気候関連財務情報開示

2015年12月の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定において、世界共通の長期目標として、産業革命前からの平均気温の上昇を2℃より十分下方に保持することが明記されました。また、その長期目標の達成に向けて世界が協力して気候変動対応を推進する仕組み等が規定されたことにより、今後の社会経済活動に影響を与え、脱炭素社会への移行が推進されることが期待されています。
また、2021年8月に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が第6次評価報告書を公表し、人間の影響による温暖化には疑う余地がないこと、すでに工業化前から1.09℃温暖化していること、熱波や豪雨等の極端な現象の強度と頻度が増加することなどが指摘され、地球温暖化対策の更なる推進が期待されています。

気候変動は、お客様や社会の安心と安全に脅威をもたらすグローバルで人類史的な課題であり、自然災害の激甚化は、保険業界にも直接的な影響をもたらします。そのため、東京海上グループのサステナビリティ戦略において、本業である保険ビジネスはもとより、機関投資家、そしてグローバルカンパニーとして真正面から取り組むべき最重要課題と位置付けています。

東京海上グループは、パリ協定における長期目標の達成に貢献するため、再生可能エネルギーの推進、お客様や社会の気候変動対策推進の支援、自社の事業活動に伴うCO2排出量の削減、ESG投資等に取り組んでいます。また、1社だけではグローバルな気候変動対策に取り組んでいくことは難しいと考えており、複数の国際的なイニシアティブに加盟し、他社および政府機関とともに力を合わせて取り組んでいます。

TCFD提言に基づく気候関連財務情報開示

気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD、Task Force on Climate-related Financial Disclosures)は、金融安定理事会(FSB、Financial Stability Board)からの付託を受け、金融セクターにとって一貫性、比較可能性、信頼性、明確性をもつ効率的な情報開示を促す任意的な提言(TCFD提言)を策定し、2017年6月に公表しました。

地球規模の課題である気候変動・自然災害は、保険・金融サービス事業を展開する東京海上グループに大きな影響を及ぼします。そのため、東京海上ホールディングスは、TCFDの創設メンバーとしてTCFD提言の策定・公表に貢献し、その後も一貫してTCFDの活動を支援するとともに、2021年1月からは再度TCFDメンバーとして、日本国内外の官民関係当事者とも論議・意見交換を行い、投資判断に資する情報開示を促す政策提言に向け取り組んでいます。
2018年7月には、東京海上日動が、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)・持続可能な保険原則(PSI)が設立したTCFD保険パイロットグループに創設メンバーとして参画し、TCFD提言に沿った保険業界の気候関連情報開示にかかる方法論や分析ツールの検討・開発に取り組み、2021年1月の最終報告書「Insuring the climate transition」公表に貢献しました。

また、日本国内では、当社取締役会長(当時)が発起人の一人となって、2019年5月のTCFDコンソーシアム設立に貢献しました。設立後は活動方針を論議する企画委員会のメンバーとして関わるなど、2020年7月の「TCFDガイダンス2.0」公表等に貢献しているほか、企業の気候関連情報の効果的な開示や、開示された情報を金融機関等の適切な投資判断につなげるための取り組みに関する論議に参加しています。

東京海上ホールディングスは、「統合レポート2017」より、TCFD提言に基づく情報開示を行っており、毎年その充実に取り組んでいます。

次表は、TCFD提言に基づく情報開示の要素の概要を示しており、本レポートにおいて、各要素について詳細に報告しています。

TCFD提言に基づく情報開示

ガバナンス 戦略 リスク管理 指標と目標
  • a)取締役会による監視
  • b)経営の役割
  • a)気候関連リスクと機会
  • b)気候関連リスクと機会による影響
  • c)異なる気候シナリオによる潜在的な影響
  • a)気候関連リスクの特定・評価プロセス
  • b)気候関連リスクの管理プロセス
  • c)気候関連リスクの特定・評価・管理プロセスの総合的リスク管理への統合
  • a)気候関連リスク・機会の評価指標
  • b)Scope1、2および3のGHG排出量
  • c)気候関連リスク・機会の管理に用いる目標

出展:TCFD(June 2017)“Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures” Figure 4 (P.14) を基に当社作成

