データによる可視化で、地震に強いレジリエントな都市へ
- レジリエンス
デジタルツインと観測網の融合で都市の地震被害評価を変革する
2011年の東日本大震災は、より高度な地震リスク評価の必要性を日本全体で強く認識させるものでした。都市で発生する大規模地震への対応は、数ある災害シナリオのなかでも最も難度が高い課題の一つです。多数の建物が同時に影響を受ける中、限られた時間と不完全な情報を前提に、どこに資源を投入すべきかを迅速に判断する必要があります。全体像の把握が遅れるほど、リスクは高まります。
2022年、東京海上グループの一員である日本工営は、東北大学と連携し、レジリエントシティー技術実装共同研究部門を設置しました。地震対応の高度化を目指した共同研究を進め、その成果としてデジタルツインの枠組みを開発しました。
この枠組みは、データサイエンスやIoTを活用して、自治体や消防・救急などの初動対応を担う機関、保険会社、その他のステークホルダーが行う、災害リスクマップの高度化、避難経路の策定・改訂、耐震性強化が必要な地域や建物の特定、発災後の迅速な被害把握などに貢献するものです。
本稿では、デジタルツイン技術の概要と、地震多発地域の都市にもたらす様々なメリットを紹介します。
研究報告
東北大学 災害科学国際研究所の教員による紹介動画
登場人物
寺田賢二郎 教授
櫻庭雅明 特任教授 (日本工営株式会社 中央研究所長)
シミュレーションと地震計観測網を融合したデジタルツイン
デジタルツインの枠組みは、都市全域に配置した地震計ネットワークからのデータと、事前に蓄積した地震応答シミュレーションの計算結果を融合し、発災時の市域全体の被害をリアルタイムで予測します。
この枠組みでは、実際の地震が起こる前に、都市全域を対象とした地震シミュレーションを事前に行います。シミュレーションでは、断層帯で発生した地震波が地下を伝播し、建物へと伝わる過程をモデル化し、得られた結果は、被害の程度として変換されます。その結果を分析することで、都市内の建物被害の空間的特性を事前に把握することができます。実際に地震が発生した際には、事前に特定した空間的特徴と、物理的なセンサー網から得られるリアルタイムの振動データを組み合わせ、都市全域の地震被害を即時に評価することが可能になります。
提案する枠組みの性能を実証するため、日本工営と東北大学は SAMRRAi(Seismic Assessment and Monitoring system for Real-time Risk Analysis)というデジタルツインシステムのプロトタイプを開発しました。図1に示すように、デジタルツインは現実世界の情報を用いてシミュレーション空間を生成し、現実を鏡のように再現します。建物特性、地盤条件、断層モデル、地震計ネットワークからのリアルタイムのセンサーデータなどの情報は、現実世界とシミュレーション空間の間で相互にやり取りできるようになります。
デジタル地震から現実世界の被害評価へ
研究者らは、長町-利府断層帯の断層運動による内陸地震を想定し、仙台市青葉区(宮城県)の一部領域を対象に SAMRRAiを適用しました。この試行実験では、仙台駅周辺の高層オフィスビルから住宅街、重要インフラまで多様な都市環境における 32,334 棟の建物を分析し、マグニチュード 6.3 から 7.5 までの 13 の地震シナリオを考慮しました。シミュレーション結果から、建物全体の構造被害だけでなく、天井、内壁、配管、スプリンクラー、家具といった内部構成要素の被害も含めた、各種リスク指標を算出できます。
災害対応者がセンサーデータのみを用いる場合には、評価はセンサーが設置されている建物に限られてしまいます。これに対してSAMRRAiの枠組みは、地震計観測網からのリアルタイムデータを、事前のシミュレーションで得た地震応答データや空間的特徴と融合し、地震計が設置されていない建物を含む都市全域の全建物に対して、包括的な被害予測を可能とします。
この試行実験は顕著な成果を上げました。戦略的に配置したわずか 13 基のセンサーで、全建物の 0.05% 未満にあたる情報しか使っていないのにもかかわらず、SAMMRAi は青葉区全域の被害を誤差 20~30% 程度で評価するこができました。従来のアプローチよりもセンサー数を劇的に削減しながら、緊急対応に役立つ情報の提供を実現するポテンシャルを確認することが出来ました。
この枠組みが提供する知見は、地震の全体的な影響の把握を超えて、応急対応者の資源配分や意思決定、さらには地震に対するレジリエンスを高めるためのリスク軽減計画の策定に役立つものです。
東京海上グループは、社会的課題の解決に資する研究を積極的に支援しています。社会の災害レジリエンスの向上は、グループにとって重要かつ優先的に取り組むべき課題であり、それに資する研究支援をこれからも継続していきます。