物流業界を巻き込むコンソーシアムで、物流改革に挑む

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2025年1月24日

必要な物を、必要なときに、必要な場所へ届ける物流は、私たちの生活や企業の経済活動を支える重要な社会インフラです。しかし日本の物流業界では、物流量が増加する一方で、輸送の供給力が不足する「物流需給ギャップ」が深刻な課題となっています。こうした課題の解決を目指して2024年11月、東京海上グループ3社を含む「物流コンソーシアム baton」が発足しました。なぜ東京海上グループが物流改革に挑むのか、どんな未来を描いているのか。東京海上ホールディングス ビジネスデザイン部の上野雄羽、木村駿にインタビューしました。

企業横断で物流業界の社会課題解決に取り組む「物流コンソーシアム baton」

東京海上ホールディングス ビジネスデザイン部 上野雄羽

── 「物流コンソーシアム baton(以下、コンソーシアム)」を立ち上げた経緯や背景について教えてください。

上野

東京海上グループは、1879年に海上保険の会社としてスタートしました。海を越えて荷物を運ぶ、物流の保険です。また、1914年には日本初の自動車保険の提供を始めました。物流やモビリティの分野では、歴史も経験値もあり、多くのお客様との接点があります。その中には物流事業者様もいらして、対話を重ねる中で各社の努力では解決が難しい大きな課題に直面していることを肌で感じていました。

私たちが今注目しているのは「物流需給ギャップ」です。EC市場の拡大などで運ぶ物は増えているけれど、労働力不足などで運ぶ人は少なくなっていく。このギャップを解消しないと「荷物を届けられない、届くのが遅くなる」ということになります。物流事業者様だけでなく、荷主となる生産者様、小売事業者様、その先にいるエンドユーザーの方々も困りますし、ひいては日本経済全体に影響を及ぼす社会課題です。また、大型トラックによる幹線輸送では、一人のドライバーが宿泊を伴う長時間・長距離輸送が慣例化しているなど、労働環境上の課題もあります。

木村

これまでも積載率の向上など、物流の生産性向上に取り組む物流事業者様はいらっしゃいました。しかし、1社でやれることには限界を感じていることも各社様との対話を通じて感じました。そこで保険事業を通じて培ってきたリスクマネジメントのノウハウやネットワークといった当社なりの強みを活かし、私たちも真正面からこの社会課題に向き合いたい、業界横断型で協力しながら解決していきたいと、コンソーシアムを立ち上げることにしました。

── コンソーシアムで取り組む第一弾のテーマとして、企業横断型の中継輸送ネットワークの構築を挙げています。このテーマを選んだ理由を教えてください。

上野

働き方改革関連法が施行され、物流業界においても時間外労働の上限規制が適用されるようになりました。例えば、関東から関西へ荷物を運ぶ長距離輸送の場合、以前であればドライバーが時間外労働することで対応していることもありました。しかし新たな規制のもとでは、従来のリードタイムでは対応できないケースが増えてきます。従来と同じ規模の輸送ができなくなれば物流事業者の売上は減り、ドライバーの給料も減り、結果的に物流の担い手は足りなくなってしまう、といったことも出てきます。「物流需給ギャップ」は拡大するばかりか、中小物流業者においては実際に長距離輸送からの撤退だけでなく、やむなく閉業せざるを得なくなるといった声も聞こえてきています。

企業横断型の中継輸送は、トラック稼働率向上による物流生産性の改善や、宿泊を伴う長距離輸送から日帰り輸送が可能になることによるドライバーの皆様の労働環境改善に貢献することから、「物流需給ギャップ」の解消策のひとつとして注目されている一方で、個社の努力では中継拠点や連携先の企業が限定的になるなど限界があります。物流業界に関わるさまざまな企業様が参画するコンソーシアムだからこそ取り組めるテーマでもあるんです。

非物流事業者である東京海上グループがコンソーシアムで果たしていく役割とは?

── 東京海上グループは非物流事業者ですが、コンソーシアムでどのような役割を担っていくのですか?

