CFOメッセージ

リスクベース経営を基軸に
戦略的な資本政策を実行し、
企業価値の最大化をめざします。

取締役副社長 グループCFO
(グループ資本政策総括)
湯浅 隆行

2020年8月

当社は将来のグループ像として「全てのステークホルダーに魅力的な価値をお届けするグローバル保険グループ」を掲げており、定量的には修正純利益5,000億円超、修正ROE12%程度、高水準の株主還元をめざしています。私はグループCFOとして、この実現を、主に資本政策面から支えています。
当社の資本戦略を簡単に申し上げると、まず、国内外の各事業の内部成長をベースに、ポートフォリオを戦略的に見直し、資本を創出します。そして、生み出した資本をM&Aなどの事業投資に振り向け、良い案件がなければ株主の皆様に還元していくというものです。非常にシンプルではありますが、当社はこれまでも、こうしたサイクルを回すことで企業価値を持続的に高めてきました。

将来のグループ像と資本戦略のサイクル

[将来のグループ像]全てのステークホルダーに魅力的な価値をお届けするグローバル保険グループ | 安定した二桁ROE | 高水準の株主還元 [長期的な成長を支えるESG] [[内部成長]国内の安定収益の持続 | 先進国スペシャルティの強化 | 新興国の成長取り込み + [ポートフォリオの見直し]戦略的資本リリース | 適切なリスクコントロール] →資本の創出→ [事業投資]規律ある戦略的M&A | 規律あるリスクテイク →資本の調整→ [株主還元]配当の引上げ | 機動的な資本水準調整

内部成長とポートフォリオの見直し

それでは次に、その一つひとつの取り組みについてご説明します。
まず、内部成長ですが、これはグループ全体の成長のベースとなります。
当社のポートフォリオの特長は、安定した利益を持続的に創出できる国内市場をベースに、市況に左右されにくい先進国スペシャルティの成長と、ブラジル、アジアといった新興国の高い成長を取り込んでいる点にあります。そして、各グループ会社が、専門性や多様性を発揮し社会課題の解決にあたることで、お客様や地域社会から圧倒的な支持を得て、結果として国内外共高い収益性、成長性を実現しています。具体的には、この約10年間で国内はCAGR+6.1%、海外はCAGR+11.6%の利益成長*1を実現しています。

  • *1 2010年度~2019年度までの自然災害の影響を平年化した事業別利益の年平均成長率

私はグループCFOとして、資本配分などを通じ、各事業が策定する中期計画などに深く関与することで、各事業の成長を支えています。その一環として、ビジネスの環境変化に対応できているか、各事業の戦略の実行や実績が計画通り進捗しているか、戦略や計画を見直す必要はないかといった観点から、各事業のトップとも対話を重ねています。これをCFOミーティングと呼んでいますが、例えば海外保険事業とは、2020年度計画でめざす利益水準や各拠点の主要課題、次期中期計画のKPIといったテーマで議論を行っており、私からはCFO目線での海外保険事業に対する課題と期待などを伝えています。また、当社は保険会社として、自動車事故や火災事故、風水災、地震といった保険引受に係るリスク、また、お預かりした保険料を株式や金利、クレジットなどで運用するといった資産運用リスクを取っています。正に良質なリスクを取って収益を上げる訳ですが、その中で、リスクを適切にコントロールしていくことが重要です。当社では、どのリスクを選好するのか(リスクアペタイト)、どの程度までリスクを取るのか、ROR(リスク対比リターン)は十分か、リスクに偏りはないか(分散)といったリスクベース経営(Enterprise Risk Management)をグループ経営の根幹に据えており、そのERM戦略を論議する場としてERM委員会を設置しています。委員会では、CEOやCRO(リスク管理)、CIO(資産運用)、CRSO(保険引受)といったグループC職に加え、各事業のトップも参加し、年6回程度実施していますが、ここでは個別のリスク戦略やリスクアペタイトの方向性、ERMの高度化などを議論しており、私はその委員長を務めています。
そして、こうした議論を踏まえて、グループ全体視点で最適なリスクポートフォリオとなるよう、取締役会で資本配分計画を決定し、結果について振り返り、改善に繋げています。

