力を有し、国内建設コンサルティング業界における売上高はトップクラス。東日本大震災や能登半島地震の復旧・復興支援など、災害に強い国づくり・まちづくりに取り組んでいる。 -
*4タイトレック株式会社
福岡県に本社を持つ建設コンサルティング企業。ドローンを用いた3Dシミュレーション技術に強みを持ち、東京海上グループもパートナーとして共に実証実験の実績を積んでいる。同社は「地方創生に資する金融機関等の『特徴的な取組事例』」として地方創生担当大臣の表彰も受けている。
小町 ヒロキ(こまち ひろき)
1992年埼玉県生まれ。金融機関での法人営業の経験を活かし、2020年にジャーナリストとして独立。企業のビジネスモデルや経営課題への深い理解を強みとし、これまでに300社を超える企業インタビューを実施。2024年に株式会社KAZAMIDORIを設立。早稲田大学政治経済学部卒業。