小さなスタートからの成長物語 — 再生可能エネルギー保険市場の進化
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再生可能エネルギーが世界の総発電量に占める割合は、2023年の30%から、2030年には46%まで拡大すると予測されています。風力発電、太陽光発電業界は活況を呈しており、新たに誕生したテクノロジーが秘める可能性は、世界のエネルギーの未来を体現すると同時に、各国が目指すネットゼロ目標の実現を支える力となります。再生可能エネルギーがここまで進化していることを考えると、つい20年前にはその技術が初期段階でほぼ潰れかけていたとは、信じがたいことでしょう。そう言えるのは、私が実際当時の状況を体験しており、この業界の動きに最初から携わってきたからです。
現代の再生可能エネルギーの歴史は、1980年代にカリフォルニアの砂漠地帯の奥地にあるカバゾン、モハーヴェ、サンゴルゴニオパスといった場所から始まりました。酷暑な気候であるためほとんど植物は育ちませんが、丘陵を形作ってきた強い風が、エネルギー不足に悩むこの国にチャンスを運んできました。こうした砂漠地帯が、初期の風力発電にとっては理想的な場所だったからです 。
当時、石油危機の余波が残る中で導入された米国の連邦および州の税制優遇措置の恩恵を受け、風力発電プロジェクトへの投資が急増しました。特にカリフォルニア州では、ゴールドラッシュの再来を思わせるものであり、風力セクターには投資家が殺到しました。初期の風力タービンはほとんどが三枚羽仕様で、今日の風車と似通っているものの、設計に大きな違いがありました。当時のタービンは現在よりもかなり小さく、発電容量はわずか200~300キロワットであり、数メガワットの発電する今日のものとは大きく異なります。また、ダウンウィンド方式の風車もあれば、現在のタービンと同様のアップウィンド方式のものも存在していました。産業の活性化に貢献するために導入された税控除の制度設計には問題があり、投資家への税制優遇は、タービンが実際に機能するか否かにかかわらず認められていました。このような運用面での基準の欠如は、不良タービン設計の増加を招く事態となり、発電できない、頻繁に故障する、そもそも動かないといったタービンも少なくありませんでした。
保険業界は、この新興セクターをサポートし利益につなげるべく、幅広い保険カバーを提供しました。そして市場の引受能力の拡大に伴って、保険料も下がっていきましたが、保険の対象となる技術や業界についての保険会社の理解は十分とは言えませんでした。そのため必然的に、損失も増加し始めました。90年代初頭には、再生可能エネルギービジネスは採算が取れないとの判断から、多くの保険会社がこのセクターから撤退しました。特殊リスクの保険を引受ける頼みの綱であるロイズですら、引受意欲を失っていました。
当時の私は、ロイズのブローカーでした。カリフォルニアの風力発電のリスクをロンドンに持ち込み、保険カバーを手配しようとライムストリート1番地のロイズ本社ビルに通う日々は、引受拒否の対応を学ぶ訓練といえるものでした。再生可能エネルギーのリスクを扱おうとする者は、誰もいませんでした。しかしながら懐疑的な見方が広がる中でも、私はこの市場の将来性を確信しており、それを証明しようと決意を固めたのでした。

市場の再構築
そこで私は、カリフォルニア州ニューポートビーチの連絡窓口と連携し、信頼できる再生可能エネルギー保険市場をゼロから再構築しました。スタートした当時は、再生可能エネルギーの将来性に対する個人的信念と、違うやり方を追求するという自分自身への誓いだけが頼りでした。
私たちは一つずつ丁寧に進めました。メーカーを分析し、信頼できる技術を特定し、高い品質を有するプロジェクトの引受に注力しました。提示する条件や十分な保険料率の必要性は厳格に管理しました。私たちは、風力発電所を文字どおり一つ一つ訪ねました。砂漠の灼熱の中、発電所の門戸を叩き、事業者に直接保険を販売しました。その際に重視したのは、実証可能なポテンシャルを持つ優れた開発事業者のポートフォリオを構築することです。それは、時間のかかる、苦労の多い、汗まみれの仕事でした。後にThe AES CorporationとなるSeaWest WindPowerや、現在のEDF Renewablesへと成長した enXcoなど、徐々に主要なメーカーとの関係構築が実現するようになりました。主にデンマークやドイツの実績あるメーカーを対象に、カスタム仕様の保険ソリューションを提案しました。
このような努力にも関わらず、依然として保険カバーを得るのは至難の業なことでした。保険市場はすでに焼け野原となっており、アンダーライター(保険引受人)もまったく関心を示しませんでした。もう一度挑戦してみようという気概があり、私たちの話に耳を傾けてもらえたアンダーライターから、数百万ドルの引受能力をかろうじて集めるのがやっとのことでした。
ところがある日、Kiln社のCharles Franksから電話がかかってきました。当時の彼はエネルギー担当のアンダーライターで、その後CEOになった人物です。Charlesは、私がロイズで風力発電保険の手配を試みていたことを知っており、関心を持っていました。そして、ある新聞記事を目にして、それは所謂エネルギーリスクではないものでしたが、詳しく話を聞きたいとのことで、私は即座に、企画書とプレゼンテーションを用意して彼のオフィスを訪ねました。