ガバナンス

サステナビリティ専任部署

当社は、気候変動対策を含むグループ全体のサステナビリティ推進の専任部署(経営企画部サステナビリティ室)を設置し、サステナビリティにおける主要課題の特定やグループサステナビリティ戦略の策定・推進、モニタリング等を行っています。

グループサステナビリティ総括(CSUO)

当社は、気候変動対策を含むグループ全体のサステナビリティ戦略の推進を加速すべく、2021年4月にグループサステナビリティ総括(CSUO)を新設しました。CSUOはサステナビリティ戦略の責任主体として、グループ全体のサステナビリティ課題への対応、グループCEOへの報告等について責任を負っています。

サステナビリティ委員会

気候変動対策を含むグループ全体のサステナビリティ戦略を加速すべく、2021年4月に、CSUOを委員長とし、CEOおよびチーフオフィサー等にて構成されるサステナビリティ委員会を創設しました。本委員会では、グループ全体のサステナビリティ戦略および目標の策定、グローカルなサステナビリティの取り組みの調整・推進等について審議します。2021年度には5回開催し、サステナビリティ戦略の推進・実行、サステナビリティ関連の中長期目標(KPI)・年次計画の策定・振り返り等についての審議を行いました。

取締役会

取締役会では、気候変動対策を含むグループ全体のサステナビリティ方針を論議し、中期計画・単年度計画等を評価・決定します。また、取締役会では、気候変動対策を含め、直面する経営環境や経営課題等をテーマにした「戦略論議」を実施することで、社外取締役や社外監査役の知見を十分に活かしています。

戦略

リスクと機会の認識

当社グループでは、気候関連リスクの顕在化に伴う外部環境や業務環境の変化をあらかじめ想定し、リスク事象を洗い出すことで、当社グループへの影響を特定・評価しています。気候関連リスクには、気候変動の物理的影響に関連するリスク(物理的リスク)と脱炭素社会への移行に関連するリスク(移行リスク)があります。物理的リスク・移行リスクについて、TCFD提言のリスク分類ごとの事象例、および当社グループの事業活動におけるリスクの例は以下のとおりです。

事象例 当社グループの事業活動におけるリスクの例
物理的リスク 急性 台風や洪水等の頻度の高まりや規模の拡大の可能性
  • 保険料率の算定や保険金支払いへの影響
  • 拠点ビル等が被災することによる事業継続への影響
慢性 気温の上昇
干ばつや熱波等、その他気象の変化
海面の上昇
節足動物媒介感染症への影響
移行リスク 政策及び法規制 炭素価格の上昇
環境関連の規制・基準の強化
気候関連の訴訟の増加
  • 炭素価格上昇による投資先企業の企業価値や当社保有資産価値の下落
  • 賠償責任保険に係る支払保険金の増加
技術 脱炭素社会への移行に向けた技術革新
  • 脱炭素社会への移行に乗り遅れた投資先企業の企業価値や当社保有資産価値の下落
  • 技術革新やお客様ニーズの変化を捕捉できないことによる収益の低下
市場 商品・サービスの需要と供給の変化
評判 脱炭素社会への移行の取り組みに対するお客様や社会の認識の変化
  • 当社の取り組みが不適切と見做されることに伴うレピュテーションの毀損

当社は、後述「リスク管理」の項目に記載のとおり、当社の財務健全性や業務継続性等に極めて大きな影響を及ぼすリスクである「重要なリスク」として「巨大風水災リスク」を特定しており、同リスクは気候変動の影響により頻発・激甚化する可能性があると考えております。
また、気候変動の緩和・適応のための取り組みは当社グループにビジネス機会をもたらします。当社グループは、TCFD提言が特定した機会についての5つの分類(資源の効率性、エネルギー源、製品・サービス、市場、レジリエンス)を総合的に勘案し、ビジネス機会として以下を識別しています。

  • 再生可能エネルギー事業に関する保険ニーズの飛躍的増大
  • 自然災害リスクに対する社会の意識の高まりと火災保険の収益改善
  • 災害レジリエンス向上に向けた防災・減災ニーズの増加

シナリオ分析

シナリオ分析は、一定のシナリオに基づいて気候変動の潜在的影響を特定し評価するプロセスです。損害保険事業は比較的短期の保険契約が多いこと、当社グループの運用資産は流動性の高い金融資産が中心であることなどから、当社グループはこれらの影響に対して柔軟に対応し、レジリエンスを確保することが可能であると考えています。

