保険と技術で災害に強い経営を

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2026年1月22日
  • この記事は「日本経済新聞」の記事広告を転載したものです。
左:ID&Eホールディングス 代表取締役社長 新屋 浩明 右:東京海上ホールディングス 取締役社長 グループCEO グループカルチャー総括 小池 昌洋

自然災害が大規模化するなか、企業活動をどう維持すべきか。2025年5月、東京海上ホールディングスは建設コンサルティング大手の日本工営を傘下に持つID&Eホールディングスをグループに迎えた。従来の保険ビジネスに加え、自然災害による被害を抑える取り組みに力を入れる。両社長に統合の背景と目指すべき未来を聞いた。

防災減災から復旧・維持管理まで

小池
自然災害は激甚化・頻発化の一途をたどっている。保険だけでは経済的損害をカバーしきれない「プロテクションギャップ」が深刻な社会課題だ。世界規模で見ても保険によるカバーは全体の約4割に満たず、多くの地域でプロテクションギャップが存在している。なかでも災害リスクが集中している日本はプロテクションギャップが大きい。また企業にとって、災害リスクへの対応は持続的成長を支える重要な経営課題の一つだ。サプライチェーン(供給網)マネジメントや事業継続の観点からも、災害後の復旧のみならず、事前の備えや早期復旧の体制づくりが企業のレジリエンス(回復力)向上の根幹になっている。
こうした状況下、われわれ保険会社には、保険を通じた「被災後の補償」にとどまらない役割が求められている。今後は防災や減災、復旧・維持管理といった災害の事前・事後領域にもシームレスにソリューションを提供する。経済的損害額そのものを低減させる「ミティゲーション」の推進が、保険会社としての新たな社会的使命だ。

新屋
ID&Eは長年、防災インフラや都市開発に取り組んできたが、従来の設計基準では対応しきれない規模の災害が頻発している。特に近年は、気候変動や都市構造の複雑化に加えてインフラの老朽化が進んでおり、想定を超える被害が生じやすくなっている。これまで日本の防災対応は公共主導で進められてきたが、それ一辺倒では限界が近い。今後は民間企業の主体的なリスク対応、つまり「自助」が不可欠だ。企業はレジリエンス強化を経営戦略に組み込む必要がある。当社が得意とする公共インフラの防災・減災対策に加えて、東京海上グループの保険を組み合わせて民間にサービスを提供することで、プロテクションギャップが埋まり、真に実効性あるレジリエンス社会の実現が可能になる。

事前から事後まで包括的に

小池
ID&Eとの連携により、災害レジリエンスの4象限、すなわち「現状把握」「対策実行」「経済的補償(保険)」「復旧・維持管理」を一気通貫で支援できる当社グループ独自のソリューション提供体制ができた。これにより、保険の枠を超え、リスク評価やそれを踏まえた対策の実行を含む包括的なソリューションを提供していく。特に災害発生時のリスク、即ち経済的被害と、事前に対策を講じることで低減できる被害と、費用対効果の定量化は、企業の防災投資の意思決定支援に必須の観点だ。東京海上は、事故原因や保険金支払いに関するデータを基に、地域ごとのリスクを定量化する仕組みを整えている。そこに、ID&Eが持つ防災・減災、都市開発、脱炭素・温暖化対策などの工学的知見に基づく精緻なリスク評価とコンサルティングの技術をかけ合わせることで、より合理的な投資判断が可能になる。例えば、対象工場の想定浸水深を精緻に予測し、対策工法ごとに損害額の低減効果、費用対効果、投資回収年を定量化することで、民間企業の意思決定促進が可能となる。両社は以前から協力関係にあったが、同じグループとなり呼吸を合わせて取り組むことで、価値共創のスピードが高まると期待している。

