CFOメッセージ

リスクベース経営を基軸に
戦略的な資本政策を実行し、
企業価値の最大化をめざします。

取締役副社長 グループCFO
(グループ資本政策総括)
湯浅 隆行

2021年8月

私はグループCFOとして、戦略的な資本政策を実行すると共に、各事業が策定する計画などに深く関与することで、各事業の成長を支えています。
例えば、各事業のトップと環境変化への対応、各種戦略の進捗や見直し要否といった観点で論議する「CFOミーティング」の場では、グループCFO目線で、各事業の主要課題や新中計のKPIなどの対話を重ねています。
また、当社は保険会社ですから、保険引受、資産運用に係る“リスク”を取りながら“リターン”を上げています。当社は、「どのリスクを選好するのか(リスクアペタイト)」、「どの程度までリスクを取るのか」、「ROR(リスク対 比リターン)は十分か」、「リスクに偏りはないか(分散)」といった観点で経営を行うリスクベース経営(Enterprise Risk Management)をグループ経営の根幹に据えており、そのERM戦略を議論する場として「ERM委員会」を設置しています。私はその委員長として、グループC職や各事業のトップたちと、年6回程度の頻度で、個別のリスク戦略やリスクアペタイトの方向性、ERMの高度化や、取り組みの振り返りなどを議論し、これらを踏まえてグループ全体視点で最適なリスクポートフォリオとなるよう、資本配分計画を決定し、当社の成長に繋げています。
この他、私は「Entry&Exitルール」を統轄しておりますが、そこでは正に様々なEntry(M&A等)やExit(売却等)の案件について、その計画の妥当性や戦略的意義を確認すると共に、戦略的な経営資源投入の観点からGo/No Goの判断を行い、適切な資本配分を追求しています。
勿論、上場企業のCFOとして、資本市場の皆様との対話も大切な役割のひとつです。IR説明会に加え、2020年度はコロナ禍にありましたが、世界中の機関投資家(延べ100社以上)の皆様とリモートも活用しながら対話をさせていただき、そこでいただいた声を、当社の資本政策や経営戦略などにも反映し、企業価値の更なる向上に繋げられるよう、努めています。
こうした様々な取り組みを踏まえながら、まず、①国内外の各事業の内部成長をベースに、ポートフォリオも戦略的に見直し、資本を創出する。そして、②創出した資本は優良な事業投資に振り向け、③良い案件がなければ株主の皆様に還元する、という資本戦略のサイクルを回しながら企業価値を高めてきました。
そして勿論、将来の更なる成長をめざす中期経営計画策定の責任者でもありますので、今回はグループCFOの目線から、中期経営計画についてご説明したいと思います。

資本戦略のサイクル

[長期的な成長を支えるESG] [[内部成長]国内の安定収益の持続 | 先進国スペシャルティの強化 | 新興国の成長取り込み + [ポートフォリオの見直し]戦略的資本リリース | 適切なリスクコントロール] “OUT” →資本の創出→ [事業投資]規律ある戦略的M&A | 規律あるリスクテイク “IN” →資本の調整→ [株主還元]配当の引上げ | 機動的な資本水準調整 → さらなる成長をめざす [中長期ターゲット(マイルストーン)] 修正純利益:5,000億円超 | 修正ROE:12%程度 | 配当性向:グローバルピア水準*
  • * グローバルピアの配当性向は現時点では50%程度

前中期経営計画

2021年度から始まる3か年の新中計のご説明の前に、まずはその土台となる前中計の結果について振り返りたいと思います。当社は前中計期間中、自然災害やコロナ、米国におけるソーシャルインフレーション*1、世界的な低金利といった様々な課題に直面した訳ですが、私はCFOとして、資本配分などを通じて、各事業の成長戦略を支えると共に、フォワードルッキングなポートフォリオの入れ替えや資本構成の見直しにも取り組みました。
例えば、ポートフォリオの入れ替えとしては、Pureの買収や、タイにおけるSafety買収および既存現地法人との統合、ブラジルにおける合弁会社設立などの事業投資を行う一方で、TMRを売却するなど、リスク分散や適切な資本配分、将来の成長性等を考慮しながらEntry/Exit案件に取り組んできました。
また、資本構成の見直しとして、Pure買収時に、資本コスト*2も意識し、初めてハイブリッド債を発行しました。これまでは資本の有効活用の観点から敢えて使ってきませんでしたが、一定程度資本効率も向上したことから、今後は、大型の投資機会がある場合、あるいは、大型でなくとも複数の投資機会が重なる場合などには、ハイブリッド債の活用も検討し、最適な資本構成の実現をめざしていきます。
こうした取り組みの結果として、前中計の当社の実力(自然災害やコロナ等の一過性の影響を除く)は、修正純利益4,311億円(CAGR+5.0%)、修正ROE12.0%、配当総額1,391億円(+215億円)・配当性向42%(+6pt)となり、前中計のターゲットである「持続的な利益成長(CAGR+3-7%)」、「資本効率の向上(修正ROE10%以上)」、「株主リターンの充実(配当総額と配当性向の向上)」を達成することができました。