1.物理的リスク

物理的リスクは、気候変動の物理的影響に関連するリスクです。気候変動は自然災害の頻度の高まりや規模の拡大につながり、保険料率の算定や保険金支払いに影響を及ぼす可能性があります。この影響を特定・評価する一環として、物理的リスクのシナリオ分析を行っております。

(1)支払保険金への影響

当社グループも参加している国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)の気候変動影響評価プロジェクトで開発した分析評価ツールを使用し、IPCCのRCP8.5 シナリオにおける2050年時点の予測として、熱帯低気圧の強度(風速)、発生数の変化が当社の支払保険金に与える影響について、以下のとおり評価しております。

強度(風速) 発生数
日本(台風) +5% ~ +53% -30% ~ +28%
米国(ハリケーン) 0% ~ +37% -36% ~ +30%
  • 上記数値は経済損失への影響を示すが、支払保険金への影響も同程度と仮定している

また、当社グループの東京海上研究所では、2007年より研究を開始し、将来気候下における台風に伴う風災リスクの変化(IPCCのRCP4.5およびRCP8.5 シナリオ環境下)や降水量の増大に伴う洪水リスクの変化(+2℃、+4℃環境下)による保険損害額への影響を評価・算出しております。このようなシナリオ分析結果を参考にして、気候変動により深刻化する自然災害が保険引受に及ぼす影響を評価しております。気象現象の将来予測には、将来の気候変動シナリオ(+2℃、+4℃等)が特定された場合において、後述するように不確実な要素があります。また、気候変動の影響評価にあたっては、気象現象だけでなく、災害に対する社会の脆弱性や、自然災害リスクに晒される地域に不動産や動産が今後どの程度集積するか、或いはそれらの資産価値がどの程度上昇するか、すなわち資産集積がどの程度変化するかを評価することも重要です。以下に、こうした将来予測や評価のベースについての当社の考えを説明します。

a. 気象現象の変化

気候変動の影響により気象現象がどのように変化するか、またその影響予測の信頼度がどの程度かについては、気象現象の種類により異なります。例えば、台風やハリケーンといった熱帯低気圧に比べて豪雨への影響予測の方が信頼度が高いものの、豪雨への影響も熱波や寒波のような気温変動と比べると不確実性が大きいことがわかります。
当社グループへの影響の大きい気象現象である豪雨と熱帯低気圧(日本の台風および米国のハリケーン)について、当社は気候変動の影響を以下のように認識しています。

気候変動の豪雨への影響

日本では、既に1900年以降豪雨の頻度が増加しています。また、将来については、2021年8月に公表されたIPCC第6次評価報告書では、気温の上昇とともに豪雨は激甚化して、概ね1℃上昇するごとに豪雨の強度(降水量)が7%程度増加するとみられています。

気候変動の熱帯低気圧への影響

熱帯低気圧の発生・発達・移動には、大気・海洋の大規模な循環(エルニーニョ、モンスーン等)が関わっています。気候変動は、そのそれぞれの要素に影響を及ぼすため、結果として気候変動が熱帯低気圧に及ぼす影響の不確実性はより大きくなります。
まず過去の傾向をみると、日本の台風については、IPCC第6次評価報告書において強い台風の発生数が増加しているという報告がなされていますが確信度の高い評価までには至っておらず、より長期かつ質の高い観測を継続し、長期変化傾向を監視していくことが必要とされています(気象庁)。

米国のハリケーンについては、過去40年で強いハリケーンの割合が増加しているものの、さらに長期(1900年以降)の上陸数に関する調査では、全てのハリケーン、および強いハリケーンのいずれの上陸数とも、明確な傾向がないことがわかっています(IPCC第6次評価報告書)。

将来をみると、熱帯低気圧の発生数は全体的には横ばいか減少すると見込まれる一方、強い熱帯低気圧の割合は増加すると予測されています。このため、強い熱帯低気圧の発生数については、増減双方の予測が混在しているのが実情です(IPCC第6次評価報告書)。

b. 気象現象以外の変化

日本では1900年以降豪雨の頻度が増加しています。一方、浸水面積については減少傾向にあります。これは、明治以降の堤防をはじめとする防災インフラの整備進展に伴い、豪雨時の洪水発生が抑えられていることによるものです。
また、自然災害リスクに晒される地域における不動産や動産等の物件の集積程度や物件の価値(資産集積)が変化すれば、被害額が大きく変わってきます。
このように、自然災害による被害を予測する上では、豪雨や台風といった気象現象そのものの変化だけでなく、社会の脆弱性や資産集積の状況の変化を把握することも重要と認識しております。

