事業等のリスク

当社グル-プでは、中期経営計画を推進していくための経営基盤として「リスクベース経営(ERM*1)」に取り組んでいます。具体的には、「リスク」・「資本」・「利益」の関係を常に意識し、リスク対比での「資本の十分性」や「高い収益性」を実現することにより、企業価値の持続的な拡大を図っていきます。「資本の十分性」に関しては、AA格相当の資本を維持する方針とし、「高い収益性」に関しては、資本コスト*2(7%)を上回る資本効率を実現し、中長期的に12%程度のROEをめざしています。
当社はリスクベース経営(ERM)を基軸とし、健全性を維持しつつ、デジタル戦略によるビジネスモデル変革や保険本業の収益力向上およびグループシナジーの取組み等により「成長と安定的な高収益」を実現するとともに、生みだされた利益・資本を事業投資や株主還元の充実といった「資本の有効活用」に振り向け、それを次のさらなる成長に繋げることをめざしています。

  • *1 ERM:Enterprise Risk Management
  • *2 資本コスト:投資家が投資先企業に期待する収益率のことをいいます。当社グループでは、CAPM法(資本資産評価モデル)により算出しており、成果指標の策定や事業投資の判断に活用しています。

また、当社グループでは、リスク軽減・回避等を目的とした従来型のリスク管理にとどまらず、リスクを定性・定量の両面のアプローチから網羅的に把握したうえで、これらのリスク情報を有効に活用し、当社グループ全体の「リスク」・「資本」・「利益」を適切にコントロールしています。
なお、本項においては、将来に関する事項が含まれておりますが、当該事項は2022年3月期有価証券報告書提出日現在において判断したものです。

(1)定性的リスク管理

定性的リスク管理においては、環境変化等により新たに現れてくる「エマージングリスク」を含めたあらゆるリスクを網羅的に把握して経営に報告する態勢としており、グループを取り巻くリスクについて随時経営レベルで論議を行っています。
こうして把握したリスクについて、経済的損失額や発生頻度といった要素だけでなく、業務継続性やレピュテーションの要素も加え、総合的に評価を行い、グループ全体またはグループ会社の財務の健全性、業務継続性等に極めて大きな影響を及ぼすリスクを「重要なリスク」として特定しています。

エマージングリスクの洗出しと重要なリスクの特定プロセス

[エマージングリスク]環境変化等により新たに現れてくるリスクであって従来リスクとして認識されていなかったもの、あるいは、リスクの程度が著しく高まったもの。グループの「エマージングリスク」の候補:前年度のエマージングリスクおよびその候補。各事業部、主要グループ会社のエマージングリスク。新たに洗い出したエマージングリスクの候補。 スクリーニング:影響度、対応状況、リスクの高まりを踏まえスクリーニング → グループの「エマージングリスク」|[重要なリスク]財務の健全性、業務継続性などに極めて大きな影響を及ぼすリスク。グループの「重要なリスク」の候補:前年度のグループの重要なリスク。グループのエマージングリスクのうち影響度の大きなリスク。 マトリックス評価による特定:「損害規模」×「頻度・蓋然性」のマトリックス評価による特定。 → グループの「重要なリスク」