Charlesには、このビジネス全体について説明しつつ、その技術、そして風力発電プロジェクトについて保険市場で広く受け入れられている知識がなぜ誤っているかを説明しました。メーカー間の差、つまり実績の裏付けがあるタービンとそうでないものとの評価が不十分であるという話もしました。Charlesは、じっくりと耳を傾けてくれましたが、自分自身は海洋石油・ガス開発を専門とする海上分野のアンダーライターだと言いました。彼は、陸上発電の引き受けは行っておらず、興味があるのは当時まだ実現には程遠い技術であった洋上風力発電だということでした。
私は、意気消沈して帰路につきました。
しかしその翌日、Charlesから再び電話がありました。私が説明したコンセプトについて、陸上風力担当の同僚たちと話をし、再考したとのことでした。Charlesは、本質的には「エネルギー」のリスクであるということで、仮ではあるものの再検討に合意してくれました。私たちは、陸上風力発電事業用に、保険引受能力3,000万ドルの小規模なアンダーライティングファシリティを設けました。規模こそ控えめですが、大きな前進でした。カリフォルニアの風力発電業界が、ついに必要な保険を確保できるようになったのです。そして、この市場で保険を提供しているのは私たちだけでした。この優位なポジションを得たことで、事業も着実に成長していきました。
こうして、初期段階である程度の成功を収めたとはいえ、私たちの前には依然として大きな障壁が立ちはだかっていました。再生可能エネルギー開発事業者にとっては、調達可能な保険が登場した一方で、リスク毎に細切れになった保険商品は扱いづらいものでした。再生可能エネルギー開発事業者にとっては、保険会社のサイロ化されたリスク分類に基づくビジネスオペレーションにはそもそも関心がないのだということに、私たちもすぐに気付きました。開発事業者が求めていたのは、プロジェクトを開発・運用するための包括的な補償でしたが、当時提供されていたソリューションは複数の保険種目にまたがっていることが多く、そこから生じる補償のギャップに対し、事業者は不満を抱えていました。
転機となったのは、開発事業者のチームとのある日の会合でした。私はスーツとネクタイで参加したのですが、彼らは短パンにTシャツだったのです。私が保険商品や保険市場の原理について話す一方、彼らが関心を寄せていたのは、一つの国から部品を調達し、別の国からの投資を取り付けてプロジェクトを実現させるにはどうすればよいかということでした。いわば、彼らと私は全く異なる言語を話していたわけです。保険市場の複雑な細部の話は、彼らの関心の対象外でした。この気づきから、私たちは、いわゆる「ゆりかごから墓場まで」の包括的契約を導入して、海上、建設、操業、機械故障、賠償責任、操業開始の遅延などのリスクをカバーする保険を一つのパッケージにまとめる方式へと切り替えました。
このアプローチは、再生可能エネルギーの開発事業者や電気事業者の共感を得るものでした。ただし、保険市場からの共感は得られませんでした。私は幾度となく、このアイデアとコンセプトはきっと失敗に終わるだろうと言われました。「保険市場の仕組みにそぐわない方式だね。石油やガスのように、儲かるやり方に変えるべきだ。ばかげたことはもうやめるべきだ。」と、かつての上司にきつく言われたことを今でも思い出します。それでも、私の決意は揺らぎませんでした。補償のギャップをなくし、保険の手続きを簡素化することで、資金の確保に必要な確実性を提供することが可能になるのです。このやり方は状況を変えるゲームチェンジャーとなり、今日まで続く制度の土台となっています。
この時点では、私はまだブローカーでしたが、この分野のリスクに対する理解を活かして、さらに包括的な商品を開発することに関心が向くようになり、アンダーライティングの仕事にたどり着いたのです。私は、保険料率やリスクプレミアム、契約内容を考えて、KilnのCharlesのもとにアイデアを持っていきました。この時も、彼が変化をもたらしてくれました。すなわち、私のキャリアにおける変化です。彼は、単刀直入に言いました。「選択が必要ですね。アンダーライターとブローカー、どちらでやっていきたいのですか?両方はできませんよ!」と。
そして私は、前者になることを選びました。Kilnからの支援を受けて、私はアンダーライティング保険総代理店を立ち上げ、後にGCubeという社名を付けました。Gはグリーンを表しており、Cubeは、6種類のグリーンエネルギー(風力、太陽光、バイオマス、波力、潮力、水力)を6つの辺とする立方体を意味します。創業当初のGCubeが、ロンドンとカリフォルニアの2拠点でわずか7人の体制であったことを考えると、隔世の感があります。
この20年ほど、再生可能エネルギー保険市場では、供給過多と割安な保険料設定のサイクルが繰り返されており、それは需要の増加をとらえようとする新規参入保険会社が原因となっています。90年代と同様に、こうした新規参入会社の多くは、リスクを正確に評価する専門的能力を欠いており、そのことが持続不可能な慣行につながり、いくつかの案件では多額の損失を招きました。こうした状況下でもGCubeが存続できたのは、このセクターについての理解や、これまで築いてきた長期的な関係のおかげでした。
