電鉄会社と挑む、「第4種踏切事故」ゼロへの本気

  • 社会課題・高度化社会
2025年12月19日

日本には、4種類の踏切があることを知っていますか?皆さんがよく見かける自動遮断機があるのは「第1種踏切」と呼ばれるもので、日本全国に約3万あります。それに対し、警報機も遮断機もない踏切は「第4種踏切」と呼ばれ、日本全国に約2,400もあることをご存知でしょうか。通行者の判断に安全が委ねられており、10年間で57人(2024年1月時点)の方が命を落としています。

踏切道の種類
  • (出典)国土交通省「踏切道の現状」より弊社作成

千葉県は関東で1番、全国でも5番目に第4種踏切が多く、銚子市には4カ所存在します。人々の生活道路でありながら対策が困難で、その安全性は長年の課題とされてきました。しかし、警報機や遮断機の設置には少なくとも1,500万円から3,000万円の費用がかかり、地域住民の理解と協力も必要なため、簡単には解決できないのが現状です。危険であると認識しながらも、対策がすすんでいなかったこの社会課題に対して、銚子電気鉄道株式会社と東京海上日動火災保険株式会社が手を取り合い、「地域社会の安心・安全な街づくり」に挑戦しています。なぜ鉄道会社と保険会社が手を組んでこの課題に本気で向き合うのか。その背景にある想いと、連携によって生まれつつある具体的な解決策について、両社のキーパーソンである銚子電気鉄道の竹本社長と東京海上日動の井上陽平に、お話を伺いました。

プロフィール紹介

竹本 勝紀氏(写真右)
銚子電気鉄道株式会社 代表取締役社長。創業100年を超える老舗鉄道会社を牽引。経営者としての信念は「何もしないことが最大のリスク」であり、社員とともにユーモア溢れる独自のアイデアを次々と打ち出すスタイルで、地域交通の維持と地域活性化を同時に追求している。

井上 陽平(写真左)
東京海上日動火災保険株式会社 東関東損害サービス部。日々の事故対応を通じてお客様に「東京海上日動でよかった」と感じていただくことを第一としつつ、保険の枠を超えたソリューションで社会課題解決を目指す。

銚子電鉄(銚子電気鉄道)とは?
千葉県銚子市を走る私鉄ローカル線で、「銚電(ちょうでん)」の愛称で親しまれています。銚子電鉄路線は銚子駅から外川(とかわ)駅までの全長6.4kmで、所要時間は片道およそ20分。「ぬれ煎餅」や「まずい棒」などのユニークな商品販売や駅名命名権の販売、イベント列車、映画制作など鉄道会社の枠を超えた取り組みをしている。

今なお残る地域の危険に、抱いた使命感

東京海上日動 井上(以下、井上)

昨年、群馬県にある遮断機も警報機もない「第4種踏切」で、近くに住む小学生が列車にはねられて死亡した事故。あのニュースが、この課題を意識し始めたきっかけでした。

銚子電鉄 竹本氏(以下、竹本氏)

私もあのニュースは本当に衝撃的でした。

井上

最初にニュースを見て知ったときに、「全国的にどのような対策が取られているのだろう」と調べ始めました。具体的な対策が進んでいないうえに、私の住む千葉県にも数多くの第4種踏切が存在するという事実に衝撃をうけました。

私はこれまで保険会社の事故対応担当として、多くの事故現場に立ち会い、その悲劇を目の当たりにしてきた経験があります。だからこそ、「誰かが動かなければ悲劇は繰り返される」という半ば使命感のような感情を抱き、この「第4種踏切の課題」に取り組むことを決意しました。

竹本氏

弊社の路線にも4カ所の第4種踏切があり、特に交通量が比較的多い場所や、第1種踏切と隣接する場所もあります。地元の方は慣れているかもしれませんが、観光客や海外の方が危険に気づかない可能性も懸念していました。特に子どもや、目や耳の不自由な方といった交通弱者にとっては、極めて危険な存在となり得ます。人々の命と安全を確保する手段を講じることが喫緊の課題だと感じていました。