上野

企業横断型の中継輸送を実現するうえで、実は「リスクの移転時期や責任分担範囲」がボトルネックのひとつになっていることが、物流事業者様との対話を通して分かりました。例えば、ドライバー交替方式の中継輸送では途中で貨物を荷卸ししたり開梱したりしないので、着地に着いたときに貨物が損傷していることが分かった場合、A社が運んでいるときに壊れたのか、B社が運んでいるときなのかわからないケースも想定されます。

── その損害が誰の責任になるのかが複雑化しそうですね。

上野

個社内もしくは二社間程度のアライアンスであれば運送契約で解決できる領域もありますが、複数企業の連携が今後進んでいくと、リスク移転や責任分担範囲が更に複雑になります。中継輸送の導入が進まないボトルネックの1つが、リスクの移転時期や責任分担範囲の複雑化にあるのならば、私たちはリスクのプロとして事故データやリスクマネジメントのノウハウを活用した保険商品やソリューションやガイドラインの策定支援などを提供できますし、私たち東京海上グループが参画する意義にもつながっています。

木村

東京海上グループは、大企業に加え中小・中堅物流企業や荷主企業も含めて多くの接点を持っています。保険会社ならではのネットワークという強みを活かして、企業と企業、業界と業界を結びつける役割も担えると感じています。また非物流事業者が中心となることで、中立性や公平性を持ったコンソーシアム運営が行うこともできるのではないかと思っています。まずは企業横断型の中継輸送実現に向けて、中立・公平・オープンな議論ができる場をつくっていきます。

東京海上ホールディングス ビジネスデザイン部 木村駿

物流以外の業界・企業とも連携しながら企業横断型の中継輸送ネットワークを実現したい

── コンソーシアムの本格始動は2025年4月ごろを予定していますが、決まっている活動内容はありますか?

上野

まずは創立メンバーを中心に、企業横断の中継輸送における4つのテーマ(運ぶ・繋ぐ・支える・備える)でワーキンググループをつくり、具体的な取り組み内容を2025年中にも合意していきたいと考えています。

中継輸送の4つの要素

運ぶ:各社の運行計画に合わせて効率的に中継先事業者をマッチングさせる仕組みづくりなど。

繋ぐ:中継地点の設計や費用負担ルール、候補地となる有休地の活用など。

支える:労働環境や健康管理、コンディショニングなどのドライバーマネジメントなど。

備える:リスク移転や責任分担のガイドライン策定支援、運用ルールの整備など、リスクマネジメントなど。

木村

コンソーシアムは、課題を集めて、取り組む内容や方針をまとめる協議会なので、その先のサービスやソリューションは、各ワーキンググループにおいて議論する中で生まれてくることを期待しています。例えば、「運ぶ」ならマッチングサービス、「繋ぐ」ならディベロッパーや不動産会社、「支える」ならヘルスケア事業者やヘルステック企業など、物流以外の多様な業界からワーキンググループにご参加いただき、課題解決に向けて連携していけるとうれしいです。

上野

コンソーシアムには参画メンバーの物流事業者様、東京海上グループ3社に加え、アドバイザリーメンバーとして業界団体(公益社団法人 全日本トラック協会、公益社団法人 日本ロジスティクスシステム協会)、物流課題の研究をしているアカデミアの先生方にも参加いただきます。さまざまな観点からアドバイスをいただきながら運営していきたいと考えています。

物流業界全体を、より魅力的な産業に変えていきたい

──コンソーシアムを通じて、目指したい物流業界の未来や、主体的に取り組んでいきたいことを教えてください。

上野

物流は、運ぶ人と運ばれる荷物があって成り立つものです。企業横断型の中継物流という新しい運び方を定着させるには、運ばれる荷物を扱う荷主様の理解も欠かせません。加えて、日本の物流業界は、90%以上の中堅・中小企業の皆様に支えられているといわれています。物流業界の課題解決のために、大手企業だけではなく、中堅・中小の物流事業者様とも一緒に取り組んでいきたいと考えています。

そして何よりも物流を支えているドライバーの方々が安心して働き続けられる職場環境を実現し、ドライバーのウェルビーイング向上、物流業界全体の魅力向上に貢献していきたいです。

木村

中継輸送のような新しい輸送形態が広まっていくと、これまでにないリスクが生まれる可能性もあります。そうしたリスクに対応できる保険商品やソリューション、リスクマネジメントこそ、東京海上グループに求められていることだと思っております。東京海上日動では、ドライバー交替方式の中継輸送で想定されるリスクをカバーする自動車保険の特約を販売開始しており、東京海上スマートモビリティでは、ドライバーの健康管理をサポートするソリューションの開発など準備も進めています。私たちにできないことは、それらの分野に強みを持つ企業様をコンソーシアムの活動に巻き込みながら、新しい価値を生み出していける活動体にしていきたいです。

まとめ

野村総合研究所の試算では、2030年には2015年と比べて約35%の荷物が運べなくなる*というデータもあり、「物流需給ギャップ」は待ったなしの社会課題です。東京海上グループ3社が、物流・サプライチェーンのプロとして、中立的な立場から運営していく「物流コンソーシアム baton」。物流業界全体を巻き込みながら、企業横断型の中継輸送ネットワークを構築し、物流業界の新しい未来をつくっていきます。

  • 掲載内容は2024年11月取材時のものです。
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