気候関連財務情報開示

2015年12月の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定において、世界共通の長期目標として、産業革命前からの平均気温の上昇を2℃より十分下方に保持することが明記されました。また、その長期目標の達成に向けて世界が協力して気候変動対応を推進する仕組み等が規定されたことにより、今後の社会経済活動に影響を与え、脱炭素社会への移行が推進されることが期待されています。
また、2021年8月に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が第6次評価報告書を公表し、人間の影響による温暖化には疑う余地がないこと、すでに工業化前から1.09℃温暖化していること、熱波や豪雨等の極端な現象の強度と頻度が増加することなどが指摘され、地球温暖化対策の更なる推進が期待されています。

気候変動は、お客様や社会の安心と安全に脅威をもたらすグローバルで人類史的な課題であり、自然災害の激甚化は、保険業界にも直接的な影響をもたらします。そのため、東京海上グループのサステナビリティ戦略において、本業である保険ビジネスはもとより、機関投資家、そしてグローバルカンパニーとして真正面から取り組むべき最重要課題と位置付けています。

東京海上グループは、パリ協定における長期目標の達成に貢献するため、再生可能エネルギーの推進、お客様や社会の気候変動対策推進の支援、自社の事業活動に伴うCO2排出量の削減、ESG投資等に取り組んでいます。また、1社だけではグローバルな気候変動対策に取り組んでいくことは難しいと考えており、複数の国際的なイニシアティブに加盟し、他社および政府機関とともに力を合わせて取り組んでいます。

TCFD提言に基づく気候関連財務情報開示

気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD、Task Force on Climate-related Financial Disclosures)は、金融安定理事会(FSB、Financial Stability Board)からの付託を受け、金融セクターにとって一貫性、比較可能性、信頼性、明確性をもつ効率的な情報開示を促す任意的な提言(TCFD提言)を策定し、2017年6月に公表しました。

地球規模の課題である気候変動・自然災害は、保険・金融サービス事業を展開する東京海上グループに大きな影響を及ぼします。そのため、東京海上ホールディングスは、TCFDの創設メンバーとしてTCFD提言の策定・公表に貢献し、その後も一貫してTCFDの活動を支援するとともに、2021年1月からは再度TCFDメンバーとして、日本国内外の官民関係当事者とも論議・意見交換を行い、投資判断に資する情報開示を促す政策提言に向け取り組んでいます。
2018年7月には、東京海上日動が、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)・持続可能な保険原則(PSI)が設立したTCFD保険パイロットグループに創設メンバーとして参画し、TCFD提言に沿った保険業界の気候関連情報開示にかかる方法論や分析ツールの検討・開発に取り組み、2021年1月の最終報告書「Insuring the climate transition」公表に貢献しました。

また、日本国内では、当社取締役会長(当時)が発起人の一人となって、2019年5月のTCFDコンソーシアム設立に貢献しました。設立後は活動方針を論議する企画委員会のメンバーとして関わるなど、2020年7月の「TCFDガイダンス2.0」公表等に貢献しているほか、企業の気候関連情報の効果的な開示や、開示された情報を金融機関等の適切な投資判断につなげるための取り組みに関する論議に参加しています。

東京海上ホールディングスは、「統合レポート2017」より、TCFD提言に基づく情報開示を行っており、毎年その充実に取り組んでいます。

次表は、TCFD提言に基づく情報開示の要素の概要を示しており、本レポートにおいて、各要素について詳細に報告しています。

TCFD提言に基づく情報開示

ガバナンス 戦略 リスク管理 指標と目標
  • a)取締役会による監視
  • b)経営の役割
  • a)気候関連リスクと機会
  • b)気候関連リスクと機会による影響
  • c)異なる気候シナリオによる潜在的な影響
  • a)気候関連リスクの特定・評価プロセス
  • b)気候関連リスクの管理プロセス
  • c)気候関連リスクの特定・評価・管理プロセスの総合的リスク管理への統合
  • a)気候関連リスク・機会の評価指標
  • b)Scope1、2および3のGHG排出量
  • c)気候関連リスク・機会の管理に用いる目標