2020年、Barry CookとSimon Buttonが描いたビジョンのもと、GCubeはTokio Marine HCC社に買収されました。この時点でGCubeは、38か国で2,000を超えるプロジェクトを扱う、市場のリーダー企業となっていました。私たちの長年のパートナーであったKilnもその数年前に東京海上グループに加わっており、まさにCharles Franksのリーダーシップの下でTokio Marine Kilnになっていたことを考えると、この買収は、円環を成した瞬間だったと言えます。
課題と機会
今日、再生可能エネルギー向け保険市場は、新たな重要な局面を迎えています。見違えるほどの成長と進化を遂げたこのセクターですが、一方で、地政学的変動、経済の不確実性、そして投資家マインドの変化により、市場の状況は絶えず変化しています。欧州では、ウクライナでの戦争により、大陸内での輸入化石燃料への依存が浮き彫りとなり、エネルギー自給が重要課題となっています。世界規模では、インフレの悪化や金利の上昇によって大規模プロジェクトのコストが大幅に上がり、資本アクセスが懸念の中心的懸念となっています。地政学的な緊張に起因するサプライチェーンの混乱が、プロジェクトの工期に影響を与える状況も続いています。同時に、異常気象のリスクを軽減するはずの再生可能エネルギーは、気候変動の悪化がもたらす影響を一段と強く受けるようになっています。
こうした多くの課題があるにも関わらず、世界の再生可能エネルギーの生産容量は増加し続けており、洋上風力発電は、新たな市場を形成するまでに拡大しています。浮体式洋上風力発電も、勢いを増しています。この方式では、海底に固定される従来の着床式洋上風力発電と同じタービンを使用しますが、海底ではなく、係留線とアンカーによって海底につなぎとめられる浮体構造物に取り付けられているのが特徴です。バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)は、今やあらゆるエネルギー戦略の重要な柱となっていますが、特に再生可能エネルギーである太陽光発電においては、一日のどの時間でも電力供給を安定させるのに用いられています。グリーン水素については、コンセプト段階から商業化へと移行する兆しが見え始めており、CO2の回収および貯留については、政策による支援が増えつつあります。
この市場は移行の真っ只中にあり、適応力と革新性がカギを握ります。従来のアンダーライティングモデルも、新たな展開を反映するものへと進化する必要があり、アンダーライターには、再生可能エネルギーに留まらない発想を持ち、より広義のグリーントランスフォーメーションの領域で機会を活かすことが求められます。
グリーントランスフォーメーションの未来について
今後は、風力や太陽光の単独プロジェクトよりも、ハイブリッド型プロジェクト、セクターの融合、そして統合型エコシステムといった、エネルギーの生成、貯蔵、消費のあり方を変革するプロジェクトが重要になっていきます。エネルギー貯蔵、産業における脱炭素化、電力網の近代化、持続可能なインフラといった要素が果たす役割は、ますます重要になっています。保険会社である私たちの役割も、リスクの軽減に留まらず拡大し続けていきます。保険会社には、より環境に優しく、よりレジリエンスのある世界の実現に必要な技術とインフラへの投資の促進に貢献することが求められます。脱炭素化社会への移行は、大きなビジネスポテンシャルをもたらす一方、その巨額の事業となります。この分野が持つモメンタム、フォーカス、そしてコミットメントは世界的に高まっており、私たちも取り組みを強化していく必要があります。
この状況に対応すべく、東京海上グループではTokio Marine GX(TMGX)を立ち上げました。脱炭素化に向けた具体的な取り組みの実現を目指し、複数セクターにわたって事業展開する企業をターゲットに新たな専門的提案を行うプロジェクトです。TMGXでは、東京海上グループの持つ専門知識とリソースを最大限に活用し、市場をリードする保険パートナーとして、お客様を支援します。
グリーントランスフォーメーションは、気候変動を食い止めるために不可欠であるだけでなく、今後数十年にわたる経済的な機会です。脱炭素化を達成するためには、イノベーション、協働、そして何よりも重要な要素として、長期的な視点が必要です。これを正しく実行することで、私たちのビジネスを成長させながら、同時に、よりクリーンで持続可能な将来への進歩を加速させられるというユニークなポジションを得ることができると考えています。
私は、今日まで40年以上、再生可能エネルギーセクターの驚異的な成長に立ち合い、その一翼を担ってきました。本当に、この歩みはまだ始まったばかりです。保険業界は、これまでに数々の大きな成功を可能にする、重要な役割を果たしてきました。そして、この新たな転換点である今、さらに多くの成功を実現させる存在になることを私たちは目指しています。