CEOレター
東京海上グループのパーパス
「お客様や地域社会の“いざ”をお守りすること」。1879年の創業時から変わらない当社のパーパス(存在意義)です。
当社は144年前に海上保険から事業をスタートしました。それ以降、関東大震災や敗戦、モータリゼーションの進展など、幾多の難局や社会構造の劇的な変化を経験してきましたが、「お客様や地域社会の“いざ”をお守りする」というパーパスを起点に、保険本業を通じて時代ごとに変化する社会課題に対峙し、その解決に取り組んでまいりました。逆に言えば、当社の事業の全てが社会課題解決に貢献するもの。「当社が事業を拡大すればするほど、世の中が良くなる」、そうした思いで全社員が取り組んでいます。そして、その結果として、当社も持続的な利益成長を実現し、「お客様」「社会」「株主」「社員」といった全てのステークホルダーに価値を提供し続けることができたのではないかと考えます。
2021年には、「このかけがえのない地球環境を持続可能な状態で未来世代へ引き継ぐことは私たちの責務である」という強い想いから、「お客様」「社会」「株主」「社員」に加え、「未来世代」をステークホルダーのひとつとして明確に位置付けることといたしました。勿論、全てのステークホルダーに価値を提供し続けることは、決して簡単ではありません。しかしながら、その最適解は必ずある。そう信じて、私たちはこれからも、パーパスを起点に、拡大・複雑化する社会課題を解決し、サステナブルな社会を実現していく。そして、その結果として当社自身の成長も実現し、全てのステークホルダーに価値を提供し続けることをめざしてまいります。
事業環境認識
創業から144年、今や当社はグループ利益の半分以上を海外事業が稼ぐグローバル企業に成長しました。いまや世界のどこかで何が起こっても、それは当社にとって他人事ではありません。
気候変動に伴って、自然災害は激甚化しています。ウクライナ戦争の長期化は世界の分断を更に進行させ、それに伴うグローバルなサプライチェーンの再構築や経済安全保障体制の見直しが急速に進んでいます。そして、これらも背景に、世界中でインフレが高進。米国金融機関の経営破綻にみられるように、金融引締めの影響が顕在化し、景気が下振れするリスクも高まっています。政治面、経済面、社会面、あらゆる分野でVUCAの度合いが深まっており、今や数か月先、数週間先さえ、世界がどう動くのかを見通すことが難しくなっています。
こうした事業環境を背景に、当社業績も、過去最高益を更新した2021年度からは一転、2022年度は、台風やハリケーンといった自然災害、そしてコロナなど「一過性の影響」が▲1,731億円と大きく、前年度対比▲23%となる、4,440億円となりました。しかしながら、元より保険は、「お客様の“いざ”をお支えするもの」。その意味では、2022年度は、当社の存在価値を示す“真実の瞬間”、“moment of truth”が多かった年であった、とも考えています。これらの経験を通じて、当社はまた強くなれる、きっとなる、そう信じています。
実際に、お客様からの支持のバロメーターのひとつとも言える正味収入保険料は、コロナ禍にあっても、前年度対比で+15%となる4.4兆円に。また、一過性の影響を除いた「Normalizedベースの利益」も、前年度対比+22%の6,171億円となっています。この様に、当社の実力は確実に引き上がっている、引き上げることができている、そうした1年でありました。
2022年度業績
- *自然災害の影響を平年並みに補正したものであり、2021はコロナ、北米キャピタルゲイン等、政策株式の売却益(売却額が1,000億円を超えた部分)、
2022は上記に加えて、ウクライナ戦争、南アフリカ洪水も控除
VUCAの時代でも、当社がパーパスを実現できる理由
「グローバルなリスク分散」と「グローバルなグループ一体経営」を軸とした東京海上グループの価値創造アプローチ
当社は、「リスクをお引き受けすること」が本業です。グローバルに、何かが起こることを前提に物事を考える、リスクを管理することで、健全性を確保し、お客様とのお約束はどの様な状況でも必ず守る。そうした経営を行っていく必要があります。
そして、これらを高度に実現していくためにも、「グローバルにリスク分散を実行していくこと」、これが非常に重要です。当社の安定した経営と成長を支える、「強固な基盤」としての「グローバルなリスク分散」、これは決して一朝一夕で構築できるものではありません。当社では、これまで15年以上もの歳月をかけまして、「政策株式の売却」等で創出した資本を、「M&A」に振り向け、国内損保とは相関の低い、海外保険リスクへの入替えを進めることで、リスクの拡大を抑えながら、利益成長を実現してまいりました。