出展:TCFD(June 2017)“Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures” Figure 4 (P.14) を基に当社作成

ガバナンス

サステナビリティ専任部署

当社は、気候変動対策を含むグループ全体のサステナビリティ推進の専任部署(経営企画部サステナビリティ室)を設置し、サステナビリティにおける主要課題の特定やグループサステナビリティ戦略の策定・推進、モニタリング等を行っています。

グループサステナビリティ総括(CSUO)

当社は、気候変動対策を含むグループ全体のサステナビリティ戦略の推進を加速すべく、2021年4月にグループサステナビリティ総括(CSUO)を新設しました。CSUOはサステナビリティ戦略の責任主体として、グループ全体のサステナビリティ課題への対応、グループCEOへの報告等について責任を負っています。

サステナビリティ委員会

当社は、気候変動対策を含むグループ全体のサステナビリティ戦略を加速すべく、2021年4月にサステナビリティ委員会を創設しました(CSUOを委員長とし、CEOおよびチーフオフィサー等にて構成)。本委員会では、グループ全体のサステナビリティ戦略および目標の策定、グローカルなサステナビリティ取り組みの調整・推進について審議します。

取締役会

取締役会では、気候変動対策を含むグループ全体のサステナビリティ方針を論議し、中期計画・単年度計画等を評価・決定します。また、取締役会では、気候変動対策を含め、直面する経営環境や経営課題等をテーマにした「戦略論議」を実施することで、社外取締役や社外監査役の知見を十分に活かしています。

戦略

リスクと機会の認識

当社グループでは、気候関連リスクの顕在化に伴う外部環境や業務環境の変化をあらかじめ想定し、リスク事象を洗い出すことで、当社グループへの影響を特定・評価しています。この一環として、物理的リスクのシナリオ分析を通じて、気候変動により深刻化する自然災害が保険引受に及ぼす影響を評価しています。
シナリオ分析は、一定のシナリオに基づいて気候変動の潜在的影響を特定し評価するプロセスです。損害保険事業は比較的短期の保険契約が多いこと、当社グループの運用資産は流動性の高い金融資産が中心であることなどから、当社グループはこれらの影響に対して機敏かつ柔軟に対応することが可能であると考えています。
加えて、お客様や社会の気候変動対策や脱炭素社会への移行を支援することは、当社グループの中長期的なビジネス機会の増加につながると認識しています。

物理的リスク

物理的リスクは、気候変動の物理的影響に関連するリスクです。気候変動は自然災害の頻度の高まりや規模の拡大につながり、保険料率の算定や保険金支払いに影響を及ぼす可能性があります。

1. 物理的リスク定量化の取り組み

当社グループでは、自然災害リスクの定量評価に使用している自然災害リスク定量化モデルについて、過去の熱帯低気圧(日本の台風や米国のハリケーン)や豪雨等の変化傾向を独自に分析し、必要に応じて直近までの変化傾向を織り込むことによって、現在の気象現象を適切に評価しております。
当社グループの東京海上研究所では、2007年より研究を開始し、将来気候下における台風に伴う風災リスクの変化(IPCCのRCP4.5およびRCP8.5シナリオ環境下)や降水量の増大に伴う洪水リスクの変化(+2℃、+4℃環境下)による保険損害額への影響を評価・算出しております。このようなシナリオ分析結果を参考にして、気候変動により深刻化する自然災害が保険引受に及ぼす影響を評価しています。
さらに、将来の気候変動シナリオ(+2℃、+4℃等)が特定された場合でも、後述するように気象現象の将来予測には不確実な要素があります。また、気候変動の影響評価にあたっては、気象現象だけでなく、災害に対する社会の脆弱性や、自然災害リスクに晒される地域に不動産や動産が今後どの程度集積するか、あるいはそれらの資産価値がどの程度上昇するか、すなわち資産集積がどの程度変化するかを評価することも重要と認識しております。
以下に、こうした評価のベースになると当社が考える気候関連リスクに対する認識について記載します。