新屋
重要なのは、机上の理論ではなく、現場で機能する実行可能な選択肢だ。ID&Eは公共事業のなかで、地形や地質条件を踏まえた現実的な対策を提案してきた。ある自治体では降雨データと地形分析を基に、内水氾濫リスクを軽減するため避難路や施設配置の見直しを支援した。当社の知見に東京海上が蓄積してきたデータや営業ネットワークを組み合わせることで、民間分野における災害リスク対策の実装力が飛躍的に高まる。さらに保険金を再発防止に活用することで、将来的なリスクと次に起こる災害による損害を低減するサイクルが形成され、プロテクションギャップの解消にもつながる。
民間の防災投資が進まない一因は、エビデンスに基づく民間向けの防災ソリューションが限定的であることだ。しかし建設コンサルティングにおいては高度な解析・シミュレーションを前提とした対応が必須であり、評価・検証に裏付けされた防災対策のノウハウがある。公共事業の経験があるからこそ分かることも多い。水災を例にとれば、いま国土交通省は流域に関わるすべての関係者が連携して治水能力を高める「流域治水」プロジェクトを進めている。河川沿いの工場が水害対策を行う場合、1社が単独で防水壁などを設置すると、水の流れが変わり周辺地域の被害を拡大させかねない。当社なら、他の地域への影響も踏まえた最適解を提案できる。こうした提案と保険がセットになる社会的意義は大きい。

小池
連携の背景には両社の価値観や方向性の一致もある。東京海上のパーパスは「お客様や社会の“いざ”をお守りする」。創業より地域社会と顧客を守るという思いを軸に事業を広げてきた。今では世界57カ国に5万人以上の社員を抱えているが、海外展開の際にもカルチャーフィットを重視し、理念を共有できる会社を仲間にお迎えする。今回も同様だ。防災・減災レジリエンスの領域で連携先の探索を進めるなかで、同じ理念を持つID&Eと出合った。保険と技術(エンジニアリング)を兼ね備えた唯一の存在として、われわれしか実現できない価値を提供し、災害に負けない強靱(きょうじん)なレジリエント社会を築きたい。
お互いをリスペクトできる関係性にも恵まれた。災害レジリエンスの4象限のうち東京海上は「現状把握」の一部と「経済的補償」のケイパビリティー(能力)を有している。 事前対策や復旧・維持管理のケイパビリティーはID&Eがはるかに優れている。学ぶところが多いパートナーと価値創造できることに、大きな可能性を感じている。保険会社とエンジニアリング企業の統合は稀有(けう)な事例であり、市場には驚きをもって受け止められたが、いずれ異業種の経営統合の好事例として評価されるよう成長していきたい。

保険会社の価値を再定義

小池
私たちが目指すのは、災害による被害を最小限にとどめるレジリエントな社会だ。保険と技術を融合した独自の総合リスクマネジメントにより、それを実現する。従来の保険がカバーしていた事後の補償に、事前のリスク把握と適切な対策を組み込む。さらには災害前と同じ状態に戻すのではなく、より強い施設へと再建する。こうした複数のソリューションを組み合わせることによって保険会社の価値を再定義し、保険だけではカバーしきれないプロテクションギャップを埋めていきたい。まずは日本国内から取り組みを始めているが、将来的にはグローバルに手を広げ、海外のプロテクションギャップ解消にも挑む。課題先進国の日本から、レジリエンス強化というグローバルな社会課題に即した事業に発展させることで、目指す未来の実現に向け加速する。

新屋
私はこれまで、2020年7月の熊本豪雨でも氾濫した球磨川など、多くの災害現場に足を運んできた。被災者からは「保険金はありがたいが、その後の復旧作業の負担が大きい」という声をよく聞く。被災状況を把握するための調査や、損壊した建屋の復旧、資材調達、発注などには、工数も時間も必要。災害レジリエンスの4象限を一気通貫するサイクルのなかに、迅速な被害調査と復旧プランの策定も組み込み、保険と合わせて提供できれば、復旧のスピードと質を大きく改善できる。さらには「Build Back Better(よりよい復興)」に基づく復旧・復興対応を行うことで「世界をすみよくする」というわれわれのミッションの達成に近づく。東京海上グループとID&Eグループの統合は、異なる領域の融合により社会の防災力を構造的に引き上げる試みだ。技術と保険が一体となり被害を軽減する社会。そんな持続可能で安心できる未来のため、ともに全力を尽くしたい。

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