社会の脆弱性についての認識

日本において、建築基準法の改定が社会全体のレジリエンス強化に直結していることは論を待ちません。実際のところ、1981年に行われた耐震基準の改定、2000年に行われた耐風圧性基準の改定等は建物の自然災害に対する耐性の強化に大きく貢献しています。直近では、2022年1月に、2019年台風15号で多発した屋根被害を踏まえた、屋根ふき材に対する強風対策の告示基準改定が施行されています。また国土交通省は、今後、防災インフラを整備するに当たっては、想定される自然災害の激甚化を考慮して行うべきとの方針を既に打ち出しています(2019年に河川、2020年に高潮について提言)。

海外においても社会全体のレジリエンス強化の取り組みは進んでおり、例えば米国ではハリケーン・カトリーナ(2005年)、サンディ(2012年)、イルマ(2017年)等の巨大災害を受け、防災インフラの整備や建築基準法の改定が行われています。
なお、こうした国内外におけるレジリエンス強化の動きを踏まえて、当社グループとしても、災害情報の発信等を通じお客様の災害対応を支援することにより、社会全体のレジリエンス強化に貢献しています。

資産集積状況の変化についての認識

日本では今後も都市部への人口流入が継続すると予測されています。2015年から2040年にかけて、全国平均では世帯数が4.8%減少すると予測されている一方で、東京をはじめとする一部の都府県ではむしろ増加する見通しとなっているなど、資産集積の変化傾向は地域により異なります。

また、自然災害による被害という観点からは、同一都道府県内であってもどこに資産があるのかが重要な要素となります。昨今の自然災害による被害の頻発を受け、国土交通省からは「水災害リスクの低減にも配慮して居住地域や都市機能の立地を誘導することが重要」との考えが示されており、当社グループとしても国や地方自治体の政策動向に着目しています。

国内はもとより海外においても資産集積状況の変化が自然災害による被害を考える上で重要である点は共通です。米国においては過去のハリケーンによる経済損害が増加傾向にあることが知られていますが、資産集積の影響を補正すると大きな変化傾向はみられなくなります。経済損害の増加は、資産の集積によるところが大きいことがわかります。

(2)事業継続への影響 ~気候変動適応策の推進~

当社グループでは、気候変動リスクが当社のオペレーションに与える影響について、複数のシナリオを用いて※1包括的かつ固有の状況に応じて分析・評価し※2、気候変動対策や災害レジリエンスの向上の取り組みを推進しています。

包括的アプローチ(holistic approach)

気候変動に伴う気象災害(集中豪雨・洪水等)の増加が当社のオペレーションに与える影響を、複数のシナリオを用いて、包括的(holistic)に定量・定性両面から分析・評価し、中長期的(2~5年程度)かつ短期的(1年以内)な視程で対策を進めています。具体的には、保険商品は無形のサービスであることから、その提供に際して必ずしも物理的な営業拠点が必要ではないこと、保険商品の開発・製造において原材料調達等のサプライチェーンリスクが僅少であること等から、製造業等と比較して総じて、気象災害の増加が当社のオペレーションに与える影響は大きいものではないと評価しています。

  • ※1 IPCC SSP5-8.5, SSP3-7.0, SSP2-3.5, SSP1-2.6, SSP1-9, RCP8.5. RCP6.0, RCP4.5, RCP2.6等
  • ※2 英国Risilience社と連携し、気候変動リスクの分析・評価を行っています。
固有の状況に応じたアプローチ(context-specific approach)

気候変動に伴う気象災害(集中豪雨・洪水等)の増加が当社のオペレーションに与える影響を、複数のシナリオを用いて、固有の状況に応じて定性・定量両面から分析・評価し、気候変動により甚大化が懸念されている気象災害等から自社資産を保護するための取り組みを推進しています。具体的には、中長期的(2~5年程度)かつ短期的(1年)な視程で対策を検討し、主要拠点への非常用発電機の設置や止水板増設等の水害対策を進めています。

