CEOレター

どのような時代にあっても、お客様や地域社会の"いざ"を支え続けられるよう、「しなやかで、たくましい会社」をめざしていきます。
その結果として当社も成長し、次の100年もステークホルダーの皆様から真に必要とされる"Good Company"を実現してまいります。

取締役社長 グループCEO
小宮 暁

2018年度を振り返って
~自然災害から、お客様や地域社会の"いざ"を支えた1年~

地球温暖化に伴う気候変動や人口動態の変化、テクノロジーの進展、米中貿易戦争…私たちを取り巻く社会や経済、事業の環境はめまぐるしく変化しています。
その中で2018年度は、国内で過去最大級の自然災害が発生しました。6月に大阪府北部地震、7月に西日本豪雨、9月には北海道胆振東部地震、これらに加えて、台風21号、台風24号など大型の台風が数多く日本に上陸しました。
一連の自然災害に対する損害保険業界全体の発生保険金は1兆7千億円を超え、その中で当社も約5,500億円の保険金をお支払いすることになります。
当社の事業の目的は、「お客様や地域社会の"いざ"という時をお支えすること」、つまり「事故や災害からお守りすること」、そして「明日への挑戦を後押しすること」に他ならない訳ですが、正に2018年度は、母国市場である日本で、被災されたお客様へ保険金をお届けするために、多くの社員と代理店の皆さんが力を合わせた1年でありました。
世界的に見ましても、日本は有数の自然災害国です。世界の自然災害による経済損害額の、実に1〜2割が集中していると言われています。
保険は、お客様や地域社会のリスクをお引受けする事業ですので、リスクを分散して事業を安定化させ、この"いざ"に備える必要があります。
当社は、こうした事業の目的を永続的に果たしていくために、過去15年ほどの時間をかけて海外事業を拡大してきました。この結果、現在の海外事業の割合は、利益の半分程度を占めています。
実際に、こうした当社の取り組みの成果は2018年度の決算にも現れています。国内は大変大きな自然災害に見舞われましたが、順調な海外事業の利益がこれを支え、グループ全体で見れば、平年を超える自然災害の発生保険金は、全体の利益の3割程度に抑えることが出来ました。正に企図した成果だと考えています。
この様に、自然災害が集中した年にあっても経営が安定しているということは、多くの株主の皆様からも高いご評価をいただいています。

当社の事業目的と価値創造ストーリー

東京海上グループは今年で創業140周年を迎えました。そうした節目の年に、私はグループCEOのバトンを前任の永野から受け継いだ訳ですが、ここで今一度、当社の事業の目的について、掘り下げてお伝えしたいと思います。
最近、特に欧米でSDGsやESGという考え方、つまり、事業を通じて社会課題の解決に貢献することが重要だと言われていますが、企業が社会課題の解決にあたる、即ち「世のため人のため」に存在する、というのは、日本では元々当たり前の考え方ではなかったかと思います。
これは古くは、近江商人の「三方よし」という考え方が代表的ですが、当社の創業に深く関わり、「日本の資本主義の父」とも呼ばれる渋沢栄一は、道徳経済合一説の中で、「企業の利潤追求の根底には道徳が必要であり、国や人類全体の繁栄に対して責任を持たなければならない」と説いています。また、三菱グループの企業活動の指針である「三菱三綱領」(所期奉公・処事光明・立業貿易)も同様の考え方を示す好例です。
当社は1879年創業ですが、近代化をめざす日本には欠かせない貿易の積荷を、海難事故から守る海上保険会社としての船出で、創業当初から、経済発展に伴う社会課題の解決に資する、といった使命を負ってきました。
以降、1914年に日本で最初の自動車保険をお引受けし、1959年には賠償意識の高まりや法制度の整備を受けて、日本初の賠償責任保険を発売しました。
この様に、当社はこれまでの歴史の中で、「社会課題の解決」「お客様の課題の解決」に貢献することを通じて、結果として成長してきましたが、最近の取り組みについても、幾つかご紹介したいと思います。

まずは、日本が抱える大きな社会課題のひとつであります「自然災害」への対応です。
前述の通り、2018年は多くの自然災害が発生し、当社がお受けした「災害の受付件数」も、約42万件と、東日本大震災以上となりました。
その中で、会社として「お客様への迅速な保険金の支払いが、他の全ての業務に優先する」という方針を明確に打ち出し、延べ5万人を超える社員を動員して、対応にあたりました。
社員や代理店の皆さんの「一日も早い、保険金のお支払いを通じて、"あんしん"をお届けしたい」という目的に向かって必死に働く姿に、私たち経営陣も深く心を打たれました。
また、最も大切なことは「お守りしたい」という思い・意思なのではないか、と強く感じました。

続いて、「自動車の事故」への対応です。最近、日本では高齢者による自動車事故や、あおり運転が話題となっていますが、クルマ社会において自動車事故は極めて大きな社会課題です。
その中で、東京海上日動は、業界で初めて個人のお客様向けのドライブレコーダー「ドライブエージェントパーソナル」を提供し、既に20万件以上のご契約をいただいております。事故の状況が録画出来ることは勿論、ドライバーの運転状況や特性に応じて、リアルタイムに危険地点を注意喚起することで、事故防止にも役立っています。
また、車に一定以上の衝撃があると、ドライブレコーダーから自動的にコールセンターに事故報告されることから、万が一の事故の際にも、救急車手配なども含めてスムーズな対応を可能としています。

