保険の枠を超え、革新的なソリューションを届け続けるパートナーへ(後編)

2024年3月1日

東京海上グループでは、保険やその関連事業を通して蓄積してきたリスクマネジメントのノウハウやデータをベースに、独自のリスクソリューションを開発してきました。

そして2023年11月、重点領域に専門的に取り組む2つの新会社として、モビリティ領域を担う「東京海上スマートモビリティ株式会社」と、防災・減災領域を担う「東京海上レジリエンス株式会社」を設立しました。

東京海上スマートモビリティ 代表取締役社長を務め、東京海上レジリエンスの取締役副社長でもある原田 秀美、東京海上レジリエンスの事業開発を担当する関 直人、東京海上スマートモビリティのプロダクトマネージャーである亀井 璃久の3名が集まり、座談会を開催しました。後編にあたる本記事では、東京海上レジリエンスにフォーカスし、同社の新たなソリューション事業にかける想いや展望についてインタビューしました。

東京海上レジリエンス 取締役副社長 原田 秀美(中央)、同社 事業開発 関 直人(右)、東京海上スマートモビリティ プロダクトマネージャー 亀井 璃久(左)

東京海上レジリエンスは、どのような経緯で設立されたのでしょうか

原田

皆様ご認識の通り、日本は世界有数の自然災害大国です。2024年の年始に発生した令和6年能登半島地震は記憶に新しく、復興は未だ道半ばです。さらに今後も国内外において、浸水や土砂災害等を含む、様々な災害の発生が予想されます。

一方で、日本には災害に対するノウハウや経験がしっかりと蓄積されていることも事実です。日本発のグローバル企業として、高まる自然災害リスクに対して、東京海上グループが次の一手を打つ必要性を強く感じていました。

私たちは、1879年の創業時から「お客様や社会の“いざ”をお守りする」というパーパスのもと、時代とともに変化する社会課題に向き合ってきました。しかし、近年における自然災害の激甚化にかんがみると、災害時の保険金のお支払いだけでは、私たちの責務を十分に果たせているとは言い切れません。「自然災害(防災・減災)」を重要社会課題と位置づけ、災害の事前・事後の領域においても安心・安全につながる商品・サービスを提供してきましたが、この取り組みを加速させるため、防災・減災領域の新規事業に特化した新会社として東京海上レジリエンスを設立し、“いざ”をお守りするだけでなく、“いつも”を支えることができる存在へと進化をめざします。

東京海上レジリエンスの設立背景にも関連しますが、防災減災事業を推進するにあたって気候変動による災害激甚化の影響は大きいと考えています。具体例として、企業が新しい工場を建てるケースが挙げられます。もちろん各社、防災評価等を行っていますが、実態としては現在の基準(現在気候下)を用いていることが多く、20年後、30年後に激甚化がより進むことを前提とした評価・対策にはなっていないこともあります。

また昨今のトレンドとして、気候変動対応に関する情報開示の要請が高まっていることもポイントです。多くの場合、カーボンニュートラル等の文脈で語られていますが、防災や減災に関する取組みや、リスクマネジメントについても情報開示をしていくことで、企業価値の向上につなげられるはずです。

このように従来のようなコスト認識ではなく、戦略的な投資・企業価値創出として、防災や減災を捉える機運を生み出したいと考えています。

独自の強みや具体的な事業内容について教えてください

原田

東京海上レジリエンスの事業内容は、大きく2つに分けられます。まず「事前領域」として、東京海上グループが培ってきた災害データを基に各企業固有のリスクを可視化しながら、平時から事業活動における自然災害への備えに伴走すること。そして「事後領域」として、災害発生時も早期復旧を図れるようにサポートすることです。

防災・減災領域の取り組みは、東京海上グループ内の活動としてスタートしました。そして、2021年11月には業界の垣根を越えた法人13社が手を取り合う形で「防災コンソーシアムCORE」の設立へと発展。

