【前編】能登半島地震から1年|被災者視点で未来のために考える、東京海上グループによる“保険+α”の地域支援

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2025年1月16日

2024年1月1日の令和6年能登半島地震から、1年が経過しました。この震災は地域に深刻な被害をもたらし、復旧にはいまだ多くの課題が残されています。

東京海上グループでは、この地震を被災地支援や防災対策の在り方を見直す契機として、「走行道路情報・地割れ地点マップ」の公開や「スクショ防災」の提供等を開始しています。

今回は、東京海上日動 金沢支店七尾支社の榎岳彦、損害サービス業務部の西田圭と宮地正、個人商品業務部自動車グループの伊東健、そしてイーデザイン損保 CX推進部の神田真季子に、能登半島地震における東京海上グループの災害対応と被災者支援について話を聞きました。

本記事は二部構成です。前編では、能登半島地震を振り返りながら、発生当時の状況や直面した課題、東京海上グループが取り組んだ具体的な対応について詳しくお伝えします。後編では、被災地支援の未来と展望に焦点を当てた内容をお届けしますので、ぜひ後編もご覧ください。

能登半島地震当時を振り返る。地域と東京海上グループが直面した課題とは

ーーー2024年1月1日に発生した能登半島地震当時の様子についてお聞かせください。

東京海上日動 金沢支店 七尾支社 榎 岳彦

私は金沢支店七尾支社で支社長を務めており、地震が発生した当時は石川県七尾市から大阪の実家へ向かう途中でした。地震の知らせを受けてすぐに七尾に戻りましたが、現地の被災状況は想像以上に深刻でした。

道路には至るところに亀裂が入り、土砂崩れが発生して岩が転がり、通行が極めて困難な状態でした。水道や電気といったライフラインはほぼ完全に途絶え、電信柱が倒れて信号機も機能しない中、夜には辺り一面が真っ暗になっていました。さらに、被災地から避難しようとする車と救援に向かう車が交錯し、大渋滞が発生。警察も対応が追いつかず、現地は混乱を極めていました。

中でも印象的だったのは、街中の橋げたに50センチから1メートルほどの段差ができ、車が通れない状況です。また、高速道路の一部が崩落し、移動手段が大きく制限されてしまいました。

震度6強は過去に経験したことがありましたが、震度7ではこれほどまでに違うのか、と実感しました。能登半島地震で記録された震度7の被害は、普段では想像もつかないような規模で、次々と想定外の事態が発生しました。

ーーー被災直後の大きな課題は何でしたか?

東京海上日動 損害サービス業務部 宮地 正
宮地

今回の地震で特に困難だったのは、「立会による損害確認」の難しさでした。損害保険会社として、事故や災害が発生すると損害状況を現地で確認する必要があります。しかし、奥能登はもともと交通アクセスが厳しい地域であり、今回の能登半島地震ではさらに道路状況が悪化しました。通行止めも非常に多く、移動そのものが困難な状況でした。

断水も続き、インフラ被害が甚大な環境の中で、社員や火災鑑定人等の安全や健康を確保しながら、どのように立会調査を進めるか判断することが非常に難しい課題でした。

東京海上日動 損害サービス業務部 西田 圭
西田

被災地では、物資不足が非常に大きな問題になります。災害直後、国や自治体から支援される物資として、食料や赤ちゃん用の粉ミルク、おむつなど、命や生活環境に不可欠なものが優先されます。

しかし、被災後の生活を再建するために必要な物資は多岐にわたります。例えば、地震による津波や洪水によって床下に浸水するとカビが発生するため、畳や床下を乾燥させるためのサーキュレーターや、殺菌剤を散布するための噴霧器などが必要です。こうした物資は公的支援だけではカバーしきれないこともあり、全国の支援者からの寄附や協力を通じて届けることが欠かせません。

また、これらの支援物資を迅速に被災地へ届けるためには、道路状況の正確な情報が非常に重要です。どの道が通れるのか、どこが寸断されているのかを把握することで、支援活動のスピードや効率を大きく向上させることができます。

情報混乱を防ぐ仕組み:「走行道路情報・地割れ地点マップ」「スクショ防災」

ーーー移動に伴う情報混乱への対策として公開された「走行道路情報・地割れ地点マップ」について教えてください。

東京海上日動 個人商品業務部 自動車グループ 伊東 健
伊東

地震直後は、被災地における道路状況に関する情報が把握できない事態に陥ります。被災地の移動における現場の混乱を少しでも軽減することを目的に、能登半島地震から約1ヶ月後の2024年2月2日に「走行道路情報・地割れ地点マップ」を公開しました。

この取り組みの鍵となったのが、2017年に導入した「ドライブエージェント パーソナル(DAP)」というサービスです。このサービスは、お客様の自動車に搭載された通信機能付きドライブレコーダーが強い衝撃を検知すると、自動で事故受付センターのオペレーターに繋がるという仕組みです。さらに、衝撃を受けた際の映像も送信されるため、事故受付センターのオペレーターが状況を適切に把握して救急車を要請するなど、事故直後からお客様に寄り添った迅速な対応を可能としている商品です。