2.移行リスク

移行リスクは、脱炭素社会への移行に関連するリスクです。世界的な脱炭素化の動きが加速し脱炭素社会への移行が進むことで、法規制等の強化、技術革新、資産価値の変動、投資環境およびお客様ニーズの変化等が予想され、当社グループ事業に影響を与える可能性があります。移行リスクには、気候変動に伴って温室効果ガス排出量に係るコストが増加するなどして、投資先の企業価値や当社保有の資産価値に及ぼす影響等があります。当社では、政策株式の総量削減やエンゲージメント等に努めており、これらの取り組みが上記の影響を軽減することにつながっています。当社グループが保有する運用資産(株式、社債、CMBS)の移行リスクによる影響をBlackRock Solutionsが提供するモデル「Aladdin Climate」(以下「本モデル」)によって試算しました。本モデルでは、NGFS※1が提供するシナリオに準拠して、シナリオ変数(炭素価格、エネルギー需要、燃料価格、排出量等)が変動することよって、企業価値に与える影響を定量化したものです。具体的には、現在の政策が続いた状態(NGFSのHot house world-Current Policyシナリオ。気候変動への対応策が限定的で、今世紀末に気温が3.3℃上昇する)と以下の2つのシナリオが発生した状態を比較し、企業価値への影響を定量化したものです。

  • Orderly-Net Zero 2050(2050年までの気温上昇を1.5℃までに抑え、同年までにCO2排出量をネットゼロにする)
  • Disorderly-Delayed Transition(政策対応が遅れることで、2050年までに気温が1.8℃上昇する)
  • ※1 気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク

2022年3月末時点での当社グループが保有する運用資産(株式、社債、CMBS)に対し、本モデルによって移行リスクを計測した結果は以下の通りとなります。

移行リスク
Orderly Disorderly
合計 -4.9% -4.3%
株式 -6.8% -6.1%
社債 -2.6% -2.2%
CMBS -0.0% -0.0%
  • 本レポートに含まれる、BlackRockが提供するAladdin Climate分析は、当該情報の重要性や財務的影響に関する特性評価として解釈されるべきものではありません。
    Aladdin Climate分析には、非財務指標が含まれており、当該データの性質や当該データを決定するために使用される手法に内在する制約に起因する測定の不確実性を伴います。Aladdin Climate分析は、固定されたものではなく、時間の経過とともに変化及び進化する可能性があります。Aladdin Climate分析は、比較的新しい分析に依拠しており、利用可能な相互評価や比較可能なデータは限られています。BlackRockは、本レポートに含まれるAladdin Climate分析の内容、正確性、適時性、非侵害性、完全性を保証するものではなく、また責任を負うものではありません。また、BlackRockは、本レポートに含まれるAladdin Climate分析の使用または本レポートの情報に依拠して行われた行為に起因するいかなる責任を負うものではありません。

なお、本モデルでは、低炭素社会への移行に伴い、気候変動の緩和や適応を技術的に実践することで得られるポジティブな優位性(いわゆる「機会」)についての効果は算出しておりません。また、気候変動の定量化モデルに関しては、最新の研究結果をもとに改修が図られる等、現在も発展途上の段階との認識です。従いまして、現時点では、本数値を経営の意思決定に活用する予定はございませんが、今後もより適切な定量化モデル方法の活用に向けて、研究・調査を進めてまいります。

気候変動戦略の実践

1. 気候変動に対する当社の基本的な考え方

当社は、2020年9月末に気候変動に関する考え方をまとめた「気候変動に対する当社の基本的な考え方」を公表し、2021年9月末、2022年9月末に改定しました。このステートメントにおいて、当社は、脱炭素社会への移行について、お客様や投融資先を全力でサポートしていくことをコミットしています。また、パリ協定の合意事項達成に向けて、脱炭素社会への移行に貢献できる保険引受・投融資を行っていくために、以下の方針を定めています。

保険引受

石炭火力発電所および炭鉱開発(一般炭)については、新設および既設にかかわらず、新規の保険引受を行いません。但し、パリ協定の合意事項達成に向け、CCS/CCUS(※1)や混焼などの革新的な技術・手法を取り入れて進められる案件については、慎重に検討の上、対応を行う場合があります。
北極圏(北極野生生物国家保護区(ANWR、Arctic National Wildlife Refuge)を含む、北緯66度33分以北の地域)における石油・ガスの採掘事業(※2)およびオイルサンドの採掘事業についても新規の保険引受を停止し、自然環境を保護し脱炭素社会への移行を支援する取組みを強化します。

