東日本大震災から15年、熊本地震から10年~経験をもとに進化する保険金のお支払い対応

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2026年3月19日

東日本大震災、そして熊本地震。
東京海上日動が広域災害の現場で突きつけられたのは、「お客様へ一日でも早く安心をお届けしたい」という思いと、現実の仕組みとの間にある大きな壁でした。

「どのような大規模災害下でも、保険金のお支払いを滞らせてはならない」。その強い思いを原点に、私たちは、基幹システムの刷新や業務プロセスの見直しを進め、広域災害下でも機能するお支払い体制へと転換してきました。

その取り組みは、いまや支払件数や満足度といった具体的な成果としても現れています。本記事では、私たちが何を課題と捉え、何を変え、どのように進化してきたのか、その軌跡をご紹介します。

広域災害における「保険金のお支払い」の役割

日本は自然災害大国です。気候変動の影響もあり、近年その被害は年々拡大しています。

東京海上グループは、事前の備えや防災から、災害発生時の対応、そして復旧・復興まで、一気通貫でお客様と社会を支えています。その中核となるのが、災害時の「保険金のお支払い」です。迅速かつ確実なお支払いを通じて、生活再建を支え、誰もが安心して暮らせる「災害に強い社会」の実現を目指しています。

事前の備えから災害発生時、復旧・復興までを一貫して支える、東京海上グループの価値提供の全体像

本記事では、災害時における保険金支払いの取り組みをご紹介します。

東日本大震災などの広域災害で明らかになった、当時の保険対応の課題

当時の課題を振り返りながら、具体的に何をどのように進化させてきたのか、その軌跡をご紹介します。

災害に強い社会を実現すべく、私たちは保険金のお支払い対応の改善に向き合い続けてきました。その背景にあったのは、東日本大震災や熊本地震で顕在化した当時の広域災害対応における様々な課題です。

アナログで行われていた業務

1つの課題は、お客様への対応や社内の業務プロセスが電話・FAX・紙資料を前提とした運用に依存していたことでした。

デジタル化以前は、発災からお支払いまで人力で担う部分が多かった

当時はお客様からの事故受付を電話に頼っており、その情報はすべてFAXで各拠点へと連携されていました。そのため、広域災害が発生すると、鳴りやまない電話で回線はパンク状態に陥ります。また、送信に時間を要するFAXでは情報の即時共有もままならず、現場は「情報の停滞」に直面していました。

膨大な「紙資料」による管理も、大きな壁となって立ちはだかっていました。過去の対応経緯を確認するだけでも、積み上がった資料の山から該当の一枚を探し出さねばなりません。さらに、受け取った紙の情報を改めて社内システムへ入力し直すという二重の手間が発生し、現場の負荷を増大させていたのです。

右:大量の紙資料からお客様の情報を手作業で探している様子 左:フォルダ管理されていた紙資料
また、地震災害の対応においては、原則「現地立ち会い」による損害調査が必要になります。拠点によっては1日に数十件から数百件もの調査を実施しますが、当時はその膨大なスケジュールを、ホワイトボードに付箋を貼って管理していました。損害査定人への連絡も1件ずつ個別に行うなど、運用のすべてが人手頼みで、立ち会いの日程調整も煩雑を極めました。
立ち会い調査のため、現地へ向かうルートを決めている様子
土地勘のないスタッフもいるため、かなりの時間を要していた

このように、情報管理がアナログな手法に依存していたため、対応の迅速化には物理的な限界がありました。結果として、お客様をお待たせしてしまう大きな要因となっていたのです。

デジタルと業務プロセスによる、保険対応の進化

紙や人手に頼った旧来の運用は、広域災害という非常時において、迅速な初動も円滑な保険金のお支払いも物理的な限界を迎える、ということを、我々は身をもって体験しました。

そこで、この危機感を原動力に、基幹システムの刷新と業務プロセスの再設計という抜本的な改革を決断し、初動からお支払いに至るまでのプロセスを、ゼロベースで構築し直しました。目指したのは、単なる作業の効率化ではありません。いかなる大規模災害下でも機能する、強靭な保険金のお支払い体制の確立です。

