なぜ“宇宙”に挑み続けるのか

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2024年12月27日

東京海上グループは、1970年代から約50年にわたって、宇宙産業の発展に貢献していることをご存じですか?

今回は宇宙保険の第一線で活躍している東京海上日動 航空宇宙・旅行産業部の吉井信雄と横浜航、東京海上ホールディングス デジタル戦略部の藤岡真梨奈の3名に、東京海上グループが宇宙産業を支援する理由や意義などについてインタビューしました。

豊富なノウハウが裏付ける、宇宙保険引受とコンサルティング力

東京海上日動 航空宇宙・旅行産業部 吉井信雄

──東京海上グループが宇宙産業を支援してきた歴史について教えてください。

吉井

1970年代に宇宙開発事業団(NASDA。現在の宇宙航空研究開発機構=JAXA)が開発した通信衛星の打上げ保険に参加したことがきっかけで、宇宙保険を扱うようになりました。現在、世界全体で宇宙保険の引き受けができる保険会社は30社ほどしかなく、当社もロンドン所在の宇宙保険ブローカーから毎年200件以上の衛星にかかわる宇宙保険のオファーを受けています。

──宇宙保険には、打上げ保険のほかにも、いくつか種類があるのですか?

吉井

ロケットや衛星などの損傷という財物のリスクに備える保険と、ロケットや衛星の打上げなどが原因で第三者に損害を与えてしまった場合に備える賠償責任保険の大きく2つに分けられます。その中でも、カバーする内容によって、保険商品は細分化されます。

横浜

私と吉井さんが所属する航空宇宙・旅行産業部 エアライン宇宙保険チームでは、国内外の宇宙保険引受業務と、国内の宇宙関連事業者向けのコンサルティングを主な業務としています。

──宇宙保険の引受条件は、どのように決まっていくのですか?

横浜

宇宙保険の引受条件は、ロケットや衛星の構造やスペックに応じて個別に決定されます。例えば放送衛星の場合、放送事業者は衛星メーカーから衛星を購入し、ロケット打上げ事業者に依頼して、衛星を軌道に乗せてもらうことになります。どのメーカーの衛星を、どのロケットで打上げるかによって、保険料率も個別に違ってきます。

吉井

衛星を利用するビジネスでは、衛星製造費、ロケット代金、その次に打上げ保険料が大きいというコスト構造になっているため、国際宇宙保険市場での評価はプロジェクトコストにダイレクトに影響します。そのため、ロケット打上げ事業者や衛星メーカーは、国際宇宙保険市場から適正な評価を得るために、保険業界に対して技術説明会を開催し、詳細な技術情報を開示します。国際宇宙保険市場で評価が高い製品は、通信や放送などの事業者が衛星を購入する際に採用されやすくなりますから。宇宙産業の事業者がハードウエアを選定する際は、宇宙保険業界にアクセスしてアドバイスを受けるのが常識になっています。

──世界中の技術情報の蓄積が、コンサルティング力につながっているのですね。

横浜

東京海上日動は、30年以上の国際市場における宇宙保険引受を通じてアンダーライティングのノウハウを蓄積してきています。ここ数年で宇宙産業にもたくさんのスタートアップ企業が出てきましたが、当社が蓄積してきた知見をもとに、事業者に対して「こういう観点で部品を選定したらいいですよ、ハードウエアを設計したらいいですよ」、「ロケット選定のポイントはこうですよ」と、具体的なコンサルティングができることは、私たちの強みです。

東京海上日動 航空宇宙・旅行産業部 横浜航

宇宙産業の支援を通じて、社会課題を解決していく

──近年、宇宙産業の市場規模は拡大し、モルガン・スタンレーによると、2040年までに140兆円規模(20年で約3倍)になるという試算もあります。なぜこれほど市場規模が拡大しているのでしょうか?