2. リスクに対する認識

a. 気象現象についての認識

気候変動の影響により気象現象がどのように変化するか、またその影響予測の信頼度がどの程度かについては、気象現象の種類により異なります。例えば、台風やハリケーンといった熱帯低気圧に比べて豪雨への影響予測の方が信頼度が高いものの、豪雨への影響も熱波や寒波のような気温変動と比べると不確実性が大きいことがわかります。
当社グループへの影響の大きい気象現象である豪雨と熱帯低気圧(日本の台風および米国のハリケーン)について、当社は気候変動の影響を以下のように認識しています。

気候変動の豪雨への影響

日本では、既に1900年以降豪雨の頻度が増加しています。また、将来については、2021年8月に公表されたIPCC第6次評価報告書では、気温の上昇とともに豪雨は激甚化して、概ね1℃上昇するごとに豪雨の強度(降水量)が7%程度増加するとみられています。

気候変動の熱帯低気圧への影響

熱帯低気圧の発生・発達・移動には、大気・海洋の大規模な循環(エルニーニョ、モンスーン等)が関わっています。気候変動は、そのそれぞれの要素に影響を及ぼすため、結果として気候変動が熱帯低気圧に及ぼす影響の不確実性はより大きくなります。
まず過去の傾向をみると、地球全体では「強い熱帯低気圧の割合が過去40年間で増加している」とされていますが(IPCC第6次評価報告書)、地域によって変化傾向に差があります。例えば、日本の台風については、強い台風の発生割合および発生数とも、変化傾向はみられません(気象庁)。

米国のハリケーンについては、過去40年で強いハリケーンの割合が増加しているものの、さらに長期(1900年以降)の上陸数に関する調査では、全てのハリケーン、および強いハリケーンのいずれの上陸数とも、明確な傾向がないことがわかっています(IPCC第6次評価報告書)。

将来をみると、熱帯低気圧の発生数は全体的には横ばいか減少すると見込まれる一方、強い熱帯低気圧の割合は増加すると予測されています。このため、強い熱帯低気圧の発生数については、増減双方の予測が混在しているのが実情です(IPCC第6次評価報告書)。

また、当社も参加している国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)の気候変動影響評価プロジェクトでも、RCP8.5シナリオの2050年時点の予測として、熱帯低気圧の強度(風速)、発生数の変化を以下のとおり評価しており、将来予測に大きな不確実性があることがわかります。

  強度(風速) 発生数
日本(台風) +1% ~ +10% -30% ~ +28%
米国(ハリケーン) 0% ~ +7% -36% ~ +30%
b. 気象現象以外の要素の影響

日本では1900年以降豪雨の頻度が増加しています。一方、浸水面積については減少傾向にあります。これは、明治以降の堤防をはじめとする防災インフラの整備進展に伴い、豪雨時の洪水発生が抑えられていることによるものです。
また、自然災害リスクに晒される地域における不動産や動産等の物件の集積程度や物件の価値(資産集積)が変化すれば、被害額が大きく変わってきます。
このように、自然災害による被害を予測する上では、豪雨や台風といった気象現象そのものの変化だけでなく、社会の脆弱性や資産集積の状況の変化を把握することも重要と認識しております。

資産集積状況の変化についての認識

日本では今後も都市部への人口流入が継続すると予測されています。2015年から2040年にかけて、全国平均では世帯数が4.8%減少すると予測されている一方で、東京をはじめとする一部の都府県ではむしろ増加する見通しとなっているなど、資産集積の変化傾向は地域により異なります。

また、自然災害による被害という観点からは、同一都道府県内であってもどこに資産があるのかが重要な要素となります。昨今の自然災害による被害の頻発を受け、国土交通省からは「水災害リスクの低減にも配慮して居住地域や都市機能の立地を誘導することが重要」との考えが示されており、当社グループとしても国や地方自治体の政策動向に着目しています。

国内はもとより海外においても資産集積状況の変化が自然災害による被害を考える上で重要である点は共通です。米国においては過去のハリケーンによる経済損害が増加傾向にあることが知られていますが、資産集積の影響を補正すると大きな変化傾向はみられなくなります。経済損害の増加は、資産増加によるところが大きいことがわかります。