私たちがハブとなり、個社が持つ強みやソリューションを適切につなぎ合わせ、さらに国や自治体とも連携した仕組みを構築してきました。これにより、私たちが「防災・減災バリューチェーン」と呼んでいる、防災・減災に関する4要素(現状把握・対策実行・避難・生活再建)を一気通貫でソリューション提供できるようになりました。現在では、110以上の法人・団体に参画いただくまでに成長しています。

そして、「防災コンソーシアムCORE」をバックボーンに、防災・減災総合ソリューション事業を推進していくのが東京海上レジリエンスであり、私たちの強みでもあります。

東京海上グループおよび外部パートナーと連携した防災・減災総合ソリューション事業の全体像

原田の発言を踏まえ、具体的なソリューションをご紹介します。

水災発生時に監視カメラ映像を用いて被災状況を確認し、リアルタイムで浸水状況を可視化する「リアルタイムハザードマップ」では、より実効性の高い避難指示を可能にします。また気象情報を可視化し、登録地点のリスク状況を一元管理する「レジリエント情報配信サービス」では、リスクレベルに応じてアラートを発信します。さらに被害状況をドローンで撮影・データ収集のうえ、3D上でのシミュレーション結果を活用した早期復旧支援に綱がるソリューションにも取り組んでいます。

これらの先進テクノロジーを活かした先進的なソリューションを、大企業や自治体を中心に展開していきます。

原田

デジタル庁との官民連携で発足した「防災DX官民共創協議会」に「防災コンソーシアムCORE」が理事メンバーとして参加する等、私たちは国と民間のパイプ役も担っています。密な情報連携はもちろん、ビジネスを超えた知見の提供にも取り組むことで、公益の増進にも寄与しています。

一方で、補助金や助成金制度を組み合わせて、自治体のニーズに応えながら、東京海上レジリエンスのビジネスとしても成立させていければと考えています。

未来に向けて、どのようなビジョンを描いていますか

「事前領域」と「事後領域」では、私たちやお客様が取り組めることが明確に異なります。そのため、戦略的にそれぞれのソリューションを持つことが重要だと思っています。

特に民間企業向け「事前領域」では、「防災対策効果の定量化」が、今後のビジネスのカギになると見込んでいます。リスク評価に取り組んでいる企業は多いものの、意外にも対策効果の定量化は普及していません。「PML」と呼ばれる、想定される最大の損害額を算出し、AとBの異なる対策を打つことで、どれだけ損害額の抑制に差分が生まれるかをご提示することで、防災・減災に関わる企業の防災意思決定を促進できればと思います。

また先日、海外グループ会社が集まる場で、約500名の社員に対して、東京海上レジリエンスのビジョンやソリューション等を共有する機会がありました。そこで事業ストーリー等を語ったところ、想像以上に反響があり、非常に驚きました。強みも市場環境も異なる、国内外のグループ会社がアイデアや意見を持ち寄り、グローバルに連携する仕組みを構築することで、新たな化学反応を生み出していきたいです。その先のステップとして、海外でも比較的展開しやすい衛星データを用いたソリューションを、ハード面のサポートも含めて提案できればと考えています。

原田

東京海上レジリエンスは、日本国内はもとより、海外を見渡しても、かなり先進的でユニークな事業モデルであると自負しています。特定領域における防災・減災のプロフェッショナルは存在していますが、お客様の立場で考えると、やはりあらゆるサービスやソリューションを一元的に提供してくれる存在が心強いはず。

100年以上前に東京海上日動が日本で初めての自動車保険を引き受けたように、私たちも防災・減災領域におけるパイオニアとして胸を張れるように、これからも多彩な外部パートナーとの協創に取り組んでいきます。

そして、防災・減災に関する東京海上レジリエンスのソリューションをより多くのお客様に知っていただき、当たり前のように使っていただくことで、より強靭な社会づくりに貢献できればと思います。

  • 記事の内容は、取材当時のものです