抜本的な対策が進まない理由

竹本氏

第4種踏切の安全対策は、本当に一筋縄ではいきません。警報機や遮断機の設置には、莫大な費用がかかります。国の補助金も第4種踏切は対象外となることが多く、地方のローカル鉄道にとっては、この費用を捻出することは極めて困難です。

井上

世間では「第1種踏切への変更か踏切廃止か」という二者択一のように語られがちですが、竹本社長がおっしゃる通り、どちらも多大な時間と費用、そして住民との調整を要するため、簡単には実現できないのが現実ですよね。

竹本氏

そうなのです。踏切そのものを廃止しようとすると、「不便になる」「遠回りしなければならない」といった住民の声が大きく、合意形成が非常に難しい状況にあります。地域住民にとっては「生活道」の一部であり、簡単になくすことはできません。

井上

最初にお話しした昨年の群馬県の事故の後でさえ、第1種化には少なくとも5年はかかると言われています。その間にも悲劇が繰り返される可能性があることを考えると、従来の枠に囚われない新たなアプローチが不可欠だと感じました。

「銚子モデル」の始まり

井上

私は千葉県内に全国有数の第4種踏切が存在していることに着目し、第4種踏切がある鉄道会社と一緒に課題解決に取り組みたいと考えていました。実際に千葉県内の50件以上の第4種踏切に足を運び、現地の状況を確認しました。その中でも、銚子電鉄さんの踏切は人通りが多様であり、特に安全対策が必要性を感じました。

竹本氏

それで、弊社を訪れてくださったのですよね。井上さんの熱意と行動力には大変驚きました。私たちは、以前から第4種踏切の危険性を認識し、安全対策の必要性を感じていましたが、資金的な限界からなかなか具体的な行動に移せずにいました。井上さんと初めてお話しした際、私たちが考えていることと全く同じ課題意識を持ってくださっていることに感動しました。特に印象的だったのは、井上さんが「私たちは、社会課題解決を最優先でやりたい」とおっしゃってくれたことです。私たちの財政状況を理解した上で、それでも「第4種踏切の課題解決を一緒にやりましょう」と言ってくださったことに、非常に心強さを感じました。

多角的な専門性を結集する「One Team」

始めに取り組んだのは、子どもたちへの安全教育

井上

銚子電鉄さんとの連携が決まってから、この課題を解決するための体制づくりを広げるイメージが湧きました。具体的には、銚子市、千葉科学大学、地元の小学校、そして独立行政法人などに直接、この取り組みへの参加を呼びかけました。皆さんが共通して「この課題を何とかしたい」という強い思いを持っており、地域社会全体が一丸となって取り組む「One Team」として動き始めています。

産・学・官連携の概念図
井上

まず具体的な取り組みの第一歩として、地元の小学校での「出張授業」と「安全マップ作り」を提案しました。実際に、7月に「出張授業」を実施し、子どもたちに第4種踏切の危険性をわかりやすく説明しました。事故対応を通じて培ってきた専門性と膨大な事故データや過去の事故事例を活用し、より具体的な授業となるよう意識しました。

竹本氏

子どもたちへの安全教育は、地域社会の未来を考えた上で非常に重要だと感じています。今回の出前授業を通じて、子どもたちはもちろん、学校の先生方にも大人から見える視界と子どもから見える視界の違いなど、第4種踏切の危険性への新たな気づきがあったようです。