  • *1 弁護士の活発な活動、原告有利の陪審員評決の増加などにより、賠償金額が高騰する事象
  • *2 企業が資本を調達する際に要求されるコスト

前中計で掲げた3つのターゲットを達成

[[持続的な利益成長][前中計]修正純利益 3~7% CAGR [修正純利益(億円)]+5.0% 2017年 実績:3,414 修正ベース*1:3,720 2020年 実績:3,361 修正ベース*1:4,311] [[資本効率の向上][前中計] 修正ROE 10%以上 [修正ROE] 2017年 実績:8.6% 修正ベース*1:9.4% 2020年 実績:9.7% 修正ベース*1:12.0%] [[株主リターンの充実][前中計] 利益成長に応じて配当総額を持続的に高める/将来のグループ像に向けて段階的に配当性向を引き上げていく [配当総額(億円)・配当性向*2]+215 2017年 実績:1,176(36%) 2020年 実績:1,391(42%)]
  • *1 新型コロナウイルスの影響を控除した上で、自然災害を平年化し、市場環境を前中計策定時の2018年3月末ベースとした数値
  • *2 5年平均の修正純利益対比

柔軟な資本戦略

[自己資本(株主資本)| ハイブリッド資本(資本性負債)] →規律ある戦略的M&Aの実行→ [2008年3月買収 キルン社 | 2008年12月買収 フィラデルフィア・コンソリデイティッド社 | 2012年5月買収 デルファイ・ファイナンシャル・グループ | 2015年10月買収 HCCインシュアランス・ホールディングス社 | 2020年2月買収(ハイブリッド債を活用) Privilege Underwriters, Inc. | 自己資本を活用した成長投資+ハイブリッド資本も活用した成長投資 → 更なる成長投資] 成長の取り込み/地域・事業分散/資本効率の向上 →ROEの向上

ERMサイクル

東京海上グループのリスクベース経営(ERM)サイクル全体像 [リスクアペタイト・フレームワーク] | グループ全体の定量的なリスクテイク方針 | リスク区分ごとのリスクアペタイト → [[リスクアペタイトに基づいた事業計画の策定とグループ全体視点での検証] 事業計画(国内損保)+ 事業計画(国内生保)+ 事業計画(海外保険)+ 事業計画(金融・その他)⇒[グループ事業計画] ←検証 [検証の視点(例)]利益・ROEの水準は適切か|リスクの偏りはないか|リスクリミットを超過していないか|利益のブレ幅は許容範囲か|流動性に問題はないか 必要に応じて再検討要請] → [事業計画をベースにした資本配分計画の決定・実行] 振り返りと改善

新中期経営計画

次に新中計ですが、KPIとしましては、修正純利益はCAGRで+3~7%成長、修正ROEは12%程度の実現、そして配当性向は平均的な修正純利益の40%以上をめざしています。これは当社が2017年に掲げた中長期ターゲット(修正純利益5,000億円超、修正ROE12%程度)の達成が視野に入る水準となります。
このKPIは内部成長をベースに達成することを企図しており、M&Aは含めていません。M&Aは、あくまでリスク分散のために、良い案件があれば行うものであり、その実行を計画に織り込むことは適切ではないと考えているからです。そのため、内部成長に加えて、もし良質な大型M&Aの機会に恵まれれば、更なる成長、あるいは目標達成までの時間軸の短縮が可能となります。
そして、新中計は、取締役会は勿論、先に触れたCFOミーティングやERM委員会などでの議論を踏まえて策定したものですが、策定に当たっては、まず、お客様のニーズの多様化や社会課題の複雑化、世界的な低金利や自然災害の激甚化、各国保険市場の動向等といった事業環境に関して、今後の見通しや、当社の将来ビジョンも含め、議論や検討を重ねました。その上で、中長期ターゲットをめざし、保険本業の収益力強化と、新たなマーケットや成長分野への取り組みを主要な成長ドライバーに据えた計画を策定しております。具体的には、国内損保における火災保険の収益改善や新種保険の拡大、海外保険事業におけるマーケットのハード化を踏まえたレートアップと規律ある引受や、2020年に買収を完了したPureの利益拡大など、各種成長施策を着実に実行していきます。2021年5月の新中計発表以降、資本市場の皆様と対話をしていますと、新中計の内容やその達成確度につきましてご評価いただくと同時に、もはや修正純利益5,000億円の達成は当然と捉えていただいているような向きもありプレッシャーも感じておりますが(笑)、CFOとして、着実な資本戦略の実行を通じて計画達成に貢献してまいります。

