不確実な時代に、未来を切り拓く

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2022年5月30日
  • この記事は「Financial Times」小宮CEOのインタビュー記事を日本語訳したものです。

東京海上ホールディングス 社長 兼 グループCEO 小宮暁氏に聞く、不確実な時代に社会価値と事業成長の好循環を生み出すカギとは?

人類史上、これほど我々の繁栄と安泰が脅かされる局面があったでしょうか。

2年にわたるパンデミックへの対処法が確立される兆しが見えた途端、ヨーロッパで戦争が勃発し、今まで想定していなかった地政学的なリスクが顕在化しています。加えて、気候変動は、緊急の対策を必要とする人類史的なリスクであり続けています。

東京海上グループは、1879年の創業以来、世界で最も自然災害の多い国の一つである日本において、安心と安全で、たくましい社会を実現するためのソリューションを提供してきました。特に、戦後の日本における大地震や台風などの自然災害に対して、東京海上グループは、常に「お客様と地域社会の“いざ”を支え、お守りすること」をパーパスとして、社会課題を解決することを通じて成長を遂げてきました。

これは、自然災害に限ったことではありません。東京海上グループは、いつの時代にも、新しい技術の導入や防災への取組みを通じて、より強靭で持続可能な社会の実現を支えてきました。東京海上グループは、高度なノウハウと専門性で、世界が今直面している困難な社会課題を解決することをミッションとしています。

東京海上ホールディングス グループCEOの小宮暁が、自身の経営哲学、保険の力、多様でグローバルな経営陣がもたらす価値について幅広くインタビューに応じました。

東京海上グループのパーパス、また、社会的価値と経済的価値の成長を両立させる経営手法についてお聞かせください。

15年ほど前、東京海上ホールディングスが海外保険会社の買収を進め、グローバルポートフォリオのより高い次元の分散を進めていたとき、私たちはどのようなグローバル企業グループになるべきかという明確なビジョンが必要だと感じていました。グループ各社がそれぞれのマーケットにおける独自性を確保しつつ、グループ共通のパーパスのもとで一体感を醸成し、グループ各社の存在意義を正確に伝えたいと考えたのです。そこで2012年、135年近い歴史と私たちのあるべき姿を振り返り、"To Be a Good Company"というコンセプトを打ち出しました。"To Be a Good Company"とは、正しいことを正しく行うこと、つまり、従業員がお客様のために行動し、お客様との約束を必ず守ることによって、お客様から信頼を得られるという信念です。そして、社会課題の解決に取り組めば取り組むほど、社会もよくなり当社も成長すると考えています。

このビジョンは、グループ会社のメンバーに対する求心力となりました。そして、このグループビジョンが海外も含めたグループ全体に共有されると、何が起こるのでしょうか。答えは、より良い戦略が構築できるようになります。サービスの質が向上し、実行力が向上します。それは何故かというと、社会課題の解決を通じた社会的価値の向上が、グループ全体の利益成長につながるからです。これが、私たちが今めざしている、社会的価値と当社の経済的価値(利益成長)を同時に高めるという「価値創造の正のスパイラル」の根底にあるものです。

取締役社長 グループCEO 小宮暁

実際に、グループ全体のグループ一体経営による“One Team”の推進による、グループの専門性とグローバルな多様性によりとても良い結果を出しています。例えば、2020年にグループに加わったGCube Insuranceは、再生可能エネルギーに特化した保険会社です。彼らが当社グループに加わり、独自のサステナビリティに関する知見を当社のグローバルネットワークを通じて展開することで、社会が再生可能エネルギーに移行することを後押ししています。また、フィンランドのICEYE社との提携により、衛星画像を活用し、災害時の迅速な保険金支払いに役立てています。新しい企業をグループに迎え入れ、グループ外のパートナーとも協力することで、私たちのパーパスを実現するためのケイパビリティを継続的に拡大しています。

東京海上の取組みは、未来へのソリューションにどのように活かされているのでしょうか。

起業家精神とイノベーションは、私たちのDNAです。各時代の新たなリスクに対して、そのニーズに対応する独自のソリューションを開発してきました。どのようにやってきたのかというと、それは、未来を先読みすることです。東京海上は、日本が世界貿易の舞台に立ち始めた時期に、日本初の船舶・貨物を対象とした海上保険を提供したのが始まりです。1913年、まだ日本に自動車が1,000台も走っていない時代に、交通事故が社会問題となることを見越して、日本で初めて自動車保険を発売しました。また、1980年代後半には、日本の急速な高齢化と少子化が社会的な課題になると考え、介護費用を補償する保険を日本で初めて発売しました。