社会の脆弱性についての認識

日本において、建築基準法の改定が社会全体のレジリエンス強化に直結していることは論を待ちません。実際のところ、1981年に行われた耐震基準の改定、2000年に行われた耐風圧性基準の改定等は建物の自然災害に対する耐性の強化に大きく貢献しています。直近では、2019年台風15号で多発した屋根被害を踏まえた、屋根ふき材に対する強風対策の改定が、2022年4月に予定されています。また国土交通省は、今後、防災インフラを整備するに当たっては、想定される自然災害の激甚化を考慮して行うべきとの方針を既に打ち出しています(2019年に河川、2020年に高潮について提言)。

海外においても社会全体のレジリエンス強化の取り組みは進んでおり、例えば米国ではハリケーン・カトリーナ(2005年)、サンディ(2012年)、イルマ(2017年)等の巨大災害を受け、防災インフラの整備や建築基準法の改定が行われています。
なお、こうした国内外におけるレジリエンス強化の動きを踏まえて、当社グループとしても、災害情報の発信等を通じお客様の災害対応を支援することにより、社会全体のレジリエンス強化に貢献しています。

3. 知見の獲得(産学連携等)

当社グループは、リスクそのものへの知見を獲得するために、社内外の有識者との連携等を深めています。
グループ会社の東京海上研究所では、東京大学、名古屋大学、京都大学等と連携し、自然災害の激甚化に伴う保険損害額増加の可能性を踏まえた影響分析等を実施しています。
さらに、当社はグループ会社の東京海上ディーアールおよび米国アトランタの専門チームに自然災害関連の専門人材を有し、自然災害リスクモデルに関する各種評価等、自然災害リスクに関連したグループ全体のリスク管理の高度化をリードしています。

移行リスク

移行リスクは、脱炭素社会への移行に関連するリスクです。世界的な脱炭素化の動きが加速し脱炭素社会への移行が進むことで、法規制等の強化、技術革新、資産価値の変動、投資環境およびお客様ニーズの変化等が予想され、当社グループ事業に影響を与える可能性があります。
移行リスクには、温室効果ガス排出量の大きい金融資産の価格変動リスクがあります。当社は、グループ全体の運用資産の状況を把握できるシステムを構築し、対象となる残高を把握しています。資産価値の変動リスクに対応する保有制限という観点では、当社グループは、コーポレートガバナンス・コードが公表されるかなり前から、セクターの濃淡をつけず、政策株式の総量削減に努めてきました。新中計においても、年間1,000億円以上の売却に取り組む方針としています。

なお、移行リスクに関しては、定量的にも把握できるよう各国規制当局の開示情報等を参考に、シナリオ毎の影響額の試算に取り組んでおります。また、今後もこれらのリスクを定量的に適切に捉えていくため、データ提供会社も活用しながら体制整備を進めていく予定です。
また、移行リスクには訴訟リスクもあります。現時点では気候関連の訴訟リスクは必ずしも高いものではありませんが、今後気候変動や自然災害による被害が増加した場合、気候変動関連の訴訟や法令違反等にも影響するなどして、賠償責任保険にかかる支払保険金が増加する可能性があります。

機会

気候変動の緩和・適応のための取り組みは当社グループにビジネス機会をもたらします。当社グループはTCFD提言が特定した5つの分類※を総合的に勘案し、ビジネス機会として以下を識別しています。

再生可能エネルギー事業に関する保険ニーズの飛躍的増大

地球温暖化・気候変動を背景に、世界各国で脱炭素化に向けた動きが加速しており、温室効果ガス排出削減・停止が推進される過程では、太陽光発電や地熱発電、陸上・洋上風力発電等の再生可能エネルギー事業に関する保険ニーズの飛躍的な増大が見込まれます。地球温暖化・気候変動への対応の重要性が増す中、当社グループ全体で培ってきた叡智を結集することで、再生可能エネルギーの普及支援を通じた成長を実現することができます。