大型買収は、2008年3月の英国Kilnの買収を皮切りに、米国PHLY(2008年12月)、DFG(2012年5月)、HCC(2015年10月)、Pure(2020年2月)と、ひとつ、またひとつと実行。その間にも、新興国市場への事業投資や既存事業強化を目的としたボルトオンM&Aを積極的に実行してまいりました。また、フォワードルッキングに事業を見極め「売却」も実行することで、事業ポートフォリオの最適化を追求しています。
そして、こうした「グローバルなリスク分散」の成果として、大きな自然災害や、コロナの影響が生じた年においても、会社業績へのそれらのインパクトを、3割以下に抑えることが出来ています。但し、私は、この3割という数字には決して満足していません。現時点では、分散効果は47%まで高まっていますが、更なるリスク分散に向けた取組みを進めていきたい、その様に考えています。
これに加え、当社は、「グローバルなグループ一体経営」という当社独自の強みを構築し、着実に進化させています。
当社はM&Aを通じて、当社とカルチャーがフィットし、今も成長を続ける、そうした所謂「良い会社“Good Company”」を買収してまいりましたが、その中でも、一番の成果は、高い専門性と知見を持った人材、タレント達を仲間として迎え入れることができたことだと考えています。気候変動やヘルスケアなど、社会課題、或いはリスクが、世界中で拡大、複雑化する中で、当社として、正しく課題を捉え、ソリューションを生み出し、リスクを管理する。そして、成長とガバナンスを高位に両立させる。そうした力が必要となる訳ですが、当社は、獲得した多様なタレント達を、適材適所に置く、つまり、それにふさわしい人材が事業や課題解決にあたる、グローバルに叡智を結集する。正にダイバーシティそのものですが、これにより、経営判断の質と確度、スピードを高める努力をしてまいりました。
こうした「グローバルなグループ一体経営」は、今年で8年目となりましたが、外国人執行役員の拡充や、グループ総括補佐への登用など、今もなお進化を続けており、その成果は定量面にも表れています。例えば、日本のお客様に、当社欧米のHCC(現TMHCC)やKiln(現TMK)の専門性を活かした保険商品をご提供したり、或いは資産運用に強みを有する米国DFGにグループの運用資産を委託することで、高い運用収益を獲得。こうしたシナジー創出に関する議論は、今や各社同士でも自発的に行われており、それらの結果としてシナジーの実額は$470Mにまで拡大、当社独自の価値を高めています。
そして、いま大事なことは、「グローバルなリスク分散」と「グローバルなグループ一体経営」という2つの強みを持って、今で言えば「気候変動」「災害レジリエンス」「ヘルスケア」といった社会課題の解決にしっかりとあたること。その結果として、日本を含む世界47の国と地域のローカル・エンティティ全てが、現地のお客様から断トツのご支持をいただくことです。
「当社が本業に取り組めば取り組むほど、世のため、人のためのお役に立てる、サステナブルな社会を実現できる、その結果として当社自身も持続的に成長できる」。冒頭、パーパスのパートでも少し触れましたが、この創業以来の、いわば「筋金入りだ」と言えるような取組みを、グループ全体で、グローバルに、ますます浸透させていきたい、この様に考えています。
勿論、新しい社会課題を解決するためには、当社自身のアップグレードが欠かせないことは言うまでもありません。パーパスを起点に、人的資本・知的資本といった「内部資本を強化」し、「外部パートナー(社会関係資本)との協創」も図りながら、事業活動と社会課題解決を循環させる。こうして、強みや戦略にますます磨きをかけ、課題解決力を更に高める。このサイクルを大事にし、そして絶え間なく回してまいります。
