明日の洪水を、今日予測する
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水災害ハザード予測の最前線 ~ 水災害レジリエンスの向上に向けて
水は生命の源であり我々の生活になくてはならないものです。一方で、豪雨や洪水は毎年何千人もの人々の命を奪い、何百万人もの人々の住処を奪っています。そして地球温暖化に伴い水災害は全世界で激甚化の一途をたどっています。水災害は人命を奪うとともに、世界のどこで発生しても物流の停滞、操業停止、部材供給の断絶などを通じて、社会・経済へ広範に波及します。
洪水リスク管理のポイントは、「将来起こり得る極端事象を、どこまで確かに予測できるか」にあります。ところが、降雨の観測記録は多くの場合150年程度にとどまっていました。
そこで今回は、京都大学工学研究科立川康人教授が行った、水災害のハザードとリスクの予測の研究をご紹介します。この研究の一部は東京海上研究所との共同研究として行われました。洪水の将来予測の不確実性を減少させ、より信頼性の高いリスク評価モデルを確立する研究です。
予測モデルxデータベースによる分析枠組み
- 立川康人教授のチームは、1K-DHMという独自に開発した降雨流出モデルを用い、d4PDFという気候予測データベースを利用して洪水の頻度と強度の将来変化を分析する枠組みを構築しました。
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1K-DHM(京都大学が開発した分布型降雨流出モデル)
降雨データを、地形・土地被覆・土壌・地質などの条件に基づき、約1km解像度で河川流量へ変換し、洪水の挙動を物理的に整合した形で再現・予測する。数値標高データを用いた流域地形表現と分布型降雨流出モデル
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d4PDF
気象庁気象研究所などが開発した気候予測データベース。数千年分に相当する気候シミュレーションを用いることで、極度の降水の発生頻度や規模を統計的により強固に評価する。
この分析の枠組みにより、従来は推定の幅が大きかった極めて稀で大規模な洪水についても、現実に即したリスク把握が可能になりました。
気温が4℃上昇した世界で起こり得ること
本研究では、日本の三大都市圏の3流域(荒川・庄内川・淀川)において、地球の平均気温が4℃上昇した場合の洪水リスクを評価しました。その結果、「200年に一度」の洪水規模が、現状比で約1.5〜1.7倍に拡大し得ることが示されました。さらに、現在最大級と位置づけられている「900年に一度」規模の洪水の最大流量は、4℃上昇シナリオ下での「200年に一度」の洪水の最大流量とほぼ同じになりました。これは、現行の予測に基づき整備された治水・インフラは、将来にわたって十分であるとは限らないことを意味します。
また、洪水リスクの分析を日本全国の主要109の水系に拡張したところ、洪水リスクの増大は全国で確認され、特に北海道・東北で増加が大きい傾向が示されました。
さらに日本以外の国でも適用したところ、タイのチャオプラヤ川流域では、4℃上昇シナリオ下では、洪水ピーク流量が最大約1.63倍、総洪水氾濫量が2倍以上になることが示されました。ベトナムおよび中国にまたがる紅河(Red River)流域でも同様の傾向が確認されており、洪水リスクの増大は世界共通の課題であることが浮き彫りになりました。
データの乏しい地域でも活用できる洪水予測モデルへ
本研究の重要な成果の一つは、過去データが十分に整っていない中小の流域も含めて、世界の大小さまざまな河川に適用可能な予測基盤の構築を目指している点です。そのために、土地の被覆や地質などの要素を考慮した標準的なモデルパラメーター値を同定し、土地被覆や地質を反映した予測ができるようにしました。研究チームは、こうした土地の要素をモデルに反映させた予測を、九州地域における15流域・104観測地点で検証し、高いレベルの予測が得られることを確認しました。
その結果、本研究は日本の河川にとどまらず、世界の大小さまざまな河川で適用が可能なアプローチに発展しました。
これから起こる洪水に備える
河川流量の予測精度を高める本研究は、治水施設の設計やインフラ投資、ハザードマップの作成、企業の事業継続計画づくり、保険のリスク評価の向上につながるものです。また、豪雨・洪水発生時においても、予報・警報の発令や避難活動の高度化に貢献し得るものです。多様な洪水対策に関する意思決定を支える基盤としての活用が期待されます。
東京海上グループは社会課題の解決に資する研究を積極的に支援しています。社会の災害レジリエンスの向上はグループにとって重要かつ優先的に取り組むべき課題あり、それに資する研究支援をこれからも継続していきます。