ローカル市場にグローバルな視点を

2024年3月25日

世界中の様々な事象が相互に連関しあう今の時代において、保険市場も例外ではなく、世界中の保険市場で発生した事象は何らかの形で様々な保険市場にも影響を及ぼす。

今後ローカル市場がどのように発展していくかを考える上で重要なのは、世界中のグループ会社のベストプラクティスを、ローカル市場特有のニーズや文化の違いを考慮しながら自分たちのビジネスに取り入れることです。

平井 正仁は、1992年に東京海上グループに入社して以来、6カ国のグループ会社で勤務し、現在はTokio Marine AsiaのCEO兼取締役および東京海上ホールディングスの執行役員を務めています。

ここでは、彼がこれまでのキャリアの中で経験したさまざまなビジネス文化や、培ってきたグローバルな視点がどのように今の職務に活かされているかについて紹介します。

東京海上ホールディングス 執行役員 平井 正仁

これまでの社会人生活でどのようなところで働いてきたか、教えてください。また、様々な国で働いた経験がどのようにご自身のプロフェッショナルとしての成長に役立っていますか?

1992年、私の社会人としての第一歩は日本でのマーケティングの仕事でした。東京海上グループでは、新しい言語を学び、海外市場の経験を広げることを奨励するための研修プログラムを提供していましたので、私はこのプログラムに参加し、1年間ブラジルで経済学とポルトガル語を学びました。

その後7年間、ブラジルのTokio Marine Seguradora SAでMarketing Directorを務めた後、米国に異動となり、Tokio Marine North America Services(TMNAS)で3年間、Corporate Planning Officer/VPとして勤務しました。

米国勤務を終え、シンガポールのTokio Marine Asiaに転勤となり、1年間Corporate Officerとして勤務しました。

その後はTokio Marine Mexicoに移り、CEOとして3年間、事業再生プロジェクトに携わり、再び米国のTMNASにて3年間過ごしました。

二度目の米国勤務後は、Tokio Marine Insurans(マレーシア)で4年間、Deputy CEOとして同様の事業再生プロジェクトに従事しました。そして、2022年1月に光栄にもTokio Marine AsiaのCEOを務めることになりました。

ダイバーシティ、イコールティ、インクルージョン(DE&I)は、私のビジネスキャリアにおいてますます重要性を増しています。私の経験では、人々と直接関わり合うことで、彼らの価値観が理解しやすくなります。

さまざまな人々と仕事をすることで、生活環境や個人的な背景といった社会的な要因が、文化的な要因と同じように人々を育てていくことを理解することができました。このことが私のキャリアにおいて、オープンマインドな結論を導き出し、公正で合理的な判断を下すのに役立てたいと思っています。

東京海上グループでは、従業員にグローバルなキャリアの機会を提供していますが、その具体的な仕組みや背景にある考え方について、もう少し詳しく教えてください。

日本では、まだまだ長期雇用がスタンダードです。社内異動の制度は、社内で異なる職務に就くことで、さまざまな分野や文化の経験を積む機会を提供するものです。

会社が従業員に幅広い機会と経験を与えることができれば、従業員が個人的な能力を伸ばし、企業やお客様にとってより良い仕事ができるようになるという考え方があります。また、グループと従業員との間に強い絆を築くことにもつながり、その結果として、お客様やコミュニティに貢献するビジネス能力を強化することになるのです。

多国籍組織である当グループは、各地域の市場におけるベストプラクティスから学び、それを他の市場でも適用する機会を得ています。机上の研究だけでは、ベスト・プラクティスを正しく理解し、他の地域で活用することは難しいのです。そのような業務を実際に経験することで、他の地域で活用する場合にどのような調整が必要なのかがわかるのです。

リーダーシップの観点からは、幅広いグローバルネットワークを構築することで、個人として、より広範なサポートの枠組みを得ることができ、さらにシニアエグゼクティブチームがより多様なグローバルリーダーシップ能力のある人材を育てる役に立つのです。

Tokio Marine Asiaでは、会社全体で一貫した文化を作り上げ、維持するのにどのような難しさがあるかを教えてください。また、東京海上グループが現地の事業や市場にどのような価値をもたらすとお考えですか?

Tokio Marine Asiaは8カ国に8つの損害保険会社と5つの生命保険会社を有し、全体で1万人以上の従業員を雇用しています。

Tokio Marine Asiaはその国際性によって、それぞれの市場において幅広い経験と専門知識を有していますので、ある地域の市場に関する知識を活かして、別の地域で提供する商品を強化、あるいは開発することができるのです。

リーダーシップチームに文化的な理解が十分であれば、異なる地域においても新しい商品やプロセスを迅速かつ成功裏に導入することができます。そうすることで、その地域のお客様に提供できる商品とサービスを強化できるのです。

また、個々の拠点でのベストプラクティスを特定し、それをグループ内で実践することで、業務効率とサービス提案の質を向上させることもできます。

グループの専門知識やリソースを利用することで、各地域の事業はより迅速に成長することができ、各地域の競合他社は私たちの現地企業が提供するソリューションやサービスに追いつくことが難しくなるのです。

国際的なキャリアを通して経験してきたことから、人々をひとつにまとめ、共通の目的に向かって働く力を育てるには、どのような戦略が効果的なのでしょうか?

文化の違いはあっても、根底にある人間の価値観の大部分は、国の違いを超えて非常に似ています。リーダーにとっての課題は、文化の違いに敏感であり続け、目的、ゴール、戦略において明確かつ一貫していることです。

実行レベルにおいては、明確に定義されたゴールを設定し、オープンで明瞭なコミュニケーションを提供すること、ビジネス戦略を綿密に計画し、効果的なプロジェクトチームを立ち上げること、適切な個人に権限を委譲すること、PDCAサイクルに注意深く取り組むことなどが必要です。

さまざまな文化や背景を持つ人々が集まっていても、明確に定義された共通のゴールに向かって協働する環境があれば、チームは最高の結果を生み出します。

このように目的を共有することは、今日の市場において企業やその顧客にとってどれほど重要だと思いますか?

不安定で不確実、複雑で不明瞭な環境で事業を行うことは、多くの課題を生み出します。こうした変動要因による潜在的な影響を軽減する方法のひとつは、ビジネス全体にわたってチームが共通の目的に向かって取り組むようにすることです。

このように目的を共有することで、企業内の潜在能力を最大限に引き出し、グループ全体のさまざまなチームが同じ方向に進み、お客様に対して継続的に付加価値を提供する製品やサービスを開発することが可能になります。

さまざまな文化やビジネスへのアクセスによって、リーダーシップチームは、社会とお客様にとって、またグループとその従業員にとってもメリットを生み出す共通の目的を設定する能力を得ることができるのです。