気候変動に対する当社の基本的な考え方

当社の気候変動戦略

取締役社長グループCEO
小宮 暁

東京海上グループは、「安心と安全をお届けすることにより、お客様や地域社会の“いざ”をお守りすること」を事業の目的としており、事業を通じて社会のお役に立ち続けることで、100年後もお客様や社会から必要とされるGood Companyをめざしています。これまで私たちは、長年にわたり保険事業で培った知識と経験をいかして、安心と安全の提供を通じて社会の発展に貢献できるように努めてきました。これからも社会課題の解決に取り組み、安心・安全でサステナブルな未来づくりに貢献することで、グループの企業価値を永続的に高めながら、当社を取り巻く全てのステークホルダー、更には幅広く社会全体のお役に立つ価値をつくりだしていきます。

気候変動は、お客様や社会の安心と安全に脅威をもたらすグローバルで人類史的な課題であり、自然災害の激甚化は、保険業界に直接的な影響をもたらします。そのため、私たちの本業である保険ビジネスはもとより、機関投資家、そしてグローバルカンパニーとして真正面から取り組むべき最重要課題と位置付けています。東京海上グループは、2015年12月の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議で採択されたパリ協定における2℃目標の達成に向けた、国際機関や政府、産業界、学術機関、市民社会等さまざまな機関・業界の皆様との建設的な対話や協働をふまえ、気候変動対策に主体的に取り組むことで、脱炭素社会への移行推進に貢献していきます。

以下では、気候変動が私たちの事業と社会に及ぼす影響を把握し適切に対応していく戦略と、様々な事業活動を通じた脱炭素社会への移行の実現に向けた東京海上グループの取組みについてお伝えします。

ガバナンス

東京海上ホールディングスでは、サステナビリティ推進専任部署によるグループ全体のサステナビリティ戦略の策定の中で、気候変動に関するリスクと機会の特定および評価の結果のとりまとめを行います。

また、東京海上ホールディングスの取締役会では、気候変動を含むグループ全体のサステナビリティ方針を決議し、当該方針に基づく中期計画・単年度計画の取組状況のモニタリングを行います。

効果的なリスク管理と収益機会の拡大

私たちは、気候変動が私たちのビジネスにさまざまなリスクをもたらすことをふまえ、グループ全体のリスク管理、およびリスクベース経営(ERM)に基づく事業活動を実施しています。同時に気候変動がビジネスに新たな機会をもたらす可能性も認識しており、お客様のニーズおよび、その変化に対応した商品・サービスを提供することで収益機会の拡大を図ります。実際の気候変動は、主に次のようなリスクと機会を私たちのビジネスにもたらします。

物理的リスク
諸説あるものの、将来発生する自然災害の頻度の高まりや規模の拡大につながる可能性や、過去の統計データに基づく分析だけでは適切にリスク評価ができず、保険料率の算定や大規模災害の保険金支払いへの備えに影響を及ぼす可能性等、気候変動は損害保険事業やグローバル企業の事業活動にとって脅威となり得ます。私たちは、ERMプロセスを通じて、新たなリスクにも適切に対応できるように、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)シナリオ等を使用した分析・評価も行い、気候関連リスクも含む幅広い分野を重要なリスク管理の対象としています。
移行リスク
世界的な脱炭素化の動きが加速し脱炭素社会への移行が進むことで、法規制等の強化、技術革新、資産価値の変動、投資環境およびお客様ニーズの変化等が予想され、私たちはこれらの変化に機敏に対応する必要があります。私たちはこうした移行リスクのエクスポージャーの把握や商品開発の態勢整備等を進めるとともに、これらの様々な変化に応じた商品・サービスを開発・提供しています。なお、損害保険事業は比較的短期の保険契約が多いため、これらの変化に対して機敏かつ柔軟に対応することが可能です。
機会
温室効果ガス排出削減・停止が推進される過程では、主力電源の移行が進む中、太陽光発電や地熱発電、陸上・洋上風力発電など再生可能エネルギー事業に対する保険へのニーズが増大する可能性があります。こうしたニーズに十分に応えられるように、保険引受におけるリスク評価を高度化し、再生可能エネルギー事業向けの保険をさらに開発・提供してまいります。

気候変動戦略の実践

私たちのビジネスは、お客様や地域社会の“いざ”をお守りするソリューションを提供することであり、気候変動はその必要性をさらに高めるものであることを認識しています。新たなリスクを特定し、お客様ニーズの変化に適した商品・サービスを開発・提案することが重要です。私たちは、保険引受業務、投融資業務を通じてこれらを実践します。

