ウミショウブから生まれる新ビジネス ~ Jブルークレジット認証の舞台裏
- サステナビリティ
陸上での植林やマングローブの保全がカーボンニュートラルの取り組みとして注目される一方で、海の中にも脱炭素に向けた大きな可能性が広がっています。
ウミショウブは、西表島と石垣島を北限として浅い海域に群生する海草で、環境省のレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に分類されている希少種。その背景には増加するアオウミガメがエサとして大量に食べてしまう食害の問題があり、このままでは生態系全体に深刻な影響が及ぶおそれがあります。
この状況を改善すべく、東京海上アセットマネジメントは沖縄に拠点を持つ企業などに協力を呼びかけ、ウミショウブの藻場再生プロジェクトを始動。ウミショウブによるCO2吸収の価値創出とビジネス化を支援し、2026年1月には、このプロジェクトを通じて吸収したCO2が「Jブルークレジット」*1に認証されました。
プロジェクトの内容と今後の展望について、東京海上アセットマネジメント株式会社 岡田将行と、沖縄セルラー電話株式会社 大城武史氏、上江洲安寿氏にお話を伺いました。
ウミショウブ保護の価値
藻場再生プロジェクトを統括する東京海上アセットマネジメントの岡田は、「アオウミガメの食害によりウミショウブが減少していると聞き、支援の相談を受けた」と取り組んだきっかけを話します。
そして、「藻場再生は、私たちが掲げる自然保護の方針と、CO2吸収による環境課題の解決の点で合致していたとともに、本業である資産運用や金融で培った知見を生かして、その取り組みを将来的に事業化できる可能性があると考えました」と話します。
ESGスペシャリスト 岡田 将行
藻場再生の方法とビジネス化の構想
一方で、プロジェクトの拡大を見据えて、沖縄に拠点を持つ企業にも参加を呼びかけます。
岡田は次のように話します。
「良き企業市民としてCSR観点の社会貢献を推進していくことは重要ですが、大きな取り組みにするためには、産官学民で連携する座組みが必要です。そこで、再生したウミショウブのCO2吸収量を可視化し、経済的価値として参加企業に帰属させる仕組みを考えました」
その呼びかけに応じた1社が、沖縄生まれの通信事業者である沖縄セルラー電話株式会社でした。
同社の上江洲氏は、プロジェクト参加の背景を次のように話します。
コーポレートバリュー創造部 チーフアドバイザー 上江洲 安寿氏
「これまでもサンゴの保全や植林などに取り組みましたが、成果が出るのに10年ほど時間がかかりました。一方、藻場再生は成果が現れるスピードが速く、地域と企業が一緒になって海洋資源の保護にチャレンジするストーリーにも魅力があります。当社は、生みの親であり育ての親でもある沖縄の発展を願い、「沖縄のカーボンニュートラルとネイチャーポジティブ」をマテリアリティ(重要課題)の一つとしています。このプロジェクトでは県内企業を牽引し、自然環境保全のムーブメントを県内全域へと広げたいと考えています」
コーポレートバリュー創造部長 兼 渉外・秘書室長 大城 武史氏
ストーリーとスピードが魅力
藻場再生の成果として、岡田は「スタートから1年ほどでウミショウブの一部が再生し、目に見える変化があった」と話します。その取り組みと成果が評価され、保護区域は環境省の「自然共生サイト」*2に沖縄県で初めて認定されました。
認定にあたっては、防護柵の設置に向けた取り組み内容をまとめた申請書類(区画図、活動計画、生物多様性概況など)を東京海上アセットマネジメントが準備。沖縄セルラー電話が沖縄県への同意確認を行いました。また、環境省への申請では有識者と委員会審査があり、2社の担当者が面談を受け認定されました。
Jブルークレジット認証と新たなビジネスの創出
その頃、ウミショウブのCO2吸収能力を踏まえ、Jブルークレジットの認証取得に向け動き始めました。Jブルークレジットは、藻場などブルーカーボン生態系を対象に、それらが吸収するCO2をクレジット化してオフセット取引などに使える仕組みです。
認証に向けた取り組みは、協力企業を募るための勉強会から始まりました。沖縄セルラー電話が県内企業に声をかけ、藻場再生プロジェクトの内容と成果を伝えるほか、東京海上アセットマネジメントの岡田を講師として、国内外の自然保護活動の潮流や、自然保護活動を通じたビジネス創出の可能性などをテーマとした勉強会を複数回にわたって開きました。
認証の準備について、大城氏は「手探り状態で始めた」と話します。
「ウミショウブはクレジット認証実績がなく、私たちもJブルークレジット創出の経験がありません。そこで、Jブルークレジットの管理運用を行う、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)と相談しながら、調査、モニタリング、申請へと進めました」
調査は、まずウミショウブ株の吸収量を把握するベースライン調査を実施。その上で、天候が安定した時期を狙って実際に海に入り、素潜りとドローンによって現存量把握のためのモニタリングを行いました。
藻場は年ごとの吸収量が大きく変動するため、継続的なモニタリングが必要です。そのため、担当者と申請者の人的、金銭的、時間的な負担がかかります。大城氏は「県内の他の自治体などからプロジェクトの始め方や進め方についての相談を受けるようになり、横展開の可能性が広がっています。今後は負担を減らしつつ実現できる手法を検討していきたいです」と話します。
最終的に、取り組みに共鳴した株式会社琉球銀行、県内で小売店や飲食店などを展開する株式会社サンエー、沖縄セルラー電話株式会社の3社で、2025年8月に申請を行い、2026年1月に認証*3に至りました。
各社の知見を統合する事業プラットフォームを構築
次のステップとして、沖縄セルラー電話が持つデータ通信技術や、東京海上アセットマネジメントの事業プラットフォームの構築ノウハウを活用した事業拡大を目指します。
また、東京海上グループの日本工営が開発したシステム「MobaDAS」*4を用い、現在・将来の藻場生育ポテンシャルを確認できるようにします。
さらにその先の展開として、上江洲氏は「藻場再生は、希少種の保護や生態系の回復効果が見込めるネイチャーポジティブの取り組みでもあるため、中長期ではその効果を可視化し生物多様性クレジット*5を活用する価値創出も視野に入れています」と話します。
岡田は、「産官学民の輪を広げ、それぞれが持つ知見や技術を持ち寄りながら、より多くの企業や地元の人たちが参加できる形とし、私たち民間企業が社会的価値のあるこの取り組みをビジネスとして成立させていくことを目指しています」と話します。
先行事例として全国へ
カーボンニュートラルの観点から、Jブルークレジット市場はさらなる拡大が見込まれ、生物多様性クレジット*5も2025年に環境省が「生物多様性の価値評価に関する検討会」を開催するなどルールの整備やパイロットプロジェクトが進んでいます。
沖縄で生まれた藻場再生の取り組みは、ネットワーク・テクノロジー・ファイナンスを結集することで全国へと広がり、自然再生の新たな潮流を生み出しています。ブルーカーボンの可能性を拓く挑戦は、これからも各地へ広がり続けます。
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※掲載内容は2025年12月取材時のものです。
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*1Jブルークレジット(R)は、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が運営主体であり、JBEから独立した第三者委員会による審査・意見を経て、JBEが認証・発行・管理する独自のクレジットです。
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*3認証に関するプレスリリース:https://okinawa-cellular.jp/common/uploads/0825.pdf
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*5生物多様性クレジット 出典:環境省「生物多様性の価値評価を巡る国内外の動向について」