修正純利益・修正ROEの推移(補正ベース)*1

[中長期ターゲット(マイルストーン)] 5,000億円超(修正純利益)12%程度(修正ROE) [2020*2] 4,460億円 11.5% ~ [[2023(計画)] 時間の短縮 | 更なる成長 | [M&A]M&Aに資本を振り向けることで更なる成長、時間軸の短縮が可能 | [内部成長]オーガニック成長で中長期ターゲットの実現は可能 海外のハード化/Pure、Caixaの成長力/国内の火災保険の収益改善、新種保険の拡大 | CAGR 3~7%]
  • *1 自然災害は平年並に補正し、2018,2019は復元保険料の影響を控除
  • *2 2020は新定義(自然災害責任準備金や初年度収支残の影響も控除)で、新型コロナウイルスや為替の影響を控除した補正ベース
    旧定義の補正ベースでは修正純利益4,230億円、ROE11.2%

株主還元

株主還元につきましては、新中計におきましても引き続き、まずは普通配当を基本とし、利益成長に応じて持続的に高めてまいります。また配当性向につきましても、グローバルピア水準(現時点では50%程度)へと段階的に引き上げてまいります。
当社の資本政策の考え方は、従来から一貫しており、これまで通り、良い案件があればリスク分散のためにM&Aを行い、良い案件がなければ規律を持って株主還元を実行していきます。そして、資本水準調整の手法につきましては、より透明性を高める観点から、2021年度より、年間の資本水準調整枠(中小規模の成長投資額と株主還元額の合計)として1,000億円以上と設定し、株主還元実行の判断を年2回ではなく、M&Aのパイプラインや株価等を総合的に勘案しながら機動的に実行していく方式を導入しております。

株主還元の推移

10期連続の増配を見込む [ 1株当たり配当金(円) 配当性向*1 配当総額(億円) 資本水準調整*4(自己株式取得等)(億円)/ 2016 140 35% 1,053 500 / 2017 160 35% 1,176 1,500 / 2018 180 36% 1,280 1,250 / 2019 190 38% 1,330 500 / 2020 200 40% 1,391 500 / 2021(予定) 43% 1,490*3 1,000*5] ~2023(計画)~ [高水準の株主還元] 中長期ターゲット(マイルストーン) グローバルピア水準*2
  • *1年初予想ベースの配当性向
  • *2グローバルピアの配当性向は現時点では50%程度
  • *32021(予定)は自己株式取得反映前ベース
  • *4各年度の決算発表日までに決定した総額
    一時的な配当として、2018は約500億円、2019と2020は約250億円を含む
  • *52021(予定)は中小規模の事業投資と資本水準調整の総額(目安)

ROEの推移

こうした取り組みの結果として、当社の修正ROEはCAPM*で計算した資本コスト7%を2013年以降上回って推移しています。また、そのボラティリティも低く抑えられるようになってきており、ROEの水準もその安定性も、グローバルピアに近づきつつあります。
今後も規律ある資本政策を通じて、資本の健全性を維持しつつ、資本効率を安定的に向上させてまいります。

  • *リスクフリー・レート+β(個別資産の市場全体に対する感応度)×マーケットリスク・プレミアムにより、投資家が期待するリターンを算出する手法

ROEの安定的な向上

欧米での大型M&A等を通じ、収益性およびリスク分散を向上させ、ROEを高めてきました。将来のグループ像に向けてROEを更に高めていきます。

修正ROEは資本コスト7%を上回って推移

資本コスト 7% 2011 ~平年を大きく超える自然災害の影響~ 2020 修正ROE(実績ベース)9.7%