地震発生当日の2024年1月1日、事故受付センターから私に「石川県においてDAPで地震を検知したという入電が複数入ってきている」との連絡が入りました。オペレーターが事故を確認するために見たドライブレコーダーの転送映像に、大きな揺れが記録されていました。当社内で災害対策本部が立ち上がった後、DAPのデータを災害対応の支援に何か活用できないかと検討した際、「走行道路情報・地割れ地点マップ」の開発を思いつきました。

能登半島地震では、特に奥能登のエリアまでの道路状況が極めて悪いという課題がありました。七尾市以北の奥能登エリアにおいて、震災以降に走行したDAPのお客様の衝撃検知データと位置情報データを抽出し、統計化して地図と照らし合わせた結果、「問題なく通行可能な道路」「通れるが状況が悪い道路」「完全に通行止めの道路」の3つの状態を特定することができ、奥能登の道路状況を詳細に把握できるようになったのです。その後当社ホームページ上にも公開した「走行道路情報・地割れ地点マップ」は、災害対応の新たな手段として多くの方々の支援に役立つものとなりました。(2024年3月末に公開終了)

なお、公開したマップは、その利用目的についてお客様のご同意のもと、データを統計化した形で作成しました。DAPはもともと事故対応を目的としたサービスですが、災害時にも有効に活用できることが分かりました。

ーーースピーディーな対応といえば、震災から100日で提供に至った「スクショ防災」についても詳しく教えてください。

イーデザイン損保 CX推進部 神田 真季子
神田

スクショ防災(図-1) 新規タブで開きます *1は、自動車保有者に向けて「クルマ×防災」「クルマ×災害」「クルマ×避難」という3つの観点から防災情報を提供するコンテンツです。

これまでもイーデザイン損保では、例えば雪の予報が出た地域のお客様に対し、路面凍結によるスリップや事故のリスクを伝えるメールを都度送るなど、One to Oneのコミュニケーションを行ってきました。この取り組みをより発展させて、自動車に乗る人がいざというときに助かる情報を、誰でもアクセスできるWEBコンテンツとして発信したいと考え、「スクショ防災」の開発に至りました。

車中避難ではスマホが重要な情報ツールとなりますが、災害時には「電波が弱い」「充電を節約したい」といった状況が起こり得ます。そのため、防災情報を1枚の画像にまとめ、スマホにダウンロードしておけるようにすることで、オフライン環境でも閲覧可能にしました。

全国各地でさまざまな自然災害が発生する中で、例えば2016年の熊本地震では、被災者の7割以上が車中泊を経験したというデータ*2があります。こうした背景を踏まえ、車での被災時に役立つ情報をまとめ、能登半島地震を機に急ピッチでコンテンツを作成しました。その結果、地震発生から100日後に「スクショ防災」を公開することができました。

図-1 イーデザイン損保「スクショ防災 新規タブで開きます 」より抜粋
そのときクルマに乗っていたら?スクショ防災 by イーデザイン損保

保険会社の枠を超えた挑戦。新たな価値創造で広がる可能性

ーーーこれまでの取り組みを振り返って、東京海上グループが災害情報発信において果たした役割や保険会社としての枠を超えた新たな価値創造について、どのように感じていますか?

伊東

「走行道路情報・地割れ地点マップ」の当社ホームページでの公開を通じて、保険を契約いただいているお客様に限らず、それ以外の方々に対しても貢献できたことは、私たちにとって非常に意義深い取り組みでした。災害時において、迅速かつ正確な情報を提供することが被災者の支援につながることを、あらためて実感しました。

また、この取り組みを通じて、保険会社が持つデータの価値を社会に還元することができる可能性を強く感じています。今後は、こうした活動をさらに広げ、社会全体にわかりやすく伝えられるようなアプローチを模索していきたいと思います。

神田

イーデザイン損保では「事故時の安心だけでなく、事故のない世界そのものを、お客さまと共創する。」というミッションを掲げています。その理念のもと、保険金のお支払いにとどまらず、事故を未然に防ぎ、災害による被害を減らすための取り組みにも注力しています。「スクショ防災」はその具体例であり、災害時に必要な情報をわかりやすく提供することで、お客様に安心を届けています。

これらの取り組みを通じて、保険を契約いただいているお客様に加えて、社会全体を支える存在でありたいと考えています。今後も、保険会社の枠を超えた新たな価値創造を目指し、災害情報発信の分野でさらなる貢献ができるよう、積極的に推進していきたいと思います。

まとめ

東京海上グループでは、能登半島地震発生を受けて「走行道路情報・地割れ地点マップ」や「スクショ防災」等を通じて、災害時の情報発信を行ってきました。これらの取り組みは、従来の保険金支払いという枠を超えた、保険会社の新たな価値創造への貢献につながっていると考えています。

後編では、人工衛星画像をはじめとするデジタル技術の活用、被災者が必要とする物資を届ける仕組みづくりなど、より迅速に被災地支援を目指す取り組みについて紹介します。さらに、あらゆるステークホルダーや社会全体と連携・共創することで、東京海上グループが目指す未来の災害対応や保険の在り方についても掘り下げます。

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