もし首都圏で大規模な水害が起きたら?【後編】~固有の課題を理解し、安全に避難するためには
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※この記事は東京海上研究所が発行する「SENSOR」を転載したものです。
前編では主に、首都圏大規模水害時の避難行動の課題をご説明しました。浸水の特性と膨大な人口によって、一般的な水害の避難行動とは異なる課題が山積していることをご理解頂けたと思います。
後編ではこれを踏まえて、首都圏大規模水害に備えた平時の準備と、水害発生が迫った時にとるべき行動をご説明したあと、企業ができることについても触れます。
1. 避難についての基本的な考え方「分散避難」
首都圏大規模水害時の避難行動については行政で検討が重ねられてきており、現在では「分散避難」という考え方が基本方針となっています。分散避難の考え方はやや複雑ですが、各住民の水害リスクに応じて避難先を決定し、自宅外に避難する場合は自分で避難先を確保するというのが基本的な考え方です。なお、自力での避難が難しい住民については少し異なりますが、今回は自力で避難が可能な住民を前提にご説明します。
2. 避難場所をどのように決定すればよいのか
図-1は、2023年に東京都が江東5区の一部地域の住民に送付した「我が家の水害リスク診断書」のサンプルです。自分の避難先を決定するには、まず自宅の水害リスクを確認します。ポイントは浸水の深さ、浸水継続期間です。浸水が深い場合は自宅外への避難が必要になります。浸水継続期間が長く、前編でお示しした過酷な避難生活に耐えられそうにない場合も、自宅外への避難が必要になります。また、河川の近くなど、氾濫が発生した場合に危険な地域もやはり自宅外への避難が必要になります。そして、自宅外への避難が必要な住民は、広域避難であっても江東5区内の避難であっても、行政が用意する避難所ではなく、自分で避難場所を確保する必要があります。具体的には、浸水しない場所にある、親戚宅、友人宅、ホテル、勤務先等です。
このように、首都圏大規模水害の避難行動は、住民単位で異なります。どこに避難するのが自分にとって最良かを、自分で考える必要があるのです。
3. 水害の危険が迫ってきたときにはどうすればよいか
図-2は首都圏で大規模な水害が発生する可能性が生じた場合に適用される「広域避難タイムライン」です。気圧・風速、降雨量等の予測や自治体の発議をもとに適用されることになっています。
これによれば、避難に時間のかかる広域避難の場合は、遅くとも、氾濫が予想される24時間前に「広域避難を促す情報」発表されたら避難を開始する必要があります。ただし、広域避難者が一斉に避難を開始すると、混雑でスムーズに避難できない可能性がありますし、公共交通機関が計画運休を行う可能性もあります。このため、72時間前に「広域避難の検討開始」が発表されたら、情報収集をこまめに行い、余裕をもって避難を開始する必要があります。江東5区内や居住区内での避難の場合でも、混雑を想定しておく必要があります。
4. 企業は何ができるか
首都圏大規模水害の避難行動は、浸水域の住民個人のみが対処すべき問題なのでしょうか。決してそうではなく、企業にもできることがあります。まず、首都圏で大規模な水害が予想される場合、浸水域が従業員の通勤圏に含まれる企業は、従業員の出勤を抑制するのが望ましいと考えられます。これは、自社の従業員の安全を守るためだけでなく、浸水域の住民が避難する際の混雑を軽減することにつながります。内閣府のワーキンググループの報告*1では、過去の調査で、台風接近時に個人的予定を取りやめた人が約8割なのに対し、出勤または勤務先からの帰宅を取りやめた人は5割強に留まっていたことから、職場が率先して外出の抑制に取り組む必要があるとしています。
また、前編でお伝えした通り、広域避難者の収容施設が圧倒的に不足しています。そこで、東京都や広域避難者が避難する自治体は、民間企業が所有する施設を利用できるよう、協定を結ぼうとしています。このような取り組みに協力することも、企業のできることのひとつです。
5. 最後に
今回のポイントは、(1)浸水域の住民は自宅の水害リスクを調べた上で避難先を決定し、立退き避難の場合は自分で避難先を確保する(2)「広域避難タイムライン」が適用されたら情報収集をはじめ、混雑する前に避難を開始する(3)企業は従業員の出勤を抑制したり、自社施設を避難場所として提供することで避難する住民に貢献できる、の3点です。首都圏大規模水害の避難行動の特殊性をまずは理解した上で、平時から準備することが必要です。
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*1中央防災会議 防災対策実行会議 令和元年台風19号等による災害からの避難に関するワーキンググループ:令和元年台風19号等を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について(報告),2020.