次に、ポートフォリオの見直しです。
当社は常にフォワードルッキングで全ての事業の成長性や収益性を確認し、必要な打ち手を講じています。その中で、将来の成長のために増資を行い拡大する事業もあれば、もちろん売却する事業もあります。2018年度の再保険子会社(TMR)の売却や、2019年度に決定したエジプト生保子会社の売却は、正にその「実行」と言えます。特にTMRは当社にとって海外保険事業の本格展開の原点でもありましたが、今日的に見て売却を判断しました。TMRは、グローバルなリスク分散を再保険で図ること、海外企業の経営を学ぶことを目的として設立しましたが、今ではTMK、PHLY、DFG、TMHCCといった大型買収を通じて、元受でリスク分散を効かせることができています。加えて、TMR自体は100億円規模の利益を上げる会社にまで成長、足元業績も好調でしたが、再保険市場への第三者資本の流入は構造的で中長期的にもソフト化*2の流れが変わらない中、今後、再保険事業は相当大きくなければ生き残ることが難しいという環境にありました。当社としてはこうした環境の中、既に元受で十分なリスク分散が図られており、当初のTMRの目的は達成することができたと判断し、売却を決定しました。

  • *2 ソフト化は保険料率が低下すること、ハード化は保険料率が上昇すること

ERMサイクル

東京海上グループのリスクベース経営(ERM)サイクル全体像 [リスクアペタイト・フレームワーク]リスクアペタイト・ステートメント(グループ全体の定性的なリスクテイク方針)| リスク戦略(リスク区分・事業単位ごとのリスクアペタイト) → [[リスクアペタイトに基づいた事業計画の策定とグループ全体視点での検証] 事業計画(国内損保)+ 事業計画(国内生保)+ 事業計画(海外保険)+ 事業計画(金融・一般)⇒[グループ事業計画] ←検証 [検証の視点(例)]利益・ROEの水準は適切か|リスクの偏りはないか|リスクリミットを超過していないか|利益のブレ幅は許容範囲か|流動性に問題はないか  必要に応じて再検討要請] → [事業計画をベースにした資本配分計画の決定・実行] 振り返りと改善

事業投資

続いて、事業投資です。
保険会社である当社は、お客様とのお約束を守るために、事業においてはどの様なことがあっても経営の屋台骨が揺らぐようなことがあってはならず、経営基盤をより一層強固にしていくことが重要です。この実現に向け、当社はリスク分散と更なる成長を企図し、生み出した資本をM&Aや追加的なリスクテイクに使っています。リスクを地理的・事業的に分散していくことは当社の一丁目一番地の戦略です。
また、当社にとってM&Aは目的ではなく、手段です。目的に適う「良い会社」があればM&Aを検討しますが、なければ行わない方針であり、常にM&Aの戦略マップを見ながら、買収候補先を検討しています。こうした中、2019年度も数件の「実行」を行っており、Pureグループの買収や、ブラジルでの合弁会社設立の決定はその一例です。こうしたM&Aの実行は各事業が行っていますが、私はEntry & Exit事務局を分掌し、当該案件自体の計画の妥当性や買収の戦略的意義を確認すると共に、戦略的な経営資源投入の観点からGo/NoGoの判断を行っています。
一般的にM&Aの成功は難しいと言われますが、当社が買収した会社は、いずれも買収後にマーケットを上回る高い成長を実現し、グループとしてのシナジーも発揮しています。それは、当社が買収候補先のロングリスト・ショートリストをアップデートし、海外トップマネジメントが参加するInternational Executive Committeeなどで論議し、ターゲットとなる候補を絶えず絞り込んでいることや、厳格な買収規律に基づいて「実行」しているからに他なりません。
また、当社はM&Aにおいてシナジーの発揮にも注力しています。シナジーの実額をお示している会社は珍しいと言われますが、相応の資本を使ってM&Aを行っていますので、その結果を定量的に示していくことも、資本市場の皆様に対して大切なことだと考えています。
足元では世界的なタスクフォースを立ち上げ、例えば「マーケットのハード化*2を、どう取り込んでいくのか」といったWith/Afterコロナの戦略について、グローバルに検討を進めているところですが、こうしたハード化の時こそ、当社が得意とするリスク選択能力が活きてきますので、良いリスクをテイクし、リターンを上げていきたいと考えています。