次に「課題先進国」とも言えます日本が抱える、大きな課題のひとつ「地方の活性化」への対応です。
足元、東京一極集中が進む中、地域の消費や経済力の低下は深刻です。少しでもこの悪い流れを断つお役に立ちたい。その様に考え、2016年に東京海上日動で専門部署を立ち上げ、全国で「地方創生」を推進しています。地方で急増するインバウンド需要へのご支援として、多言語対応サービスや医療通訳を提供したり、地方企業による海外進出のお手伝いとして、日本とは異なるリスクへの対策をアドバイスしたり、或いはまた、災害や事故からの早期復旧を可能とする事業継続プランの策定を支援したりと、地方企業の皆様の挑戦をサポートする取り組みを行っています。

そして、「健康経営」についてです。少子高齢化の影響から、労働力不足はこれからも益々深刻になっていきます。企業にとって、従業員が心身共に健康で長く働けるようにサポートするということ、即ち健康経営は大きな社会課題のひとつとなっています。
当社は、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「健康経営銘柄」に4年連続で選定されましたが、元々、保険と健康というのは非常に近い分野です。
東京海上日動では、専門の部署を立ち上げ、お客様の健康経営の取り組みを支援していますが、例えば「健康経営優良法人」をめざす企業に対し、その認定支援を行っています。
実際に、多くのお客様から「従業員の士気が向上した」、「新卒採用アップに繋がった」などの声もいただき、結果として当社の支持にも繋がっています。

変わらないもの、変えていくべきもの

このように当社は「お客様や地域社会の"いざ"という時をお支えすること」を事業の目的としており、これはどのような時代にあっても、本源的に「変わらないもの」です。
ますます地域社会のお役に立ち、お客様やマーケットに継続的に価値を提供することで、グローバルに「なくてはならない存在」であり続けたい。そして、明日を、未来を切り開こうと、可能性を信じて挑戦する人々や企業を全力でサポートし、共に歩んでいきたい。
こうした共通の想いを世界中のグループ会社の社員一人ひとりが抱きながら、事業の目的の実現に向かってそれぞれの持ち場で誠実かつ真摯に、主体的に業務にあたる。
これが私たちのめざす「良い会社」、即ち"Good Company"です。
「良い会社」をめざす努力・取り組みに終わりはありません。現状に満足することなく、より一層の「良い会社」を常にめざし続けよう。この思いを"To Be"に込めた"To Be a Good Company"は、東京海上グループの世界共通の価値観、コア・アイデンティティとなっています。
今後も当社は、事業を通じた社会課題の解決に取り組むことで、企業価値を更に高めていけると考えています。
一方で、当社を取り巻く事業環境は、めまぐるしく変化しています。
地球温暖化に伴う気候変動により、今後も自然災害は大規模化するかもしれません。人口動態の変化に伴いまして、医療・健康・介護といった社会課題も、一層複雑になってきます。若いデジタル・ネイティブ世代の増加等によりまして、マーケットのニーズも変わっていきます。自動運転技術などテクノロジーの進展は、保険のビジネスモデルの転換を迫ってくるでしょう。
この様に世の中は進化していきますし、環境が変われば、それに伴って、お客様や社会のニーズやリスクも変わっていきます。ですから、当社もスピード感を持って絶え間なく自己変革し続け、「課題解決のやり方」は大胆に、できれば先回りをして、変えていかなければいけません。

"To Be a Good Company"というコア・アイデンティティの下に、全世界の社員の熱意と叡智を集結して、社会課題の解決に取り組む。そして、そのやり方は時代や環境の変化に合わせて、どんどん変えていく。
これらを通じて、サステナブルな社会の実現に貢献し、結果として当社にも利益が生まれ、成長する。このスパイラルを回し続けることが、当社の「価値創造ストーリー」です。

中期経営計画「To Be a Good Company 2020」

当社の価値創造ストーリーの実現に向けた、私たちの決意・行動・目標をお示ししたのが、2018年度からスタートした中期経営計画「To Be a Good Company 2020」です。
当計画では、「ポートフォリオの更なる分散」「テクノロジーを活用した事業構造改革」「グループ一体経営の強化」の3つを重要課題に掲げていますが、以下にそれぞれの取り組み内容と進捗状況をご説明いたします。