新システムで情報を一元化、遠隔業務を可能に

東日本大震災以降の広域災害対応を通じて、保険金のお支払いを支える仕組みが段階的に進化してきた過程を示す

1.受付チャネルの多角化

まず着手したのは、入り口となる事故受付の刷新です。従来の電話・FAXに加え、新たにインターネット受付を加えました。パソコンだけでなく、スマートフォンから入力し易いように工夫し、場所と時間を選ばず手続きを完結できる環境を整えています。

また、保険代理店向け業務システム「TNet」にも受付機能を搭載。

様々な受付方法を用意することで、広域災害時でも確実に「つながる」というお客様の安心感の向上につなげました。

2.中核システム「GNet」の導入による情報の集約

事故対応情報を一元管理する社内システム「GNet」を導入。代理店が受け付けた事故情報は、前述の代理店システムを通じて自動でGNetに取り込まれます。これにより、初期対応の内容がリアルタイムで全社共有されるため、既にお客様にご説明した内容や質問が再度行ってしまうような、重複した連絡を排除することができます。

3.ペーパーレス化・情報の一元化による対応拠点のマルチロケーション化

紙資料のペーパーレス化を徹底して行いました。これは紙使用量の削減だけではなく、多くの恩恵をもたらしました。

事故受付の内容やお客様の情報はすべてデータとしてシステムに蓄積され、全国の拠点から即時にアクセスできるようになりました。被災地以外の遠隔拠点でも、現場と同じ情報に基づいた支援が可能となる「マルチロケーション」体制を作り上げることができるようになっていったのです。

これにより、広域災害時の損害サービスは“現地依存型”から“全国分散型”へと大きく転換しました。全国の拠点が業務をバックアップすることで、対応を迅速にするとともに、被災地拠点の負荷を減らすことで、現地でなければできない対応に注力することが可能となっています。

また、情報の一元化により、事故受付の件数などもリアルタイムで把握できる仕組みになったため、最適な人員配置を機動的に行えるようになりました。

4.事務処理の自動化による「本来の人の仕事」への注力

なおGNetでは、Automationという機能を導入し、事務処理の自動化を進めています。たとえば、「提出書類に漏れがないかの確認」など、機械で処理できる部分は可能な限り代替しているのです。

こうして機械代替で生まれた時間で、社員は、複雑な内容のコミュニケーションや、デジタルの使用が難しいお客様へのご案内といった、お客様の心に寄り添う「人にしかできない対応」に集中できるようになっていきます。

広域災害対応において導入されてきた、主なデジタル施策と業務プロセスの変化

損害調査をスピーディにする仕組みも構築

進化したのは、情報管理システムだけではありません。
保険金のお支払いに不可欠な「損害調査」についても、新たなアプリやシステムの開発を行い、迅速な対応ができるよう取り組んできました。

損害調査の情報整理役「ARO」

その1つが「広域災害立会管理システム(ARO)*」です。
*Appointment & Route Optimizerの略語

図:広域災害立会管理システム(ARO)の概要
AROにより、立ち会いによる損害調査のスケジュール調整から訪問ルート設計までが迅速化

このAROは、お客様への損害調査のアポイント管理をシステム上で行えるほか、列車やホテルの予約サイトのように、専用URLを通じてお客様側から希望の調査日時を予約することも可能にしています。

さらに、その日に訪問する物件を効率的に回れるよう、立会拠点にいるメンバーの人数等を踏まえ、AIが訪問物件を割り振りし、訪問ルートを提案する機能も搭載。広域災害では多くの調査を短期間に集中して実施することが求められますが、このシステムを活用すれば限られた人員でも対応力を最大化できる体制を整えられるのです。

また、AROは先述のAutomationとも連携しています。たとえば立ち会いによる損害調査が必要なお客様には、AROの立ち会い予約用のURLが自動で送信されるなど、受付から調査までをシームレスにつなぐ仕組みが構築されています。