現在、私たちは日本だけでなくグローバルに、将来のトレンドを予測し、未来の社会課題に対するソリューションの提供に取り組んでいます。例えば、日々進化するサイバー攻撃に直面しているお客様を確実にお守りするために、様々な対応策をご用意しています。また、デジタル化の競争がグローバルに激化する中で、知的財産は世界的な課題になるとみており、先手を打って知的財産権を補償する新商品を開発しています。我々は、複雑で絶えず変化するリスクからお客様をしっかりお守りする必要があり、これこそが私たちに求められている価値です。私たちは、時代の節目節目でお客様の声に耳を傾け、ニーズを先取りし、そのニーズに応えるソリューションを提供することで、信頼を獲得してきました。

しかし、最終的にお客さまから信頼されるためには、お客様と地域社会の“いざ”を支えるというパーパスを実現することが重要です。今のような不安定な時代だからこそ、保険の価値の本質がそこにあると考えています。

保険事業の未来を切り開くために、どのようなグローバル・マネジメントをめざしていますか?

過去15年間の買収戦略により、2021年度の利益のおおよそ半分は海外事業からもたらされています。私たちの事業はリスクをお引き受けすることですが、それを支えるためのERM経営も重視しています。私たちの戦略は、リスクをグローバルに分散させること、つまり、引受ポートフォリオの保険種目的分散や地域的分散により、事業の安定と更なる成長に向けた道筋をつけることです。

より強靭な社会の実現に取り組むことで、東京海上グループ自身も企業としての足腰を強化しています。例えば、持続可能な社会と持続可能なビジネスを実現するためには、気候変動への対応と企業価値の向上という2つの課題解決が重要です。そのためには、地域のあらゆるステークホルダーとのつながりが不可欠です。

Direct Net Premiums Written and Total Dividends

グローバルな成功のカギはグループ会社それぞれにあるノウハウが重要です。「グローカル」なマインドセットとでも言いましょうか。だからこそ、私たちが推進する海外保険会社の買収のメリットは、買収によってもたらされる優秀な経営層の専門知識や視点なのです。これらのグローバルで多様な人材は、それぞれの専門領域やマーケットにおいて、圧倒的な強みを発揮してくれます。

そして、これらの人材には、自然災害の解決策からヘルスケア分野、再生可能エネルギー分野まで、保険事業の未来を検討する組織や各種会議体にも参加してもらっており、ダイナミックなシナジーを生み出してくれています。

日本企業の中で、経営トップ層にグローバルな人材を登用しているのは、おそらくユニークなことでしょう。例えば、クリストファー・ウィリアムズは海外事業の共同総括責任者です。また、ニューヨークでデルファイ・ファイナンシャル・グループを統括するドナルド・シャーマンは、共同グループ資産運用総括(CIO)です。4月からは、クリスとドンがともにグループの「副社長執行役員」に就任し、私をサポートしてくれています。このように、日本と欧米の良いところを取り入れながら、相互信頼と尊敬の精神で、当社グループ独自の経営の道を描いているのです。

2022年小宮グループCEOとMiddle Global Leadership Development Program 参加者

このようなダイバーシティに対する考え方は、常務時代にコロンビア大学に留学されたことが影響しているのでしょうか。また、あなたのリーダーシップのビジョンにどのような影響を与えたのでしょうか。

もともと海外の文化に興味があり、若いころはアメリカの文化に触れる機会が多くありましたが、自分の意見をはっきりと伝えるアメリカの直接的なコミュニケーションスタイルが好きでした。私は常々、アメリカの強みは多様性を受け入れる力にあるのではないかと考えています。2016年にニューヨークに留学したとき、そのことを強く実感しました。様々な意見を自由闊達に戦わせ、とても刺激的でした。コロンビア大学への留学は、東京海上グループにおけるダイバーシティ&インクルージョンのビジョンを形成するための基礎となりました。これは、先ほど申し上げた経営トップ層だけでなく、日本、英国、タイ、ブラジルなど、グループ全社員4万人全員にも浸透させています。グローバルなチームワークから生まれる創造的なエネルギーが、当社を更に発展させるのだと信じています。

最後に、コロンビア大学での1年間が私に与えた影響についてお話しします。ある講演会に出席した際、同大学の高名な経済学教授が「世界経済は、できるだけ多くの人々を幸せにするために存在する」と述べたことが心に残り、当社グループが掲げる「Good Company」のビジョンと一致すると強く感じました。

この考え方は、東京海上グループが日々自問自答している「私たちは何のためにビジネスをしているのか?」という問いの核心を衝くものです。私たちが出した結論は、「人々や事業、そして社会全体が健康かつ幸福で、成功することに貢献するため」です。

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