投融資

石炭火力発電所および炭鉱開発(一般炭)への新規のファイナンスは行いません。但し、保険引受同様にパリ協定の合意事項達成に向け、CCS/CCUSや混焼などの革新的な技術・手法を取り入れて進められる案件については、慎重に検討の上、対応を行う場合があります。
また、保険引受と同じように、北極圏における石油・ガスの採掘事業およびオイルサンドの採掘事業についても新規のファイナンスを停止し、自然環境を保護し脱炭素社会への移行を支援する取組みを強化します。

  • (※1)二酸化炭素回収・貯留/二酸化炭素回収・有効利用・貯留
  • (※2)パリ協定に沿った脱炭素計画を有する事業/企業は除きます。

なお、2020年9月末の「基本的な考え方」公表以降、2022年7月末に至るまで、石炭火力発電所および炭鉱開発(一般炭)についての新規の保険引受およびファイナンスはありません。また、既に保険引受を行っている発電所に対しても、温室効果ガスの排出削減に繋がる先進的な高効率発電技術や二酸化炭素回収・利用・貯留技術(CCUS/カーボンリサイクル)の採用など環境へ配慮するようエンゲージ(対話)をしていくことで、脱炭素社会への移行を支援しています。実際に当社グループは、対象発電所に関連するお客様とエンゲージメントを実施しており、商品提供やコンサルティング等を通じたトランジションの支援も行っています。なお、「基本的な考え方」公表後は、エンゲージメント実施シートを用意し、脱炭素社会への実現に向けた計画等を確認して記録に残す運用としていますが、脱炭素社会に向けた検討が行われていない事業であれば契約更新をお断りさせていただくこともあり得ると考えています。

2. 投融資(機関投資家としての取り組み)

当社は、グループ会社の東京海上日動と東京海上アセットマネジメントを通じ、国連責任投資原則(PRI)の署名機関として、財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の要素も考慮したESG投融資に関する方針を策定し、気候関連の要素を投資の意思決定プロセスに組み込むことで、脱炭素社会への移行を支援しています。
具体的には、投資先企業の財務情報に加えて、ESG要素を含む非財務情報も適切に考慮した、建設的な「目的を持った対話」等を通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長等を促す取組み(ESGエンゲージメント)や、財務情報に加えて非財務情報についても投資判断に考慮するESGインテグレーションの取組みを行っています。
このような取組みを進める中で、ESGをテーマとするグリーン債やサステナビリティ債等への投資を推進しており、これらのテーマ型投資の2022年3月末残高は東京海上日動、あんしん生命、日新火災合計で約650億円となります。
また、投資先の温室効果ガス排出量について、データ提供会社を活用した定量的な分析を開始しております。

3.ファンド組成(アセットマネージャーとしての取り組み)

東京海上アセットマネジメントは、2012年より太陽光発電所を投資対象とする再生可能エネルギーファンドを運営しており、脱炭素社会への移行に向けた取り組みを後押ししています。

再生可能エネルギーファンドの運用実績(2021年度末累計)

コミットメント金額は、約620億円 設置基数は、45基
  • TMニッポンソーラーエネルギーファンド 2012、2013、2014
    TMニッポン再生可能エネルギーファンド 2017
    TMニッポン長期自然エネルギーファンド 2020

4.国際的な気候変動関連論議をリード(グローバルカンパニーとしての取り組み)

気候変動は世界が一丸となって対策を講じるべき重要な社会課題であることから、当社グループは国際機関や政府、産業界、学界、NPOs/NGO等と積極的に対話を行っています。
2008年からは、ジュネーブ協会の気候変動に関するワーキング・グループの共同議長を務めるなど、国際会議の場で議論をリードしてきました。また、同協会の気候変動タスクフォースにも参加、フォワードルッキングな気候変動の影響評価に向けたシナリオ分析・ストレステストの指針作成に取り組んでいます。
2021年6月に発足した、英国チャールズ皇太子が構想したSustainable Markets Initiative(SMI)の保険業界タスクフォースに、当社グループはアジア圏の企業で唯一参加しています。