保険引受

私たちは、事業の遂行を通じてもたらされる環境・社会への影響について、その重要性を十分認識しており、パリ協定の合意事項達成に向けて、脱炭素社会への移行に貢献できる保険引受を行っていきます。

石炭火力発電所については、原則として新規の保険引受を行いません。但し、当該国のエネルギー政策・エネルギー事情や事業継続の事情等を考慮し、OECD公的輸出信用アレンジメントなどの国際的ガイドラインを参照した上で、総合的に判断し引き受けることがあります。また、既に保険引受を行っている発電所に対しても、温室効果ガスの排出削減・停止につながる先進的な高効率発電技術や二酸化炭素回収・利用・貯留技術(CCUS/カーボンリサイクル)の採用など環境への配慮をエンゲージしていくことで、低炭素化の取組みを支援します。

更に、事業を通じた持続可能な成長および脱炭素社会への移行に貢献するため、太陽光・風力などの再生可能エネルギー事業向けの保険引受を推進します。例えば、再生可能エネルギー事業者向けに専用パッケージ商品を提供するだけでなく、この分野に強みのある企業を買収することによってグループにおける専門性を高めるとともに業務領域を拡大する等、その取組みを加速させています。

投融資

投融資においては、脱炭素社会への移行に貢献するため、石炭火力発電所への新規のファイナンスは、原則として行いません。但し、保険引受同様に当該国のエネルギー政策等の事情や国際的ガイドラインをふまえた上で、総合的に判断しファイナンスを行うことがあります。

私たちは、グループ会社の東京海上日動と東京海上アセットマネジメントを通じ、国連責任投資原則(PRI)の署名機関として、財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮したESG投融資方針を策定した上でESGの取組みを推進し、気候関連の要素を投資の意思決定プロセスに組み込むことで脱炭素社会への移行を支援していきます。また、こうした取組みを通じてESG評価の知見を蓄積し、投資判断プロセスの高度化に努めています。

資産運用を専業とする東京海上アセットマネジメントでは、各資産の運用責任者で構成される責任投資委員会を設置・運営しており、ESGにかかるスチュワードシップ活動やアクティブ・エンゲージメントを推進しています。

商品・サービス

私たちはグローバルな保険グループとして、新たなリスクを継続的に把握し適切に対応するため、世界をリードする科学者や研究者との連携による気候変動・自然災害リスク研究を通じて、広範で専門的な知識の習得に努めています。この専門知識をお客様や地域社会に役立つ保険商品・サービスの開発・提供に生かすことで、脱炭素社会への移行に向けた取組みに役立てています。

  • 太陽光発電会社向けの「メガソーラー・パッケージ・プログラム」や地熱発電事業者向けの「地熱パッケージプラン」、「洋上風力発電向けパッケージ保険」など、保険やサービスを含めたリスクソリューションの提供を通じて、再生可能エネルギーの普及を支援しています。
  • 東京海上アセットマネジメントでは、2012年より太陽光発電所を投資対象とする再生可能エネルギーファンドを運営しており、脱炭素社会への移行に向けた取り組みを後押ししています。

2020年6月には、GCube社がグループに加わりました。GCube社は、米国、欧州をはじめ世界各地の再生可能エネルギー事業分野で長年に渡り保険を提供している企業です。GCube社がグループに加わることで、再生可能エネルギー事業分野の保険に関するグループの専門性が高まり、脱炭素社会への移行に役立つ保険商品を市場に多く提供できるようになります。

気候変動に対する各種取組み

気候変動への対応は世界的な課題であり、さまざまな機関・業界の皆様との連携が必要と考えています。東京海上グループは、次のような分野において、プライベートセクターの立場からイニシアティブをとってきました。

国内および国際的なサステナビリティ取組みの推進

東京海上グループは、グローバルに活動する保険会社として、国内および国際的イニシアティブを支援し、気候変動を含めた環境への課題解決に向けてリーダーシップを発揮できるように努めています。私たちは、2008年の立ち上げ以来、ジュネーブ協会の気候変動イニシアティブ(現在は、気候変動と新たな環境課題プロジェクト)の共同議長を務めており、気候変動を経営戦略やリスク管理に組み込もうとする保険業界をグローバルに支援しています。