「内部資本の強化」に向けて、「D&Iの推進・浸透」や「対話型AIの活用」など、当社は実に様々な取組みを行っています。このあと担当役員(人的資本:CHRO、知的資本:CDO)からも詳細にご紹介させていただきますので、私の方からは1点だけ、人事のキャリアが長いからということではありませんが、人的資本関連の最新の取組み、TLI(Tokio Marine Group Leadership Institute)をご紹介します。TLIは、東京海上グループのパーパスの深い理解に基づき実践するグループ経営リーダーを、グローバルベースで継続的に輩出するためのプログラムで、2023年4月に創設しました。TLIには3つのポイントがあり、1つ目はこれまで実施してきた国内外のタレントマネジメントのデータを徹底活用し、TLIとタレントマネジメントを高度に連動させていくこと。2つ目は、国内外の経営陣がコミットし、自らの想いや経験を直接伝えることで東京海上グループに息づく“精神”、つまりパーパスを次世代にバトンリレーしていくこと。3つ目はグローバルリーダー育成の叡智を世界中から結集し、海外グループ会社人事も含めグローバルベースでの連携を通じて育成を図っていくことです。今後は、TLIをグループ経営リーダー育成のための“中心地”と位置付け、当社独自の体系的なプログラムを構築していきます。
また、「外部パートナーとの協創」という観点では、「災害レジリエンス」の領域で、業界の垣根を越えた防災コンソーシアムCOREによる防災・減災総合ソリューション事業の展開がいよいよこの夏から日本で始まります。参画各社の強みやデータ、ノウハウを掛け合わせ、お住まいの地域の現状把握から保険を含めた生活再建まで、防災・減災領域のバリューチェーンに対して、一気通貫のソリューション提供をめざします。また、米国では、ハワイ大学と共同でコンドミニアム老朽化対策等のリスク改善プログラムの提供を検討しています。更に中国でも、健康増進コンソーシアムを組成し、中国国民の健康寿命の延伸に向けて、業界の垣根を越えた「ヘルスケア」ソリューションの開発が進んでいます。今はまだ芽吹いたばかりですが、それらがやがて木となり、森となる。こうした取組みが、日本だけでなく、世界中で加速していることを、大変心強く感じていますし、「内部資本の強化」も含め、これらを愚直に続けることこそ、100年先まで、当社が持続的に成長し続けるためのエンジンになるものと信じています。
東京海上グループの価値創造アプローチ
めざす社会とめざす会社の実現に向けて、一歩一歩確実に
こうした戦略実行の結果としての、2023年度の業績見通しですが、修正純利益で6,700億円、修正ROEで17.1%を見込んでいます。2023年度は現中期経営計画の最終年度ですが、当初の計画(修正純利益約4,800~5,400億円、修正ROE12%程度)を大幅に上回って着地する見込みです。数字の通り、「当社の実力」は確実に、そして大きく高まっている、その様に考えています。また、かねてからご説明の通り、当社は、「事業を通じた利益成長」と「株主還元」は、整合的であるべきだと考えています。その中で、2022年度の普通配当は、年初計画通り、1株あたり100円に、そして、2023年度の普通配当につきましては、今後の利益成長に加えて、配当性向も50%に引き上げることで、前年度対比+21円増配となる121円にしたいと考えています。これは12年連続の増配となります。
この2023年度の利益計画6,700億円は、過去最高益を企図したものですが、私ども経営の認識は、これもひとつの「通過点」に過ぎないというものです。「誰もが安心・安全に生活し、果敢に挑戦できるサステナブルな社会」と当社の長期ビジョンである「世界のお客様に“あんしん”をお届けし成長し続けるグローバル保険グループ」、或いは当社のパーパスを実現する中での、あくまで「一里塚」ですし、「旅の途中」です。
それでは今後、利益水準をどこまで伸ばしていくのか。次期中期経営計画(2024~2026年度)は2024年5月の公表に向けて検討を進めているところですが、その先も含め、
- 1.Organic Growthで、引き続き世界トップクラスのEPS Growth(現時点では+5~7%程度)を実現すること
- 2.欧米Peers対比ではまだ若干劣後しているROEを、Peersに伍する水準まで引き上げ、エクイティ・スプレッドを拡大すること
- 3.その結果として、株主還元も拡大すること
という、この3点だけは決めています。
