今後のグループ経営を担う人材の育成

2024年3月29日

東京海上グループ全体でグローバルリーダーを育成することを目的に2023年4月に創設されたTokio Marine Group Leadership Institute(以下、「TLI」)は、独自の質の高い研修制度によりトップレベルの人材を確実に供給できるパイプラインの確立を目指しています。TLIのミッションは単なる研修にとどまらず、グループの一体経営やシナジー、すべてのステークホルダーへの価値提供を実現し、今後のグループの中核を担う将来の経営リーダーを発掘・登用・支援するためのインフラを確実に整備することです。

現在TLIを統括する、カナダ出身でグループ勤続9年のGroup Talent Division ManagerであるEvan McKenzieに、TLI創設の背景やメソッド、これまでの実績について聞きました。

東京海上ホールディングス 人事部 グループ人材戦略室 マネージャー Evan McKenzie

イノベーションが求められる時代

急速に変化するビジネス環境への対応は、世界中の企業が直面している最も大きな課題の一つです。イギリスのコンサルティング会社プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が4,702人のCEOを対象に2024年に実施した調査※1によると、「従来の経営手法のままでは次の10年を乗り切れない」と答えたCEOは、全体の45%に上りました。CEOたちが共通して抱いているのは、気候変動、地政学リスク、技術革新といった変化に対応するイノベーションの必要性です。

市場の変化に対応し、斬新な視点を提供し、それに基づいて新たな戦略を実行できるリーダーシップの育成は、これらの課題に対処するための最も重要な要素の一つです。

McKenzieは、東京海上グループにとってのリーダー育成の重要性について、「創業145年という非常に長い歴史は、当社に恩恵と課題の両方をもたらしています。伝統や強い文化が根付いていることは素晴らしい一方で、新たな状況や未知の問題への対応では、継続的な革新・刷新・変革が求められます。TLIのミッションは、まさにそれを実現することだと考えています」と話します。

TLIは、問題に対する深い理解と幅広い視野で経営課題に独自の解決策をもたらすことができるリーダーを育成するために、国内外のグループ各社の既存の人材育成制度を補う役割を果たしています。

TLIが育成を目指すリーダー像とは、グループ自体の繁栄だけでなく、グループの世界中のお客様に影響をもたらすことのできる人材であり、今日の不安定で変化の激しい時代では、こうした人材が非常に重要となります。Ipsos社の調査※2によると、調査対象者の53%が「2023年は自身にとって悪い年だった」と回答し、70%が「自国にとって悪い年だった」と答えています。だからこそリーダーの育成において、実務能力やハードスキルだけでなく、共感力といったソフトスキルの習得も重要な要素となるのです。

McKenzieは、TLIによる有能なリーダーの育成が、グループおよびグループのお客様の両方に役立つと説明します。「当社のパーパスは、お客様や社会の“いざ”をお守りすることです。そしてできるなら、選びうる最善の人材がお客様のそばにいるべきなのです。最も幅広い視点を持ち、最も経験が豊かな人材がそばにいれば、お客様のニーズに確実にお応えすることができるのです」

世界水準のプログラム

McKenzieによると、TLIのプログラムへの参加者は、グループ会社のCEOや人事部と連携し、プログラムへの参加に適している人材や、プログラムから最大限の効果を得られる人材であるかを基準に選定されています。

「TLIは選定基準や必要に応じた提案を提供しますが、海外のグループ会社から選ばれてくる人材は、基本的に各グループ企業の役員や人事部により、グループから多くを学び成長する余地があり、優秀と判断された人材です」と、McKenzieは言います。

さらにMcKenzieは、グループの幅広さを象徴する多様な経歴の持ち主であることも、重要な要素だと言います。「当社は幅広い事業を手掛ける企業で、こうした事業の多様性は当社の成功の一端を担っています。当社が常に、業務分野や経験が異なる人々を集めることを目指しているのはそのためです」

また、TLIとグローバルHRチームの連携は、参加者の選定だけでなくプログラムの内容にも及びます。「プログラムによっては、研修担当やその他組織のスタッフと協力して、彼らに意見を聞いたり、特定の状況で最善の効果を得られるにはどうすべきか、彼らのアイデアを得ることもあります」とMcKenzieは説明します。

TLIの強みは、経営幹部が成長し続けるための研修を提供できる点です。「新入社員から経営幹部まで成長を支援する研修プログラムは、各グループ企業の中でも一定整備されています」と、McKenzieは指摘します。「TLIが特に焦点を当てるのは、そのさらに上です」

「経営幹部に対する各グループ企業における研修機会は、個別指導や個別研修に限定されていることが多いです。そのためTLIでは、各グループ会社単独では提供が難しいような、CXOたちを集めて、さらに内容の濃い研修内容を提供しています」

TLIを通じて提供される研修の内容は様々ですが、一貫しているのは最高水準の質です。McKenzieは、東京海上グループへの信頼の高さは、研修に必要なパートナーの確保に役立っていると説明します。「世界水準の研修を行う秘訣は、世界水準の人々の協力を確保することです」

「誰の目から見ても明らかなように、東京海上グループの強みの一つは大規模な組織であることです。パートナー探しで、電話口に誰も出ないということはありません」

TLIが最近実施した上級幹部向けのグローバル研修プログラムを例に挙げると、パートナーと行った最初のモジュールは、エディンバラの劇場で、有観客でシェイクスピア英語劇を上級幹部自身が上演することでした。参加者はプロの役者と協力して4日間で上演の準備を整えました。McKenzieはこの厳しい試練のおかげで、参加者は強いチームワークの精神を短期間で身に付けることができたと言います。

数か月後に行われた次のモジュールでは、イギリスのロンドンにある一流ビジネススクールにおいて、幅広い業種のベストプラクティスについて、教授の指導を交えながら1週間にわたり学びました。さらに最終モジュールでは、参加者一同が再び東京に集い、グループCEOをはじめとする経営幹部たちとグループの未来について意見を交換しました。

勝利のレシピ

TLI創設以降、昨年までのプログラム参加者数は112名です。数字は、東京海上グループ全体の従業員数45,000人と比較すると少ないように感じられるかもしれませんが、こうしたプログラムの効果は飛躍的に拡大するとMcKenzieは説明します。「これらのプログラムはリーダーシップに焦点を当てているため、その効果は個人だけでなく、部署や部門、会社全体にも及びます」

「これらのプログラムの効果は、年間の参加者数だけでなく、各参加者が周囲にどのような影響を与えるかに基づいて評価されるべきだと思います」

創設から1年に満たないTLIですが、その創設は東京海上グループにとって非常に重要な意味があるとMcKenzieは考えています。「これは当社にとって非常に重要な一歩です。これは私たちが本当に力を入れるべきことであり、有能な人材を集めるためにグループとして時間と資源を費やす準備ができたことを、経営陣自らが確信していることの現れです。」

「ご存じのように、20年ほど前は、海外の主要グループ企業の多くは当グループの傘下にはいませんでした。ですからTLIは、国内外のグループ企業間の結束強化に向けたより幅広い取組みの一部でもあるのです」

大学では文化人類学を専攻したMcKenzieですが、職歴や文化の異なる様々な人々を結束させ、グループに調和をもたらすというTLIのミッションについて、面白い例えを使ってこう説明します。

「私たちは、いわばシェフのようなものです。つまり、様々な人を集め、適切な食材を調達し、適切な環境を整備することで、願わくは効果のある新しく印象的な何かを作り出そうとしているのです」