自然災害リスクに対する社会の意識の高まりと火災保険の収益改善

自然災害が多発化・大型化する中で、補償拡充や災害時の手厚いサービスを求めるニーズが高まる一方で、火災保険は恒常的な赤字が続いています。料率改定や商品の見直し、アンダーライティングの強化、防災・減災、早期復旧等の総合的な対策を講じることで、火災保険の大幅な収益改善を図ることができます。

災害レジリエンス向上に向けた防災・減災ニーズの増加

自然災害リスクの顕在化に伴い、保険による金銭的な補償に加えて、発災前後の災害被害軽減策の充実が年々重視されるようになってきています。当社は災害被害にかかる保険金の適切な支払に加えて、事前の防災、災害発生後の減災・早期復旧サービスを提供しています。長年培ってきた防災・減災に関するノウハウを活かしたリスクコンサルティングサービスのさらなる成長も期待されています。

  • TCFD提言にて特定した機会では、資源の効率性、エネルギー源、製品・サービス、市場、レジリエンスの5つがあります

気候変動戦略の実践

1. 保険引受等

a. 基本スタンス

当社グループは、事業の遂行を通じてもたらされる環境・社会への影響について、その重要性を十分認識しており、パリ協定の合意事項達成に向けて、脱炭素社会への移行に貢献できる保険引受を行っています。
その中で、石炭火力発電所および炭鉱開発(一般炭)については、新設および既設にかかわらず、新規の保険引受は行いません。ただし、パリ協定の合意事項達成に向け、CCS(二酸化炭素回収・貯留)/CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)や混焼等の革新的な技術・手法を取り入れて進められる案件については、慎重に検討の上、対応を行う場合があります。なお、2020年9月28日「気候変動に対する当社の基本的な考え方」を公表以降、2021年8月末に至るまで新規の保険引受はありません。
また、既に保険引受を行っている発電所に対しても、温室効果ガスの排出削減・停止につながる先進的な高効率発電技術や二酸化炭素回収・利用・貯留技術(CCUS/カーボンリサイクル)の採用等環境へ配慮するようエンゲージしていくことで、低炭素化の取り組みを支援しています。実際に当社グループは、対象発電所に関連する全てのお客様とエンゲージメントを実施しており、商品提供やコンサルティング等を通じたトランジションの支援も行っています。なお、「気候変動に対する当社の基本的な考え方」公表後は、エンゲージメント実施シートを用意し、脱炭素社会への実現に向けた計画等を確認し記録に残す運用としていますが、脱炭素社会に向けた検討が行われていない事業であれば契約更新をお断りさせていただくこともあり得ると考えています。

b. 再生可能エネルギー事業の発展を後押しする保険の提供(保険会社としての取り組み)

当社グループでは、再生可能エネルギー事業の発展を後押しすべく、保険商品の提供やリスクコンサルティングを実施しています。
具体的には、太陽光発電会社向けの「メガソーラー・パッケージ・プログラム」や地熱発電事業者向けの「地熱パッケージプラン」に加え、2020年3月には、洋上風力発電事業のリスクを包括的に補償する専用パッケージ保険(建設・工事期間中だけでなく、操業開始後も一定期間保険の提供を行うことで、お客様に切れ目のない補償を提供)を開発しました。
また、同年5月には、米国、欧州を中心として、オーストラリア、南アフリカ、アジア等、世界中で再生可能エネルギー事業向けの保険引受を行う保険総代理店GCubeを買収し、同社のノウハウをグループレベルで活用しています。東京海上ディーアールでは、独自の自然災害リスク評価モデルや再生可能エネルギーの専門人材等を活用することで、洋上風力発電等の様々な領域におけるコンサルティングも提供しています。東京海上日動では、2021年6月にGX室を設置し、新たな脱炭素技術に関する保険商品・リスクコンサルティングサービスの開発を加速させています。
地球温暖化・気候変動への対応の重要性が増す中、当社グループ全体で培ってきた叡智を結集することで、“One Tokio Marine Group” として更に取り組みを加速し、この分野のリーディングカンパニーとして、再生可能エネルギーの普及支援を通じた成長を実現していきます。

c. 自然災害リスクに対する社会の意識の高まりとサステナブルな火災保険制度の構築(保険会社としての取り組み)

