健保の未来を守る「セルフメディケーション」という選択 ~ホワイトヘルスケア社が支える実践のかたち

  • 保険・リスク関連インサイト
  • 社会課題・高度化社会
2026年4月13日

医療費の増加が続く中、健康保険組合の財政は一段と厳しさを増しています。高齢化の進展や医療の高度化、受診機会の増加などを背景に、2025年度 には約8割の健保が赤字となりました。実際に解散に至る健保もあり、財政健全化は喫緊の課題です。こうした中、医療費を適正化しつつ加入者の健康維持・増進を図る手立てとして注目されているのが「セルフメディケーション」です。

本記事では、2020年の創業以来、セルフメディケーションの実践を支えるホワイトヘルスケア株式会社の取り組みについて、同社の経営企画部事業開発グループ所属で薬剤師の資格を持つ生越史行氏、事業本部健保CSグループの宮本悠作氏に話を聞きました。

セルフメディケーションが求められる時代へ

ホワイトヘルスケア株式会社は、三菱商事と東京海上ホールディングスの合同出資により、2020年7月に設立されました。医療費の増加や健康課題の複雑化といった社会背景を踏まえ、健康保険組合や自治体などを主な対象に、レセプトデータ(保険診療をした医療機関が発行する「診療報酬明細書」データ)や健診データを活用したヘルスケア支援事業を展開しています。
実際の現場では、どのような課題が見えているのでしょうか。宮本氏は次のように語ります。

「健康保険組合の担当者からは、『財政健全化のためには保険料率の引き上げを検討せざるを得ない』という声もあります。しかし、保険料率の引き上げは加入者の手取りが減ることに直結するため、健康保険組合としてできる限り避けたい選択肢です。財政健全化は急務ですが、被保険者の負担増だけで解決すべき問題ではないと思います。そこで、健保が取り得る解決策の一つとして期待されているのが、セルフメディケーションの浸透、そしてその実践です」
ホワイトヘルスケア株式会社 宮本 悠作氏
セルフメディケーションについて、生越氏は「一般の皆様への認知拡大が課題です」と語ります。WHOでは「軽度な身体の不調を自分で手当てすること」と定義されていますが、生越氏は「決して医療機関への受診を遠ざけるものではなく、市販薬を使うことが目的でもありません」と強調し、さらに次のように説明します。
「日頃から規則正しい生活をするなど健康管理を行い、自分の体と向き合って平時の食事量や睡眠、お通じや体温を知っておくこと。不調のサインを逃さず、軽い不調のうちに自分で回復に努めること。その上で、必要だと判断したら速やかに医療機関への受診に切り替えることが大切です」
ホワイトヘルスケア株式会社 生越 史行氏

セルフメディケーションの具体的な取り組みとして、処方箋なしで購入できる市販薬である OTC医薬品の活用が挙げられます。このOTC医薬品についても、正しい理解が浸透しているとは言えないのが現状です。
生越氏は、「ドラッグストアやオンラインで購入できるOTC医薬品は、医師が処方するお薬(医療用医薬品)より効き目が弱いと誤解されている方も多いのですが、必ずしもそうではありません。医療用医薬品と同じ有効成分を含むスイッチOTC医薬品も多くあります」と説明します。
実際、2025年9月時点で、医療用医薬品と同一成分を含むスイッチOTCは117成分・2,972品目が承認されており、選択肢は着実に広がっています。

また、「市販薬は、医療機関で処方される薬より価格が高い」と考える人が多いことについて、宮本氏は「医療機関の受診で発生する診察料や調剤料を含めると、市販薬の方が安くなるケースもあります。また、通院時間や待合時間がないというタイムパフォーマンスの良さも市販薬の魅力です」と説明します。

頭痛薬のロキソニンS、花粉症のアレグラFXといった薬をご存知の方も多いと思いますが、これらはスイッチOTC医薬品の例です。症状に応じてスイッチOTC医薬品を上手に活用していただくことで、日常の不調に対して自分で対処できる場面は少なくありません。
こうした取り組みの広がりは、医療費の適正化に寄与することも期待されています。厚生労働省の有識者検討会(2021年2月)では、OTC医薬品への切り替えによる保険給付費削減効果は合計3,210億円と試算されており、中でも花粉症薬については、全国で約1,430億円の削減余地があるとされています。

OTC医薬品の活用は、加入者にとっては時間負担の軽減、健保にとっては医療費の適正化と、双方にとってメリットが生まれる可能性を秘めているといえます。

ホワイトヘルスケア社の4つの取り組み

ホワイトヘルスケア社は健康保険組合と連携し、4つの取り組みを軸に、加入者へのセルフメディケーションの浸透を支援しています。

(1) 啓発活動「知っ得お薬情報通信」

1つ目は、セルフメディケーションの啓発活動です。月1回、疾患の対処法などをまとめた「知っ得お薬情報通信」を健康保険組合のデジタルチャンネルを通して発信しています。
宮本氏はその意義について、「有益な情報を提供することで、加入者の皆さんの薬に関する知識やヘルスリテラシーの向上につなげたい」と語っています。