そして、こうした財務目標の達成に向けて、「温室効果ガス排出量の削減」や「女性取締役・監査役比率」などの非財務目標の達成が必須要件であることは言うまでもありません。当社は、当社が対峙する社会課題の解決に向けて、ひいては当社自身の持続的な成長に向けて、非財務KPIも適切に設定しています。例えば、気候変動。TCFD開示でもお示しの通り、気候変動は、自然災害の「規模の拡大」や「頻度の高まり」に繋がり、当社の保険金支払い、そして事業の継続に深刻な影響を及ぼす可能性があります。従いまして、当社は、当社自身の脱炭素化は大前提として、責任ある保険会社・機関投資家・グローバルカンパニーとして、お客様の脱炭素化移行を、エンゲージメントを通じて積極的に支援し、2050年度の「保険引受先・投融資先を含むネットゼロ」目標に向けて、一歩一歩確実に前進してまいります。
東京海上グループがめざす姿
終わりに
最後に、この場をお借りしまして、東京海上グループのCEOとして、決意表明をさせていただければと思います。
改めまして、当社が事業を行うことが出来ますのは、株主・投資家の皆様がご支援下さっているお陰と、心から感謝申し上げます。ありがとうございます。今回のメッセージでも触れましたが、不透明・不確実な世界情勢の中にありまして、多くの会社は、経営・事業環境が大きく変わる、100年に1回のtipping point、転換点に立っていますし、当社も例外ではありません。その中で必要なことは、変化や未来に“後追い”で対応するのではなく、自ら、主体的に、未来を拓く、未来を作る、行動をとる、ことだと考えています。
当社独自の「マジきら会(パーパスやカルチャーの浸透をめざし、真面目な話を気楽な雰囲気の中で論議する会)」等を通じて、私がよく社員に話していることがあります。「目の前のことを何か変えられないか、後任や次の世代に何か残せないか、繋げないか、まず全力で考えて、挑戦して欲しい」と。「3打数2安打で打率6割6分6厘よりも、20打数5安打の打率2割5分のバッターの方が評価される会社にしたいと本気で思っている」と。「自分に限界を設けて、打席に入らないのではなく、出来るだけ多くの打席に立ち、バットを振る人間であってほしい」と。
30代の若手社員が、東京海上日動では手の届きにくいニッチマーケットの存在に着目し、「幅広いビジネスパートナーとアライアンスを組み、ビジネスパートナー毎の細やかなニーズに合致した保険商品・サービスを世の中に数多くご提供すること」を目的として設立したTokio Marine X少額短期保険株式会社は、「打席に立ち、バットを振った」、そしてこれからも「振り続ける」ひとつの事例です。デジタルを中心としたニッチマーケットでは、スピード感を持って様々な試行錯誤を繰り返し、学び改善していくことが重要ですから、生損保兼営かつスピーディな商品開発が可能な少額短期保険という会社形態を選択しました。
少額短期保険は、50億円の取扱い上限保険料規制があり、グループ全体からみると、そのインパクトは小さいと言わざるを得ません。それでも、私は、そこにお守りできる“いざ”がある限り、社員のwillを大事にしたい。メンバーは性別やキャリアが異なる20~30代を中心に構成されており、多様性にも溢れていますので、従来のやり方にとらわれない柔軟な発想で今後の事業運営にあたってもらいたいと考えています。
デジタルを活用して“保険の新たな価値”を創造する
経営危機に陥ったロンドン支店を当時20代の若手社員が立て直し
これらの写真を見比べていただくと、当社はいつの時代も若手に支えられているように見えるかもしれませんが(笑)、私自身も、2022年度は、外国人役員を含むCEO Teamを作って経営判断の高度化をめざしたり、2023年度にグループ内外のコミュニケーション強化のためのグローバルコミュニケーション部を設立したりと、立ち止まることはなく新しい試みにチャレンジしています。当社独自の経営スタイルには見本・手本や正解がある訳ではありませんが、グループCEOとして、先頭を切ってバットを振り続けたいと思います。一寸先でさえ分からない、不確実で難しい時代ですが、グループ全員が一丸となって、スピーディーに仮説・検証サイクルを回し、切れ目なき成長戦略を考え実行してまいります。
元より、保険はpeopleʼs businessです。“いざを支える”というパーパスの実現に情熱を注ぐ社員を作る、そうした風土・カルチャーを作ることがグループCEOの仕事として何よりも大事だと考えていますし、実行してまいります。
そして、当社は、お客様・地域社会のお役に立ち続けることで、持続的に成長する、企業価値も引き上げていく。そうした経営を実現していきたい。そう強く思っています。
当社にもっともっと仕事をさせてほしいと思いますし、皆様の期待に応えられる会社を創ってまいる所存です。
引続きのご支援を、どうぞよろしくお願いいたします。