リスク管理

リスクベース経営(ERM)に基づく気候関連リスクの管理

当社グループでは、リスクベース経営(ERM)に気候関連リスクを含めてリスク管理を行っております。気候関連リスクについても、ERMサイクルにおいてリスクを定性・定量両面のアプローチから網羅的に特定、評価しております。
リスクテイクにより利益を追求する保険事業において、リスクの評価は事業の根幹です。当社グループでは、長年にわたり、自然災害リスクなどの重要なリスクについて、定性・定量の両面からリスク評価の高度化に取り組んできました。具体的な取り組みは以下のとおりです。

1.定性的リスク管理

当社は、巨大風水災等の自然災害や、環境変化などによって新たに現れてくるエマージングリスクを含め、あらゆるリスクを網羅的に把握しており、これらのリスクのうち、当社の財務健全性や業務継続性等に極めて大きな影響を及ぼすリスクを「重要なリスク」として特定しております。巨大風水災リスクも「重要なリスク」に含まれ、このリスクは気候変動の影響により頻発・激甚化する可能性があると考えております。「重要なリスク」については、リスク発現前の制御策やリスク発現後の対応策を策定しています。

2.定量的リスク管理

「重要なリスク」については、定量的なリスク管理において、リスク量の計測やストレステストの実施を通じて、格付けの維持および倒産の防止を目的として、保有しているリスク対比で資本が十分な水準にあることを多角的に検証しています。
自然災害のリスク量はリスクモデル(国内は自然災害に係る工学的理論や最新知見等をもとに自社で開発したリスクモデル、海外は外部機関が保険会社向けに作成したリスクモデル)を使用して計測しており、近年の自然災害の発生状況が適正にモデルに反映されるよう、過去の熱帯低気圧(日本の台風や米国のハリケーン)や豪雨等の変化傾向を独自に分析し、必要に応じて直近までの変化傾向を織り込むことによって、現在の気象現象を適切に評価しております。
更に、「重要なリスク」のうち、経済的損失が極めて大きいと想定されるシナリオおよび複数の重要なリスクが同時期に発現するシナリオに基づくストレステストを実施しており、巨大風水災リスクについては、例えば首都圏に大きな被害をもたらした2018年と2019年の台風よりもはるかに大きな規模の台風や洪水も想定しています。そして、各国規制当局等が公表するストレステスト、気候変動も含めた最新の知見、および直近の事例を考慮しながら、継続的にシナリオのアップデートを行っています。

リスク分散や再保険等を活用した適切なリスクコントロール

日本を母国市場とする当社グループにとって、国内の自然災害は避けて通れません。そのために、海外でのM&A等を通じてリスクを地理的にも事業的にも商品的にも分散することで、リスクの総量をコントロールしてきました。
そして、リスクをヘッジする再保険も保険会社の資本を守り、利益を安定させるための有効な手段です。当社グループは従来より、数百年に一度規模の巨大自然災害(キャピタルイベント)への備えとして再保険を活用する一方、アーニングカバーについては経済合理性の観点から判断し、必要な打ち手を講じています。

知見の獲得(産学連携等)

当社グループは、リスクそのものへの知見を獲得するために、社内外の有識者との連携等を深めています。
グループ会社の東京海上研究所では、東京大学、名古屋大学、京都大学等と連携し、自然災害の激甚化に伴う保険損害額増加の可能性を踏まえた影響分析等を実施しています。
さらに、当社はグループ会社の東京海上ディーアールおよび米国アトランタの専門チームに自然災害関連の専門人材を有し、自然災害リスクモデルに関する各種評価等、自然災害リスクに関連したグループ全体のリスク管理の高度化を図っています。

指標と目標

指標

事業活動に係るカーボン・ニュートラルの達成(2021年度)

  • 自社の事業活動に伴う排出量※1 83,483トン(2015年度対比△32%削減)(Scope1:13,022トン、Scope2:47,435トン、Scope3※2: 23,026トン)
  • 温室効果ガス(CO2)の吸収・固定量 130,003トン