2020年度、国内では令和2年7月豪雨、台風10号等、大規模自然災害が発生しました。自然災害に関する業界全体の保険金は3千億円を超え、その中で当社グループの保険金も約1千億円となりました。
近年の自然災害の多発化・大型化を背景に、補償拡充や災害時の手厚いサービスを求めるニーズが高まる中、当社グループとしても「ご契約内容確認運動」を全国で推進することで、着実なトップライン成長を実現しています。
自然災害大国の日本において、火災保険制度は非常に大切なものですが、一方で、恒常的な赤字の状態では、サステナブルなものとは言えません。当社自身のコスト削減努力は大前提ですが、料率改定や商品の見直し、アンダーライティングの強化、そして防災・減災、早期復旧等の取り組み等、総合的な対策を加速させることで、3年間で260億円(税前)※を超える収益改善を実現し、その後数年で、資本コスト相当の収益性を確保していくこととしています。

  • 自然災害保険金が平年並みであった場合
d. 保険金支払いの迅速化(保険会社としての取り組み)

保険会社である当社にとって何よりも大切なことは、自然災害で被害に遭われた方々に、一刻も早く、保険金という形で安心をお届けすることです。お届けした保険金は被災者にとって「明日の大きな力」となる。こう信じて、デジタルを活用した保険金支払いの迅速化に取り組んできました。
具体的には、お客様はスマートフォンひとつで簡単に保険金請求手続きを行うことができ、また損害確認や事務も人工衛星やAI、RPA等のデジタル技術の活用により大幅な効率化が実現しています。2020年度はコロナ禍での自然災害対応という厳しい状況にありましたが、こうした仕組みを活用することで、円滑なオペレーションを実現できたと考えています。
一方で、お客様対応においては、被災されたお客様のお気持ちに寄り添うことも重要です。当社は、デジタルの活用により創出された時間を、お客様への寄り添いや価値提供領域の拡大等に活かすことで、感動レベルのお客様対応を実現していきたいと考えています。
こうした「人の力とデジタルの融合」による被災者サポートの充実は、お客様からも高く評価されており、当社ファンの拡大にもつながっています。

e. 事前・事後の安心の提供(災害に強い社会づくりに貢献)(保険会社としての取り組み)

保険金支払いは保険会社にとって最も大切な機能ですが、これだけではお客様をお守りすることはできないと考えています。そもそも災害は起きない方がいい。起きても被害は小さい方がいいし、復旧も早い方がよい。そして、再発はしない方がいい。当社グループではこうした想いから、防災・減災、早期復旧、再発防止といった「事前・事後の安心」の提供に努めており、これらは損害率の改善やお客様からの支持拡大にもつながっています。

具体的な事例
  • グループ会社が持つ高い専門性を活かして、自治体や金融機関等とも連携しながら、企業のリスク評価やBCP(事業継続計画)の策定支援等のサービスを提供しています。
  • 東日本大震災で得た教訓を踏まえ、「防災の知識を子どもたちに伝え、次の災害に備えるための手助けをしたい」との想いから、小学生向けの出前授業「ぼうさい授業」を行っています。
  • 2021年7月に開始した「東京海上日動 住まいの保険×赤い羽根 防災・減災プログラム」では、Web約款・証券により削減される費用の一部を赤い羽根に寄付することで、お客様がお住まいの地域の防災・減災活動等に活用されています。
  • 国立研究開発法人防災科学技術研究所の協力のもと、AI技術を活用して開発した「水災危険度予測システム」は、危険度が高まっているエリア等を見える化し、豪雨発生時の自治体の意思決定をサポートすることで、地域住民の被害を最小限に抑えることができます。
  • 災害復旧専門会社「ベルフォアジャパン」と提携し、災害復旧支援サービスを提供しています。
  • 東京海上ディーアールは、当社グループの損害保険分野で培った経験・知見に基づき自然災害リスクを定量評価する高度な技術を有しています。これを活用して、「災害に強い企業・社会をつくる」ために、様々な自然災害リスクの評価、分析、対策立案等のサービスを提供しています。