最適な資本構成

次に、資本構成についてです。
当社は2019年度にハイブリッド債を発行するなど、資本コストを意識した資本構成の組替えを行っています。
ハイブリッド債は当社の健全性を支える資本となる一方で株主資本よりも低コストであるため、企業価値向上に資する資本の持ち方のオプションのひとつとして検討してきたことではありますが、今般のPureグループ買収に併せて初めて「実行」に移しました。また、ハイブリッド債の活用により機動的な資本調達が可能となり、財務の柔軟性向上にも繋がります。一方で、健全性を維持する観点では、株主資本とハイブリッド債のバランスに留意して規律を持って活用していくことが重要であると考えています。当社では、資本効率の向上は保険事業の持続的利益成長およびリスクマネジメントを通じて実現することをめざしているため、単なるリキャップでROEを引き上げることは考えていませんが、今後も優良な買収機会を捉えるための財務戦略の一環としてハイブリッド債の活用を考えており、当社の財務レバレッジの低さは財務上の優位性になると考えています。このような形でのハイブリッド債活用を通じて、最適な資本構成の実現を図ります。

柔軟な資本戦略

[自己資本(株主資本)| ハイブリッド資本(資本性負債)] →規律ある戦略的M&Aの実行→ [2008年3月買収 キルン社 | 2008年12月買収 フィラデルフィア・コンソリデイティッド社 | 2012年5月買収 デルファイ・ファイナンシャル・グループ | 2015年10月買収 HCCインシュアランス・ホールディングス社 | 2020年2月買収(ハイブリッド債を活用) Privilege Underwriters, Inc. | 自己資本を活用した成長投資+ハイブリッド資本も活用した成長投資] 成長の取り込み/地域・事業分散/資本効率の向上 →ROEの向上

株主還元

そして、最後は株主還元です。
当社の株主還元の基本は配当で、利益成長に応じて配当総額を持続的に高めていく方針です。そして、この方針の下、2020年度も9期連続となる増配を見込んでいます。また、配当性向についても足元は40%*3ですが、将来のグループ像に向けて、グローバルピア並みの50%へと段階的に引き上げていきます。その上で、資本水準調整としての自己株式取得などについても、ESRや市場環境、M&Aや追加的なリスクテイクの機会などを総合的に勘案し、機動的に実施していきます。ESRは資本の充分性を測るもので、保険会社ではスタンダードな指標ですが、その中でも当社はより厳格な基準を用いることで規律ある資本管理を行っています。なお、足元のESR水準は、ターゲットレンジ(150~ 210%)の範囲内にあり、今後も更なる事業投資や追加的なリスクテイク、株主還元を柔軟に検討していきます。

  • *3 直近5年平均の修正純利益に対する割合で、2020年度の修正純利益は新型コロナウイルスの影響を織り込まないベース

こうした取り組みの結果として、当社のROEはCAPM*4で計算した資本コスト7%を上回って推移しています。また、そのボラティリティも低く抑えられるようになってきており、ROEの水準もその安定性も、グローバルピアに近づきつつあります。足元においては、まだ自然災害などの影響を相応に受けていますが、更にリスク分散を進めていくことで、今後もROEのブレを抑えながら、ROE自体も引き上げていきます。

  • *4 リスクフリー・レート+β(個別資産の市場全体に対する感応度)×マーケットリスク・プレミアムにより、投資家が期待するリターンを算出する手法

株主還元の向上

9期連続の増配を見込む [ 1株当たり配当金(円) 配当性向*1 配当総額*2(億円) 資本水準調整*3(自己株式取得等)(億円)/ 2016 140 35% 1,053 500 / 2017 160 35% 1,176 1,500 / 2018 180 36% 1,280 1,250 / 2019 190 38% 1,330 500 / 2020(予想) 200 40% 1,395 未定 ] 将来のグループ像 高水準の株主還元 グローバルピア水準*4 *1:年初予想ベースの配当性向  *2: 2020(予想)は自己株式取得反映前ベース *3:各年度の決算発表日までに決定した総額一時的な配当として、2018は約500億円、2019は約250億円を含む *4:グローバルピアの配当性向は現時点では50%程度

ROEの向上

資本コスト 7% 2011 1.3% ~平年を大きく超える自然災害の影響~ 2020 修正ROE12.2%* *新型コロナウイルスの影響を織り込まないベース
欧米での大型M&A等を通じ、収益性およびリスク分散を向上させ、ROEを高めてきました。将来のグループ像に向けてROEを更に高めていきます。