出前授業の様子
井上

また、私たちは従来の警報機や遮断機に代わる「第3の選択肢」も模索しています。今回の社会課題の解決策を模索する中で、独立行政法人が低コストで設置可能な安全向上支援装置を開発していることを知り、この取り組みへの参画を依頼しました。この装置はGPSやWi-Fiといった汎用技術を活用し、列車の接近を通行者に知らせるとともに、列車の運転士には支援装置の稼働状況を通知する仕組みです。1台あたりのコストも抑えられる点が大きな魅力です。現在、この装置の実証実験に向けての意見交換会も実施していて、トライアル導入を検討しているのです。

竹本氏

その話を聞いたときは、本当に「これだ!」と思いました。莫大な費用がかかる第1種化が難しい中で、安価でかつ安全性が高まる可能性があるというのは、まさに私たちのようなローカル鉄道にとっては朗報です。

安全向上支援装置のイメージ

保険会社が描く、新たな展望

井上

当社は保険の提供を通じて社会課題の解決に貢献することを目指しています。現状の保険ではカバーしきれないリスクに対し、線路や踏切への立ち入りに起因する事故に特化した専用の保険を個別組成できないかと考えています。例えば、事故発生時の従業員の追加人件費や代替輸送費用、車両や線路の清掃費用などを補償対象とすることで、鉄道会社の損失を軽減し、早期復旧を支援できるのではないかと考えています。

竹本氏

それは私たちローカル鉄道にとって、まさに画期的な提案だと感じています。

井上

また、資産運用(投融資)も保険と並ぶ当社の事業活動であり、ファイナンス面での支援の検討も始めています。今回のように踏切問題の解決には高額の費用がかかることが多く、それが解決の足かせとなっています。こうしたお悩みへの支援が実現すれば、銚子電鉄さんのような社会課題に向き合う企業の助けとなり、地方創生につながると思っています。

竹本氏

それは私たちにとって、本当にありがたいです。

地域と社会の未来は、全国へ

竹本氏

鉄道は、その地域にとって単なる交通手段以上の「シンボル」だと考えています。地域が衰退すれば鉄道もダメになり、鉄道が衰退すれば地域も活力を失う、まさに表裏一体の存在です。そのシンボルである鉄道で事故が起きることは、地域にとって負のインパクトが大きすぎます。だからこそ、安全の確保は地域に活力を与える上で極めて重要なことだと認識しています。

井上

まずは、この第4種踏切の課題があるという事実、そして事故が起こる可能性を、千葉県から関東、そして全国に知ってもらいたいと考えています。事故は、誰にでも起こり得るという危機意識を共有することから、課題解決は始まります。

竹本氏

井上さんが先頭に立って、多様な関係者との体制を構築してくれたことで、今まで不可能だと思われていたことが現実味を帯びてきました。

井上

私たち保険会社は、前に立つ存在ではありません。しかし、保険のプロフェッショナルとして、企業や地域を支え、未来を見越した様々な提案をし、異なる分野の知見を持つ関係者をつなぐ「ハブ」となることはできます。保険はあらゆるリスクと社会の営みに繋がっているからこそ、このような役割を果たすことができると信じています。

竹本氏

今回、最初に我々銚子電鉄を選んでくださり、取り組みを始めることができた。この「銚子モデル」が、他のローカル鉄道にとっても希望の光となることを願っています。

井上

今回の「銚子モデル」を成功事例として、千葉県内の他のローカル鉄道、さらには全国の同様の課題を抱える地域へと展開していきたいと思っています。私たちがこのプロジェクトを通じて得た経験とノウハウは、他でも応用できるはずです。私たちは、社会課題解決と事業活動の循環を通じて、持続可能な社会づくりに貢献する存在でありたいと強く願っています。

「第4種踏切事故ゼロ」は、制度や企業だけでなく、私たち一人ひとりの意識にも関わる課題です。危険を知り、声を上げ、地域の安全に関心を持つことが、社会を変える第一歩です。
銚子電鉄と東京海上日動の挑戦は、地方から始まった小さな一歩かもしれません。しかしその一歩が、全国の地域に希望を灯し、「命を守る仕組み」が各地でできることを願っています。

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