当社グループは、このような「事前・事後の安心」をより充実させるために、デジタルやデータも高度に活用していきます。具体的には、2021年7月に立ち上げたデータ中核会社「東京海上ディーアール」に、専門性の高いデジタル人材を集約することで、取り組みを加速し、「お客様の“いざ”という時」を支えるためにも、「“いつも”支えることができる存在」へと進化できるよう、挑戦を続けていきます。

2. 投融資(機関投資家としての取り組み)

投融資においては、脱炭素社会への移行に貢献するため、石炭火力発電所および炭鉱開発(一般炭)については、新設および既設にかかわらず、新規のファイナンスは行いません。ただし、保険引受同様にパリ協定の合意事項達成に向け、CCS(二酸化炭素回収・貯留)/CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)や混焼等の革新的な技術・手法を取り入れて進められる案件については、慎重に検討の上、対応を行う場合があります。なお、2020年9月28日「気候変動に対する当社の基本的な考え方」を公表以降、2021年8月末に至るまで新規のファイナンスはありません。
また、データ提供会社を活用し、投資先の温室効果ガス排出量がどの程度あるのかといった定量的な分析を開始しております。
当社は、グループ会社の東京海上日動と東京海上アセットマネジメントを通じ、国連責任投資原則(PRI)の署名機関として、財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮したESG投融資に関する方針を策定し、気候関連の要素を投資の意思決定プロセスに組み込むことで、脱炭素社会への移行を支援しています。
具体的には、投資先企業の財務情報に加えて、ESG要素を含む非財務情報も適切に考慮した、建設的な「目的を持った対話」等を通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長等を促す取り組み(ESGエンゲージメント)や、財務情報に加えて非財務情報についても投資判断に考慮するESGインテグレーションの取り組みを行っています。
また、東京海上アセットマネジメントは、2012年より太陽光発電所を投資対象とする再生可能エネルギーファンドを運営しており、脱炭素社会への移行に向けた取り組みを後押ししています。

3. 国際的な気候変動対策会議で論議をリード(グローバルカンパニーとしての取り組み)

気候変動は世界が一丸となって対策を講じるべき重要な社会課題であることから、当社グループは国際機関や政府、産業界、学界、NPOs/NGO等と積極的に対話を行っていますし、2008年からは、ジュネーブ協会の気候変動に関するワーキング・グループの共同議長を務めるなど、国際会議の場で議論をリードしてきました。
また、ジュネーブ協会の気候変動タスクフォースにも参加、フォワードルッキングな気候変動の影響評価に向けたシナリオ分析・ストレステストの指針作成に取り組んでいます。
なお、2021年6月、英国チャールズ皇太子が構想したSustainable Market Initiative(SMI)の保険業界タスクフォースが発足しましたが(メンバー17社)、当社グループはアジア勢から唯一参加しています。

リスク管理

リスクベース経営(ERM)に基づく気候関連リスクの管理

当社グループでは、気候関連リスクを幅広いリスク管理の対象とし、その高度化を進めてきました。例えば、将来想定される気候条件を基に、台風リスクの変化や、降水量の増大に伴う洪水リスクの変化による保険損害額への影響を評価・算出していますが、このようなシナリオ分析結果を参考にして、気候変動により激甚化する可能性のある自然災害が保険引受に及ぼす影響を考慮し、グループ全体でリスクベース経営(ERM)に基づいたリスク管理を実施しています。
当社グループのERMサイクルにおいて、グループ全体でどのようなリスクをどの程度取るかというリスクアペタイト・フレームワークを設定し、同フレームワークに基づいて事業計画を策定しております。当該事業計画に基づいて資本配分計画の決定・実行を行っており、ここでグループ全体の視点で資本・資金の十分性を検証して、リスクを定性・定量両面のアプローチから網羅的に特定し、評価しております。