まず、「ポートフォリオの更なる分散」です。
繰返しになりますが、世界各地で、お客様や地域社会の"いざ"という時をお支えするためには、とりわけ自然災害国日本を母国市場とする当社におきましては、リスクを地理的にも事業的にも分散させていくことがとても重要です。
そのため、当社は2008年以降、海外での買収などを通じて、リスク分散を進めてきました。
この結果、当社は海外事業の最大地域である米国で、いまやスペシャルティ保険のトップ・プレイヤーとなっています。また、当社グループに加わった会社は、いずれもマーケットを上回る成長を遂げています。
そして足元では、更なる事業分散を企図して、既存事業の補完・強化を目的としたボルトオンM&Aにも積極的に取り組み、毎年成果に繋げています。
また、地域分散の観点から、新興国でも取り組みを進めています。足元、海外利益に占める新興国の比率は約1割ですが、近い将来にはこの割合を、世界の損害保険市場並みの2割程度にまで高め、同地域の成長もしっかりと取り込んでいくつもりです。
実際に2018年度には、東南アジア最大の損害保険市場であるタイでSafety社を買収。当社は、これにより保険料規模で同国第3位、外資系としては第1位になりました。また、成長著しい南アフリカにおいても、第2位のHollard社に22.5%の事業投資を行っています。
この様に、足元当社のポートフォリオは、随分といいカタチになってきましたが、まだまだ分散を効かせることが出来ると考えています。従いまして、これからも内部成長とM&Aを通じて、地域・事業分散を進めてまいります。
そして、テクノロジーも活用しながら、当社の事業構造を改革していくことも大切です。
ただし、当社はテクノロジー会社ではなく保険会社です。大切なことは、お客様や地域社会に提供する価値を高めるために、当社のビジネスを強化するために、最新のテクノロジーを活用するということです。繰り返しますが、テクノロジーを使うことが目的ではなく、事業の目的や使命が先にあって、その目的を達成するために、テクノロジーを徹底的に活用する。この順序が重要だと考えています。「ミッション・ドリブン」と呼んでいるこの考え方は、当社のテクノロジー活用の基本戦略ですが、その実現には、お客様や地域社会の課題を徹底的に研究し、精通し、当社はどういう価値を創造し、提供すべきなのか、とことん考えなければなりません。
その中で、今も昔もこれからも、最も重要なのは「現地現物現場主義」だと思います。イノベーションを生むヒントは全て、ビジネス第一線の現場からもたらされます。そうした意味で、デジタル時代、AI時代にこそ、人にしかできないことにフォーカスする、そこが勝負どころとなってくると考えています。
また、当社は海外に多くの拠点を有しており、様々なチャネルやマーケットを持っています。世界中のグループ社員が日々、自ら担当する社会課題の解決に合致したイノベーションのトライアルや仮説検証を真剣に行っている。そして、世界中のデジタル責任者が集うデジタルラウンドテーブル等で、共有し、論議し、切磋琢磨して、自らの取り組みを更に加速させていく。こうしたサイクルを回していますが、これは当社の大きな強みだと考えています。
当社の取り組みの一例として、2018年度には、大規模自然災害の時でも、お客様に迅速に保険金をお支払いできるよう、Orbital Insight社と提携しました。同社は、人工衛星画像のビッグデータ解析に強みを持っていますが、この提携により、AIと人工衛星を組み合わせた損害調査が可能となります。
また、「世界最高の事故対応をしたい」というミッションを掲げる米国の自動車保険会社Metromile社とも提携しました。彼らは、世界最先端のデジタル技術を活用して、極限まで自動化した損害サービスプロセスを実現していますが、現在、日本でどの様なことが出来るか、具体的な検討を進めているところです。
これからも当社自身が挑戦を積み重ね、本物の価値を生み出していきます。

続いて、「グループ一体経営」です。
当社が海外事業を拡大してきた背景につきましては、前述の通りですが、当社は単なる海外投資をしてきた訳ではありません。これまでの海外M&Aを通じて、優秀な人材や専門性を獲得することが出来た、これが最も大きな成果だと思っています。
世界は繋がっていますし、環境変化のスピードも激しい。もはや日本だけ、損保だけで社会課題を解決するのは難しくなっています。
そうした中、課題解決にはダイバーシティが不可欠だと、当社は考えており、実際に海外グループ会社のトップ人材がグループ全体の共同海外総括や共同資産運用総括として活躍しています。この他にも海外タレントをグループ全体の内部監査や保険リザーブ、人事、リスク管理など、最適な分野に配置し、また、ERM(Enterprise Risk Management)や保険引受などのグローバル委員会においても、国内外グループ一体で、徹底的に論議し、戦略を決定しています。
この様に、多様性あふれる優秀な人材と専門性を戦略に活かすことが出来ているのは、当社の強みだと考えています。
また、多様性あふれる4万人の社員がバラバラにならないためには、共通の価値観、即ちコア・アイデンティティの浸透が重要です。多様性を縦軸とすれば、当社では、コア・アイデンティティである"To Be a Good Company"を横軸に通すために、役員と社員が対話する「マジきら会(まじめな話を気楽にする会)」を国内外で開催し、経営トップ自らグローバルに社員と対話しています。この結果、4万人の社員を対象としたカルチャー&バリューサーベイでは、「グループに対する思い」が、5段階中4.1点となっています。こうした当社の「グループ一体経営」は、他に類を見ないものだと考えています。
また、これらはグループシナジーという形で、定量的にも現れている訳ですが、成長・資産運用・資本・コストの4つの分野で合計330億円の利益貢献に繋がっており、その伸びは加速しています。
引き続き、グループ一体経営を進化させていくことで、社会課題を解決する力を向上させていく所存です。