東京海上グループでは、グループ全体(国内・海外)の環境負荷削減とカーボン・ニュートラル実現に向け、(1)省エネ・エネルギー効率化、(2)マングローブ植林によるCO2吸収・固定、(3)自然エネルギーの利用(グリーン電力の調達等)、(4)カーボン・クレジット(排出権)の償却、を推進してきました。その結果、2021年度のグループ全体の事業活動により生じるCO2排出量を、マングローブ植林、カーボン・クレジット利用によるCO2吸収・固定効果が上回り、2013年度から9年連続で「カーボン・ニュートラル」を達成しています。なお、マングローブ植林プロジェクトを通じて過去20年間(1999年4月から2019年3月末まで)の間に生み出された生態系サービスの価値は、累計約1,185億円に達しており、2038年度末には累計3,912億円になるとの試算結果を得ています。※3

資産運用ポートフォリオのGHG排出量関連指標

東京海上日動では、2021年3月末時点の国内上場株式、国内社債のポートフォリオを対象に、投融資先企業の気候変動関連リスク・機会を評価するために、TCFDが開示を推奨しているGHG総排出量と加重平均炭素強度(WACI:Weighted Average Carbon Intensity)の分析を行いました。なお、分析に際しては、MSCI ESG Research LLC社(以下MSCI社)が提供するデータをもとに計測しております4,5,6。今回の分析も活用しながら、引き続きエンゲージメントを通じて、投資先企業に対して気候変動開示の充実や脱炭素社会に向けた取り組みを働きかけていきます。

GHG排出量
(Scope 1&2:百万tCO2e
加重平均炭素強度
(tCO2e/百万米ドル)
国内上場株式 1.78 111
国内社債 1.13 545

GHG総排出量/ポートフォリオに関連した温室効果ガス排出量。計算にあたっては調整企業価値(株式時価総額+有利子負債)に対する当社持分で計算
加重平均炭素強度(WACI)/各投資先企業の売上高当たりのGHG排出量に、ポートフォリオの組入比率を乗じて算出し、合計した値

目標

2050年度の目標

  • 温室効果ガス排出量の削減目標
    東京海上グループが排出する温室効果ガス(CO2)の実質ゼロをめざす(含む投融資先※7※8

2030年度の目標※9

  • 自社の事業活動に伴う温室効果ガス排出量の削減目標
    東京海上グループが排出する温室効果ガス(CO2)を2015年度対比▲60%まで削減する※1,8
  • 電力消費量に占める再生可能エネルギー導入率目標
    東京海上グループの主要拠点において使用する電力を100%再生可能エネルギーとする
  • 社有車の電動化(東京海上日動、あんしん生命
    東京海上日動、あんしん生命において、保有する社有車を全て電動車(EV・PHV・HV等)にする

2023年度の目標

  • 洋上風力発電向け保険の正味収入保険料で50億円程度の増収(東京海上日動)
  • 火災保険における収益改善450億円超※10(東京海上日動 事業別利益)
  • ※1 自社事業活動に伴うもの(温室効果ガス排出量算定基準GHGプロトコルに基づくScope1(直接排出)+Scope2(間接排出)+Scope3(その他の間接排出、カテゴリ1,3,5,6)
  • ※2 紙使用量など(カテゴリー1,3,5,6)
  • ※3 株式会社三菱総合研究所に調査委託し、国際的に認められた方法論に従い評価
  • ※4 国内上場株式におけるカバー率(時価ベース)は95.0%です。国内社債におけるカバー率(時価ベース)は62.3%です
  • ※5 配信データは遡及修正される場合があります
  • ※6 GHG排出量の計測に際しては、MSCI ESG Research LLC・関連会社(以下「MSCI関係者」)及びその他の情報提供者から受領した情報を用いております。本情報は、閲覧者の内部利用に限定され、いかなる形式によっても複製や再販、また、金融商品や指数の根拠・構成要素としての使用等はできません。MSCI関係者は、本情報を以て、有価証券売買を認めておらず、本情報の正確性および完全性を保証せず、商品性および特定の目的への適合性を含むすべての明示または黙示の保証を明確に否認します。また、MSCI関係者は、本情報に関する誤りや脱落、あるいは直接的、間接的、その他の損害(利益損失を含む)に対して、たとえその可能性を通知されていたとしても、一切の責任を負わないものとします。
  • ※7 温室効果ガス排出量算定基準GHGプロトコルに基づくScope3、カテゴリ15
  • ※8 Scope3は、数値が把握可能で当社グループにとって重要性が高いカテゴリが対象
  • ※9 投融資ポートフォリオ(Scope3、カテゴリ15)における中間目標は検討中
  • ※10 自然災害保険金が平年並みであった場合

2023年6月5日更新