(2) レセプトデータを活用した個別通知

2つ目は、レセプトデータを活用した個別通知です。健康保険組合から提供されるデータを分析し、処方薬と同一有効成分のOTC医薬品に切り替え可能なケースを抽出、健康保険組合から対象の加入者へ情報提供を行うことを支援しています。
宮本氏によると、「現在は主に花粉症、皮膚疾患、肩こり腰痛などで薬を処方されているケースを抽出して個別通知を行っています。 お薬は毎年新しいものが出てきますので、抽出ロジックもタイムリーに見直しを行っています」とのことです。

(3) ECサイト「あなたの薬箱」

3つ目は、ECサイト「あなたの薬箱」です。OTC医薬品を24時間オンライン上で購入することができるため、忙しい就業世代の皆さんにも活用しやすいサービスです。さらに、医薬品を販売するだけではなく、重篤疾患の兆候をチェックする「レッドフラグ機能」や、年齢・症状等に合ったお薬を検索できる「お薬ナビ」を実装していることも大きな特徴です。

宮本氏は、「あなたの薬箱でOTC医薬品を購入してもらうこと自体が目的ではなく、こうした選択肢があることを分かりやすく示すことでセルフメディケーションへの関心を高めたい」と強調します。

(4) 無料の「薬剤師LINE相談」サービス

取り組みの4つ目は、必要なときにいつでも無料で薬剤師に相談ができる「LINE薬剤師相談」です。相談に対応するのは、生越氏をはじめ、薬剤師資格を持つメンバーです。
「ただ市販薬を紹介するだけではありません。どうすれば困りごとを解決できるかをご提案した上で、『数日改善しなければ医療機関を受診してください』と、次のステップも必ずお伝えします」というのが、生越氏のこだわりです。
担当する相談は月に平均100件程度で、内容は、「今飲んでいる処方薬を市販薬に代替できるか」「休日に子どもが発熱しましたが、どうしたら良いか」「受診の際、医師に症状をどのように説明すれば良いか」など、多岐にわたります。
生越氏は次のように説明します。
「医療機関では、患者さんは基本的に医師が処方した医薬品を服用することになります。一方、LINE相談では、例えば眠気などの副作用が少ないものが良いのか、1日2回ではなく1回の方が良いのか、価格が安いものが良いのかなど、よりその人のニーズに即した医薬品をご提案することができます」
利用者からは、「相談できる場所があって心強い」「丁寧に対応してもらえて驚きました」「受診せずに症状がおさまりました」といった声も寄せられています。こうした反応について、「おおむねご満足いただけていると感じています」と生越氏は手応えを語ります。

以上の取り組みにより、健保の規模によっては数百万円単位で医療費適正化効果が確認されています。

日本の社会保障制度を次世代に繋いでいくために

セルフメディケーションのさらなる普及について、生越氏は、「ポイントは2つあります」と語ります。
一つは、社会保障制度を次世代に繋いでいくには「自分自身の健康と向き合い、適正に医療と関わること」が重要であるという認識がスタンダードになる必要があります。これには、国や自治体、そして健康保険組合からの働きかけが不可欠です。
もう一つは、個人の負担を軽くする公的制度の活用促進です。例えば、対象医薬品を家族合算で年間1万2千円以上購入すると税制控除の対象となる「セルフメディケーション税制」がありますが、十分に周知されていません。

「このように、セルフメディケーションの実践が社会保障制度の維持・発展に繋がるというマクロな視点から、税制控除による経済的メリットの享受できるというミクロな視点まで網羅的に国民一人ひとりに浸透させていく必要があります。」と宮本氏は語ります。
その背景にあるのは、セルフメディケーションの推進が健康保険組合だけで完結する取り組みではないという認識です。
「健保だけでなく、医師療機関や薬剤師、製薬メーカー、加入者など、多様な主体の連携が不可欠です。当社は創業以来の取り組みで培ったネットワークを生かし、各プレーヤーをつなぐ役割を担っていきたいと考えています」

その先に見据えるのは、将来世代にわたり持続可能な医療のあり方です。

「100年先でも、国民が質の高い医療を適正な負担で受けられる社会を実現したい。そのために、自社の強みを活かし、健康保険組合の財政健全化に向けて、全力かつ持続的に貢献していきたい」と宮本氏。

セルフメディケーションの広がりが、医療費の適正化と個人の健康維持、ひいては健康保険組合の財政健全化にどのように寄与していくのか。今後の動向が注目されます。

  • X
  • Facebook
  • LinkedIn

おすすめコンテンツ