吉井

これまで宇宙産業のボトルネックは、ロケット打上げに関わる衛星の輸送費でした。主要国の基幹ロケットはこれまで政府主導で開発が進められていましたが、近年、米・スペースX社に代表されるような民間企業がロケット打上げ事業に参入したことで輸送コストが劇的に下がりました。加えて、衛星の新しい使い方が出てきていることも要因です。今伸びているのは、低い軌道に多数の衛星を配置して地球全体をカバーするコンステレーションという技術を活用したものです。

横浜

低軌道の衛星は増えていますね。インターネットに活用される通信衛星、マイクロ波の跳ね返りで地表を観測するSAR衛星、光学センサを用いて地上を撮影する光学衛星など、今後も増えていくと考えています。これらは商用利用も当然のことながら、安全保障の分野でも重要なポジションを占める技術として期待されています。

──宇宙産業の市場拡大を見据えて、東京海上グループは2022年に宇宙プロジェクトを立ち上げました。狙いなどを教えてください。

横浜

スタートアップ企業をはじめ、非宇宙産業の企業、地方自治体など、宇宙産業に参入する事業関係者の裾野が広がり、対応すべき領域も多岐にわたってきています。これらの動きに的確に対応するためにはより大きな枠組みでの活動が必要となります。また、衛星データを活用した新たな商品、サービスを開発していきたいとの狙いもあります。

藤岡

私は保険以外の新規事業やソリューションの開発を行う東京海上ホールディングス デジタル戦略部から参画していますが、東京海上日動の航空宇宙・旅行産業部、マーケット戦略部の3部を中心に、損害サービス部、商品開発部、関心のある有志メンバーなど社内横断のチームとなり宇宙産業の成長・発展への貢献を目指しています。

──宇宙プロジェクトで支援している取り組みの例を教えてください。

藤岡

北海道大樹町、福島県南相馬市、和歌山県串本町、大分県など、宇宙関連企業の誘致やスペースポート建設を通じて、地方創生に取り組む地方自治体や地元企業が増えています。東京海上日動の各支店と宇宙プロジェクトチームが連携してアドバイスを提供するなど、地域の宇宙産業を盛り上げる支援をしています。

日本における「宇宙」のイメージを変えていく

東京海上ホールディングス デジタル戦略部 藤岡真梨奈

──今後の宇宙プロジェクトの展望や、業務を通じて解決していきたい社会課題について教えてください。

藤岡

東京海上グループ全体で注力している自然災害の被害を最小限に抑える防災・減災領域に、宇宙技術を活用できる可能性があると考えています。既に衛星データの活用を始めていますが、今後、衛星の機数が増え、地球全体をスキャンできる時代になれば、さらに「保険会社における衛星データ活用」も広がっていくはずなので、衛星データを活用したサービスやソリューションを開発していきたいです。また、宇宙というと難しいイメージがありますが、自社メディアの「SpaceMate 新規タブで開きます 」を通じて、世の中の人がもっと宇宙を身近に感じてもらえるようにわかりやすい情報発信もしていきたいです。

横浜

東京海上グループは、ブランドメッセージとして「次の一歩の力になる。」を掲げています。宇宙産業においても、挑戦していく事業者を支援し、宇宙というフィールドで新しいインフラを作っていくための力になっていきたいです。そのためにも新しい技術をキャッチアップしたり、吉井さんのようなエキスパートから学んで、事業者の競争力が高まるような支援をしていきたいです。

吉井

昨年「宇宙戦略基金」の設立が閣議決定され、今後10年間で最大1兆円の政府資金が宇宙産業に投入される予定です。重要な宇宙関連プロジェクトを支援し、日本の宇宙産業を世界で戦える産業にしていく活動をしていきたいです。それが日本の大きな社会課題の解決につながると信じています。

まとめ

日本の宇宙産業の黎明期から、挑戦する事業者を支援してきた東京海上グループ。宇宙保険は1件ごとに引受条件が異なり、蓄積した知見が、保険会社としての強みになっています。宇宙産業を支援していくことで、社会課題を解決し、新しい未来をつくっていきます。

  • 掲載内容は2024年11月取材時のものです。
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