2022年度の重要なリスクと主な想定シナリオ

重要なリスク 主な想定シナリオ
国内外の経済危機、金融・資本市場の混乱
  • リーマンショック級の世界金融危機が発生し、当社グループ保有資産の価値が大幅に下落する。
  • ウクライナ情勢のさらなる悪化・長期化やその他地政学リスクの顕在化等により金融・資本市場の混乱が生じ、当社グループ保有資産の価値が大幅に下落する。
日本国債への信認毀損 政府の信用力低下により日本国債が暴落し、当社グループ保有資産の価値が大幅に下落する。
巨大地震
  • 首都直下地震の発生により、多額の保険金支払が発生する。また、当社グループの事業継続に重大な影響が生じるほか、当社グループ保有資産の価値が大幅に下落する。
  • 南海トラフ等の海溝型巨大地震により、多額の保険金支払が発生する。また、当社グループの事業継続に重大な影響が生じるほか、当社グループ保有資産の価値が大幅に下落する。
巨大風水災*3
  • 日本で巨大台風や集中豪雨による大規模な風水災害が発生し、多額の保険金支払が発生する。また、当社グループの事業継続に重大な影響が生じる。
  • 同一年度に複数の巨大ハリケーンが米国東海岸に上陸し、多額の保険金支払が発生する。
火山噴火 富士山の大規模噴火による多量の降灰により、広範囲で交通網寸断、停電、通信障害等が発生し、首都機能が麻痺する。また、当社グループの事業継続に重大な影響が生じるほか、当社グループ保有資産の価値が大幅に下落する。
パンデミック
  • 新たな感染症の蔓延により多くの人が亡くなり、多額の保険金支払が発生する。また、当社グループの事業継続に重大な影響が生じるほか、当社グループ保有資産の価値が大幅に下落する。
  • 現在の新型コロナウイルスの感染の状況が数年間継続し、世界経済が低迷する。当社グループ保有資産の価値が大幅に下落する。
革新的新技術による産業構造の転換
  • コネクティッドカー、自動運転、カーシェアリング、電気自動車等の普及により、自動車保険を中心に収益が減少する。
  • 異業種の企業が保険業界に新規参入し、個人マーケットを中心に当社グループの営業基盤を侵食することで、収益が減少する。
  • 当社グループがデジタルトランスフォーメーションやwith/afterコロナ時代の環境変化への対応の遅れから競争優位性を失い、収益が減少する。
サイバーリスク
  • サイバー攻撃により当社グループのシステムや販売チャネルのシステムで障害が発生し、当社グループの事業継続に重大な影響が生じる。また、レピュテーショナルリスクの顕在化によって企業価値を毀損する。
  • 顧客企業においてサイバー攻撃による被害が急増し、多額の保険金支払が発生する。
テロ・暴動 当社グループの重要拠点近くで大規模なテロや暴動が発生し、当社グループの事業継続に重大な影響が生じる。
コンダクトリスク 当社グループや保険業界の慣行が世間の常識と乖離して不適切な企業行動とされ、レピュテーショナルリスクの顕在化によって企業価値を毀損する。
法令・規制への抵触 当社グループの取引きが国内外の法令・規制に抵触し、監督当局に対して多額の課徴金や和解金の支払いを余儀なくされる。また、レピュテーショナルリスクの顕在化によって企業価値を毀損する。
  • *3気候変動の影響により頻発・激甚化する可能性がある。

なお、エマージングリスクとしては、例えば以下のようなリスクを含めてモニタリングし、経営レベルで論議しています。

  • 1.「人材の獲得競争激化」:最新のIT・AIスキルを持った人材や優秀な新卒社員の獲得競争が激化するリスク、およびコロナ禍による勤務形態の多様化等により優秀な人材が流出するとともに採用が困難になるリスク
  • 2.「革新的新技術の制御不能リスク」:革新的新技術について、それらに対する制御が不十分なために利用企業で損害や第三者を巻き込む事故が発生・増加するリスク
  • 3. 「医療・生命工学の革新的な進化」:がん診断技術や遺伝子診断技術が革新的に進化し、それに伴って医療費が増加するリスク
  • 4. 「世界的に広がる人権保護に関するリスク」:世界的な人権意識の高まりや経済安全保障の取組みにより、意図しないかたちでステークホルダーの人権侵害等を行ってしまい、その結果として社会的批判を受けたり、特定の国や地域において事業展開に制約を受けたりするリスクク

(2)定量的リスク管理

定量的リスク管理においては、格付の維持および倒産の防止を目的として、保有しているリスク対比で資本が十分な水準にあることを多角的に検証しています。
具体的には、リスクをAA格相当の信頼水準である99.95%バリューアットリスク(VaR)で定量評価し、実質純資産*4をリスク量で除したエコノミック・ソルベンシー・レシオ(ESR)の水準により、資本の十分性を確認するとともに、事業投資機会や今後の市場環境の見通し等も総合的に勘案して資本政策を決定しています。
当社グループのESRのターゲットレンジは100~140%ですが、2022年3月末時点におけるESRは128%となり、資本が十分な水準にあることを確認しています。
更に、定性的リスク管理において特定した「重要なリスク」のうち、経済的損失が極めて大きいと想定されるシナリオおよび複数の重要なリスクが同時期に発現するシナリオに基づくストレステストを実施することにより、事業継続および破綻回避の検証を行い、資本の十分性および資金の流動性に問題がないことを確認しています。

  • *4 実質純資産:財務会計上の連結純資産に、異常危険準備金の加算やのれんの控除等の調整を加えて算出します。
[エコノミック・ソルベンシー・レシオ(ESR)の状況]128%:2022年3月 リスク 3.3兆円、実質純資産 4.2兆円 エコノミック・ソルベンシー・レシオ(ESR)をベースとした資本政策 ESR:更なる事業投資, and/or、追加的リスクテイク, and/or、株主還元 を実施。 140%~100%(Target Range):更なる事業投資, and/or、追加的リスクテイク, and/or、株主還元 を柔軟に検討。 100%:利益蓄積による資本水準の回復をめざす、リスク抑制的な事業運営により、リスク水準の抑制を図る。リスク削減の実施、資本増強の検討、株主還元方針の見直しの検討。

(3)BCPの策定

重大な災害が発生した場合においても、重要業務を継続し早期復旧を図るため、災害に関するBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)を策定するとともに、定期的に訓練を実施するなどして備えています。