2025年の台風は少ない…でも強い?~2025年の台風傾向と、最新の台風予測研究リポート~
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※この記事は東京海上研究所が発行する「SENSOR」を転載した記事です。
2025年は台風1号の発生が統計開始以降5番目に遅かったことが話題となりました。この台風が象徴するかのように、2025年の台風活動は平年より不活発である可能性があります。一方で、これは逆に非常に強力な台風が発生する可能性も示唆します。
今回は、2025年の台風の傾向について考えるとともに、台風予測研究について、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究者にインタビューし、研究の最前線に迫っていきます。
2025年の台風傾向
各気象機関の予測を踏まえると、今年の台風活動は平年より不活発で、発生数は少ない可能性があります。しかし、これは逆に非常に強い台風が発生する可能性も示唆しているので、注意が必要です。それでは、この理由を見ていきましょう。
まず、エルニーニョ・ラニーニャ現象が今年は発生しておらず、この平常状態が秋まで続く見込みのため*1、これらの影響は小さいと考えられます。
また、赤道熱帯域では東風(貿易風)が平年より強く吹いています。東風が強いと高気圧性循環(時計回りの流れ)が強まり、反時計回りの低気圧性循環を持つ台風の発生は抑制されます*2。

さらに、インド洋熱帯域東部の海面水温が平年より高い、「負のインド洋ダイポールモード現象」が予測されており、これにより台湾付近の海域で高気圧性循環が生じるため、これも台風の発生を抑えます*3(図1)。
ただ、台風活動が少ないと、暴風によって海水がかき混ぜられる効果(台風の「かき混ぜ効果」)が減り、海面の温度が高く維持されます(図2)。
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海は、通常時であれば海面が最も水温が高く、水深が深くなるほど水温が下が っていく(左図)。台風が海上を通過すると、海がかき混ぜられることで、海面の水温は下がる(右図)。なお、「かき混ぜ効果」は、暴風が直接に海をかき混ぜる効果の他、台風通過時に海面からの蒸発が盛んになることで海面水温が下がる効果や、台風の反時計回りの風が海面下の冷たい海水を引っ張り上げる湧昇効果など、複数の作用によって生じる。

一方で、台風の力の源は、海水面からの蒸発に起因する熱エネルギーです。そのため、海面の温度が高く維持された状態で、ひとたび台風が発生すると、高い海水温からの盛んなエネルギー供給により、急激に強力な台風へと成長するリスクがあります。これが、台風活動が不活発な年であっても、非常に強力な台風が発生する可能性がある理由です。
最新の台風予測研究に迫る!
さて、以上のような予測は、日本が所在する北西太平洋領域全体における台風の平均的な傾向ですが、「今年、日本に何個の台風が上陸するのか」が、数ヶ月前からわかれば便利だと思いませんか?
今回は、数ヶ月先の台風予測(季節予測)を研究している国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の土井威志主任研究員に、最新の成果を伺いました。土井さんの最近の研究では、沖縄・台湾付近での夏の台風の存在頻度を数ヶ月前から予測できるようになったそうです*4。

最新の研究成果とは?
これまでも台風が多い・少ないといった予測はありましたが、最新の研究ではどんなことが新たにわかったのでしょうか。
これまで、特定の地域に絞った季節予測は難しかったのですが、研究を進めた結果、沖縄・台湾付近で夏の台風を含む熱帯低気圧の数が平年より多いか少ないかを、数ヶ月前からある程度予測できることがわかりました。元々、地域を絞った予測をしていきたいと考えていましたが、東京海上研究所との共同研究の中で、日本への接近数が予測できれば非常に役立つと改めて実感したことも、研究を進めるきっかけになりました(筆者注:JAMSTECと東京海上研究所は、2022年度に台風の季節予測について共同研究を実施した。)。
どのような手法で、それが可能になったのですか?
ポイントは二つあります。一つは、アンサンブル数を増やしたこと。アンサンブルとは、コンピューターで多数の気候シミュレーションを行って得られたデータ群です。本研究では、世界的に見ても大規模な108のアンサンブルを用いました。アンサンブルを増やすと、台風のような頻度が少ない現象でも傾向がつかみやすくなります。
二つ目は、従来のように、北西太平洋全体を対象として網羅的に傾向を分析するのではなく、その中でもエリア毎に切り分けて、各エリアの傾向に着目して分析したことです。それにより、予測が比較的容易な地域というのが見えてきました。

台風は様々な要素が絡み合うため、すべての地域を予測するのは困難です。そこで、地域ごとに、各気候条件と台風の関係を調べた結果、沖縄・台湾付近ではインド洋熱帯域の海面水温との相関が強く、比較的予測しやすいことが判明しました。具体的には、東インド洋熱帯域の海面水温が平年より低くなる「正のインド洋ダイポールモード現象」が起きると、この地域の台風および熱帯低気圧の数が増えることがわかったのです(図3)。
本州に接近する台風がわかるようになる……のか?
沖縄地域の台風予測は大変有益ですが、本州付近はどうでしょうか?
本州への台風接近は、風向きや太平洋高気圧の張り出し方など、その時の天候状況に大きく左右されるため、数ヶ月前の予測は簡単ではありません。ただ今後は、気候モデルのさらなる精度向上や最新のAI技術の活用などにより、予測の精度が向上する可能性もあります。また、今回の研究のように、予測しやすい気候条件を詳しく分析し、それを本州付近の予測に応用できれば、将来的には具体的な予測ができるようになるかもしれません。
今後の展望
台風予測は様々な産業に役立ちそうです。JAMSTECとしての今後の展望を教えてください。
現在、観光業と連携して研究成果を活用しようとしています。台風は「かき混ぜ効果」によって海水温を一定に保つ役割がありますが、台風活動が弱まると海水温が上がり、沖縄・台湾付近のサンゴ礁に大きな被害を及ぼします。この研究成果をサンゴ保全策などに役立てたいですね。
また、すべての地域の台風を予測することは難しいですが、例えばタイなど熱帯に近い地域では予測が比較的しやすいことがわかっています。タイには多くの日本企業が進出していますので、こうした地域を対象に予測情報を提供することで、社会に役立てられるのではないかと考えています。JAMSTECとしては、今後も積極的に研究成果を社会に還元していきたいです。有効な活用方法を探っていくにあたり、損害保険会社ともぜひ連携していきたいですね。
最後に
2025年の台風は、平年に較べ不活発である可能性がありますが、一方で非常に強い台風が発生する恐れもあるため、注意が必要です。
台風は予測がとても難しい気象現象です。そのため、現在では予測の具体性や精度に限界がありますが、今回、着実に予測に関する研究が進んでいることもわかりました。「今年、日本に●個の台風が上陸する」……そんな具体的な予測を見ることができる日が、いずれ来るかもしれません。
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*1気象庁 「エルニーニョ監視速報 No.393」(参照 2025-06-16).
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*2Euro Tempest, Tropical Strom Risk “ Extender Range Forecast for Northwest Pacific Typhoon Activity in 2025” (参照 2025-06-16).
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*3JAMSTEC 「今年は北西太平洋で台風が不活発か?」(参照 2025-06-16).
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*4気象庁 「台風による水温低下」 (参照 2025-06-16).
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*5東インド洋熱帯域の海面水温が平年より低いと、夏季に大陸から北西太平洋へ吹き込む季節風 (モンスーン)が強化され、沖縄・台湾付近では反時計回りの風の流れである低気圧性循環が強化される。台風も反時計回りの低気圧性循環を持つため、台風が増えやすい環境となる。 (出典:JAMSTEC HP)