東京海上ホールディングスは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の創設時のメンバーかつTCFDの署名企業であり、情報開示を通じてTCFD提言への支持をしています。また、東京海上日動は国連環境計画金融イニシアティブの持続可能な保険原則(PSI)の創設署名企業であり、PSIのTCFD保険パイロットグループの創設メンバーです。

私たちは、企業が気候変動や環境課題についての規制や政策対応の策定に参加することも重要であると考えています。そのため、私たちは気候関連の課題に関する国内および国際的な政策対話に積極的に参加してきました。脱炭素社会への移行を支援するためのビジョンと行動の確立を目指した2019年の日本政府による「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」策定につながった取組みもあります。この戦略では、TCFD提言への対応をグリーンファイナンス推進の柱の1つとして掲げ、2019年5月に創設された日本TCFDコンソーシアムにも言及しています。私たちは、TCFDコンソーシアムの設立発起人の1人であり、企画委員会メンバーとして積極的に関与することで、TCFD提言に従った日本における気候関連情報開示の普及・促進に貢献できるように努めます。

科学と研究の推進

東京海上グループは、気候変動・自然災害リスクについて、2005年以降、東京大学、名古屋大学、京都大学、東北大学等を含む様々な最先端の研究機関と連携しています。これらの研究を自社の経営戦略に統合するだけでなく、研究内容・成果を個人および企業のお客様、地方自治体、非政府組織、国際組織と共有しています。また、毎年、法人顧客や関係者を対象とした自然災害リスクセミナーを開催し、研究活動で得られた最新の研究成果を共有しています。

事業を通じて気候変動に対する強靭化をサポート

安心と安全をお届けするという私たちの事業目的は、保険商品の提供だけに留まるものではありません。私たちの専門知識を活用することで、大規模自然災害が発生した場合の被害を最小限に抑え、復旧・復興を促進することができると考えています。国立研究開発法人防災科学技術研究所などと連携し、新しい防災・減災ソリューションの開発にも取り組んでいます。

アジア太平洋地域では、東京海上グループは、2015年から民間セクターを代表し、アジア太平洋経済協力(APEC)の財務大臣プロセス(FMP)における災害リスクファイナンスおよび保険(DRFI)の革新と促進を支援しています。DRFIは、アジア太平洋地域の持続可能な財政の将来へのロードマップ「セブ行動計画」の下での優先政策課題として特定されており、深刻度を増す気象災害の影響を受けるコミュニティの強靭性を高めることを目的にしています。

私たち自身の事業においても、気候への悪影響に対処すべく、CO2排出量の削減目標を設定しています。東京海上日動では、2020年までに2006年のベースラインと比較して事業活動に伴うCO2排出量を40%削減する目標を設定し取り組んでいます。また、2006年のベースラインと比較して、2050年までに60%削減という長期目標も掲げています。

また、東京海上グループとして、2013年度から7年連続でカーボン・ニュートラルを達成しました。これは、アジア太平洋地域でのマングローブ植林を通じた継続的な国際貢献の取組みによるものです。マングローブ植林は、脅威にさらされている生態系を活性化するだけでなく、CO2排出の吸収と固定を通じてCO2排出量をオフセットします。私たちは1999年にマングローブの植林を開始し、2020年3月31日現在、アジア太平洋地域9か国の11,240ヘクタールにマングローブを植林しました。そして、1999年4月から2019年3月末までの20年間のマングローブ植林により生み出された生態系サービスの経済価値は累計1,185億円に達しているとの試算結果を得ています。さらに、2019年10月には、東京海上グループは、国連「SDGsの目標14の達成に向けた海洋行動コミュニティ」に参画し、2007年に公表した「マングローブ植林100年宣言」を改定して、マングローブを基盤とした解決策の提供を通じて価値創出を目指す「マングローブ価値共創100年宣言」を公表しました。また、私たちは省エネルギー対策を採用し、エネルギー消費量の削減や、エコ安全ドライブやリサイクル部品の活用にも取り組んでいます。

最後に

私たちは、気候変動が私たちの事業や社会に広範な影響を与えること、そしてこの変わりゆく状況に対して適切に対応していかなければならないことを認識しています。お客様ニーズの変化に対応したソリューションを見つけ出し、気候変動対策に向けた国際的な対応を進めるために国内外で対話に取り組み、事業活動を通じて脱炭素社会への移行に貢献することにより、気候変動に伴う各種課題の解決に取り組んでまいります。

気候変動への対応や各種取組みの詳細につきましては、私たちのTCFD提言に沿った気候関連情報開示、サステナビリティレポート、統合レポートをご覧ください。