「地震アプリ」による調査報告の迅速化

そして、損害調査においては、モバイル端末から調査報告書を作成できる「地震アプリ(※日本損害保険協会が開発、損害査定人が調査時に利用)」を導入しています。

従来の立ち会いによる損害調査では、調査結果をもとに手作業で紙の報告書を作成していましたが、この地震アプリでは、被害の程度をモバイル端末で記録でき、損傷箇所などの写真撮影もアプリ内で行えます。

紙の報告書の場合には、鑑定人が一度拠点に戻ってから書類を次の工程の担当に渡す必要がありました。しかし今は拠点に戻らずとも、立ち会い先や途中の移動先で地震アプリを使ってレポートを作成し、提出することもできるようになりました。こうした取り組みは、早期のお支払いにつながっています。
損害部分を確認している様子

発災から事後対応までのプロセスが大きく変化

デジタル技術と業務プロセスの進化により、発災からお支払いまでのプロセスが効率化されている

基幹システムの抜本的な刷新と、損害調査管理の自動化。これらの変革は、事故受付から保険金のお支払いまでのプロセスを劇的に加速させました。

保険金をいち早くお届けすることは、被災地の早期の再建を支える重要な基盤となります。私たちは今後も新たな技術を柔軟に取り入れ、より迅速で質の高いサービスの提供を追求していきます。

広域災害への対応を「全国で支える」損害サービス体制に

進化したのは、システムだけではありません。広域災害時の損害サービス部門における「社内体制」についても、過去の経験や教訓をもとに、より迅速な対応ができる体制へと強化しています。

図:現在の損害サービス部門が担う広域災害対応の体制

災害発生時の損害サービス対応は、実際に被災した「現地」拠点と被災エリアへの支援が可能な「遠隔地」拠点が連携して行います。

まず現地では、全体の指揮を担う「災害対策室」が立ち上がります。さらに、現地で損害調査を行う「サテライトオフィス」が設置され、状況に応じて「バックオフィス」も併設されます。

一方、遠隔地では常設の「災害支援センター」(東京)が、立ち会いアポイントの取得や書類のデータ化、レポート確認、支払前点検などを担い、現地の負荷を軽減します。また、大規模災害時には、遠隔地にもバックオフィスが設置され、事務処理を分担します。
能登半島地震時に東京に設置されたバックオフィス

現地は、現地でしかできない業務に注力し、それ以外の業務は遠隔地から支える——こうした体制が、広域災害時の迅速なお支払いを可能にしています。

デジタル化によって実現した、広域災害時の保険金支払いの成果

新たなツールの導入や社内体制の改善を進めながら、東京海上日動ではより速く、確実な保険金のお支払いに努めてきました。その取り組みは着実に成果として表れています。2024年度の支払件数は約7万件、支払額は約600億円に達しています*1

広域災害時における保険金のお支払いの件数・金額と、お支払い対応に対するお客様からの評価(2024年度)

また、お支払いへの総合満足度は約90%となっています*2。保険金は、お客様に対する安心の提供、被災直後の生活や事業の再建を支える重要な資金です。今後もその役割を確実に果たしていきます。

  • *1
    兵庫雹災、台風10号、日向灘地震など合計7件の大規模災害に対する保険金のお支払い件数とお支払い金額
  • *2
    災害時の保険金のお支払いに関する自動車、および火災保険の加入者を対象とした直近のお客様アンケート結果を集計(2025年2月~2025年7月)

さらなる広域災害対応の進化に向けて

広域災害対応の強化は、継続的に取り組むべき重要な課題です。お客様の“いざ”を支え、災害に強い社会に貢献するために、人にしかできない領域を深化しつつ、可能なものはデジタルやAIで自動化していく。両方の良さを活かしながら、迅速かつ品質の高いサービスを届けていきたいと考えています。

そして保険金のお支払いを中核に、事前の減災支援から事後の早期復旧・より良い再建まで、一貫したサポートを通じて、災害に強い社会の実現に向けて取り組んでいきます。

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