定性的リスク管理

当社は、巨大風水災等の自然災害や、環境変化等によって新たに現れてくるエマージングリスクを含め、あらゆるリスクを網羅的に把握しています。これらのリスクのうち、当社の財務健全性や業務継続性等に極めて大きな影響を及ぼすリスクを「重要なリスク」として特定しており、気候関連リスクを含む自然災害リスクも「重要なリスク」に含まれます。「重要なリスク」については、リスク発現前の制御策やリスク発現後の対応策を策定しています。

定量的リスク管理

「重要なリスク」については、定量的なリスク管理において、リスク量の計測やストレステストの高度化も進めています。
自然災害のリスク量はリスクモデル(国内は自然災害に係る工学的理論や最新知見等をもとに自社で開発したリスクモデル、海外は外部機関が保険会社向けに作成したリスクモデル)を使用して計測しており、近年の自然災害の発生状況が適正にモデルに反映されるよう、最新の知見を収集し、モデルの検証・評価や高度化を実施しています。
また、当社では、低頻度であるものの発生すれば甚大な影響が出る厳しいケースを想定してストレステストも実施しており、例えば首都圏に大きな被害をもたらした2018年と2019年の台風よりもはるかに大きな規模の台風や洪水も想定しています。そして、各国規制当局等が公表するストレステスト、気候変動も含めた最新の知見、および直近の事例を考慮しながら、継続的にシナリオのアップデートを行っています。

リスク分散や再保険等を活用した適切なリスクコントロール

日本を母国市場とする当社グループにとって、国内の自然災害は避けて通れません。そのために、海外でのM&A等を通じてリスクを地理的にも事業的にも商品的にも分散することで、リスクの総量をコントロールしてきました。こうした取り組みによって2020年度の「平年を超える自然災害の発生保険金」を、グループ全体の利益の5%程度※にまで抑えることができました。
そして、リスクをヘッジする再保険も保険会社の資本を守り、利益を安定させるための有効な手段です。当社グループは従来より、数百年に一度規模の巨大自然災害(キャピタルイベント)への備えとして再保険を活用する一方、アーニングカバーについては経済合理性の観点から判断し、必要な打ち手を講じています。

  • 年初予想額を超える自然災害に係る発生保険金の割合

指標と目標

2030年度の目標

  • 自社の事業活動に伴う温室効果ガス排出量の削減目標
    東京海上グループが排出する温室効果ガス(CO2)を2015年度対比▲60%まで削減※1
  • 電力消費量に占める再生可能エネルギー導入率目標
    東京海上グループの主要拠点において使用する電力を100%再生可能エネルギーとする
  • 社有車の電動化(東京海上日動、あんしん生命)
    東京海上日動、あんしん生命において、保有する社有車を全て電動車(EV・PHV・HV等)にする

2023年度の目標

  • 洋上風力発電向け保険の正味収入保険料で50億円程度の増収(東京海上日動)
  • 火災保険における収益改善260億円超※2(税前)(東京海上日動)

その他

  • 東京海上グループにおける事業活動に伴うカーボン・ニュートラルの達成を継続※1
    東京海上日動は、1999年から植林NGOと共にアジア太平洋地域においてマングローブ植林プロジェクトを実施しています。この植林活動等により、当社グループは2013年度から8年連続で事業活動においてカーボン・ニュートラル※1を達成しており、今後も達成に向けた取り組みを継続していきます。
    なお、マングローブ植林プロジェクトを通じて過去20年間(1999年4月から2019年3月末まで)の間に生み出された生態系サービスの価値は、累計約1,185億円に達しており、2038年度末には累計3,912億円になるとの試算結果を得ています※3。
  • ※1自社事業活動に伴うもの(温室効果ガス排出量算定基準GHG プロトコルに基づくScope1(直接排出)+Scope2(間接排出)+Scope3(その他の間接排出、カテゴリ1,3,5,6)
  • ※2自然災害保険金が平年並みであった場合
  • ※3株式会社三菱総合研究所に調査委託し、国際的に認められた方法論に従い評価