安心・安全とエコの同時実現! 通信型ドライブレコーダー「DAP」とJ-クレジットを活用したGXの取り組み

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2025年5月22日

モビリティが多様化する現代において、事故の削減やCO2排出量の抑制は、持続可能な社会の実現に向けた重要なテーマです。東京海上日動火災保険株式会社では、こうした社会課題の解決に向け、通信機能付きドライブレコーダー「ドライブエージェント パーソナル(DAP)」の提供を通じて、高度な事故対応や安全運転支援、J-クレジット活用によるエコドライブの推進に取り組んでいます。

本インタビューでは、DAPの商品開発担当である東京海上日動 個人商品業務部 自動車グループの早川徹に詳しく話を聞きました。

1秒でも早く適切な措置を取れるオペレーションを実現する通信機能付きドライブレコーダー「DAP」

東京海上日動 個人商品業務部 自動車グループ 早川徹

DAPは、通信機能付きのドライブレコーダーを活用した個人向けテレマティクスサービスです。法人向けと併せて、契約台数は100万台を超えており、これまでに日本国内で40,000件以上の事故対応実績、5,000件以上の緊急通報対応実績があります。

所定の特約を付帯した自動車保険のお客様に、専用の通信型ドライブレコーダーを貸与し、単なる映像記録のみならず、事故時の緊急通報サービスや安全運転支援など、さまざまなサービスを提供しています。特に事故直後の緊急性の高い状況では、お客様に寄り添った迅速な緊急通報サービスの提供により多くのお客様をお守りしてきました。
DAPの緊急通報サービスの特徴は、手厚い受電体制とデータのフル活用により、事故発生時に1秒でも早く適切な措置を取れるオペレーションです。「常に、直接お客様とやり取りを行うオペレーターと、救急要請を行う担当者の2名体制で事案にあたり、その裏で管理者がサポートする、万全の体制を整えています。特に事故直後の1分1秒を争うタイミングでは、このこだわりが極めて重要な役割を果たします」と早川は語ります。

DAPは、搭載するGセンサー(加速度検知センサー)で事故と思われる大きな衝撃を検知すると、即座に自動で事故受付センターに電話を繋ぎます。大きな怪我などによりご自身で救助を求められない状態のお客様もお助けすることが可能です。また、衝撃検知と同時に、事故映像とGPSデータを事故受付センターに送信し、連携します。これにより、オペレーターが事故の詳細な状況や事故の発生場所を把握でき、正確かつ迅速に救急要請ができる仕組みとなっています。
「また、事故発生時には救急要請以外にも、警察への連絡*2、レッカーの手配、さらには保険の事故受付まで、それぞれの担当にデータを自動連携しワンストップでサポートします。この一連の対応をシームレスに行うことで、事故解決にかかる時間は短縮しており、お客様からの感謝の言葉も多数頂戴しています」と、その成果を語ります。

また、環境保護の観点からも、画期的な取り組みを推進しています。その一例が、J-クレジット制度への登録です。この制度は国が運営する仕組みで、省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用などにより削減・吸収されたCO2の量を「クレジット」として認証するものです。このクレジットを売却して得られた金銭で投資費用を回収したり、積極的な活動をPRしたりする事で、環境に優しい取り組みを行う事業者は経済的・社会的なメリットを得ることができます。
DAPをご契約いただいたお客様では、急ブレーキなどの急操作の発生頻度が減少し、安全運転とともにエコドライブの促進が確認されています。実際にデータを分析した結果、燃費の改善効果が見られました。この効果について、J-クレジット事務局に申請したところ、エコドライブ支援システムの活用による CO2 削減プロジェクトとして国内で初めてJ-クレジット制度にご登録いただくことができました。
当社がお客様のエコドライブによるCO2削減量を取りまとめてカーボンクレジットを発行し、その売却益を電子クーポンとして100%お客様に還元することで、さらなるエコドライブの推進につながる好循環を生み出していきます。

自動車保険のお客様のエコドライブによる CO2 削減プロジェクト スキーム全体像*3

今回の取り組みは、「保険会社以外も含めて、同様の認定を受けている例はない先進的な取り組みで、多くの問い合わせをいただいている状況です」と強調します。
「J-クレジット制度の登録には、約2年の歳月をかけて準備を進めました。J-クレジット事務局による審査では、仕組み全体のフィージビリティやCO2排出削減量の統計的な妥当性を明確に説明できる必要があります。細部まで仕組みの論点を整理し、外部事業者と密に連携してデータ分析と検証を重ね、粘り強く取り組んだ結果、なんとか登録いただくことができて現在に至ります」と、早川は当時の苦労を振り返ります。
データ分析は外部事業者とも連携し、ビッグデータ処理に付きまとう煩雑な抽出・加工処理、外れ値の処理やさまざまなノイズの除去など、特有の課題に対応しました。「この取り組みは日本初の試みだったため、実際にCO2排出効果を統計的に証明できるか、法的な問題がないか、お客様の同意が得られるか、コスト対効果は十分か、サービスとして継続的に提供できるかなど、あらゆる観点から慎重に検証を進める必要がありました」と語ります。

環境にやさしい運転を増やすために。「クーポンチャレンジ」に込めた想い

DAPで着目しているエコドライブには、3つの要素があります。
1つ目は、「ふんわりアクセル」と呼ばれる、ゆっくりと発進する運転方法。急発進を避けることで、約8.7%*4の燃費削減効果が期待できます。2つ目は、「加減速の少ない運転」。十分な車間距離を保ち、速度変化を抑えることで燃費を改善できます。3つ目は、停止時の「アクセルオフ」。早めにアクセルを離し、エンジンブレーキを活用しながら停止することで、燃料消費を抑えられます。
「こうした運転方法は、単に燃費向上に貢献するだけでなく、安全運転にもつながります。DAPのデータ分析により、急操作頻度と事故発生率には相関があることが判明しました」と続けます。

これらの知見を生かし、2022年12月にクーポンチャレンジというサービスを開始しました。当初は安全運転診断に基づくクーポン付与からスタートし、2023年12月にはエコドライブの要素を追加。専用のスマートフォンアプリを通じて、お客様の運転状況を評価し、好成績の方に電子クーポンをご提供するリワードプログラムです。
運転評価は週単位で行われ、高得点を獲得すると抽選に参加でき、当選すると最大200円分のコンビニエンスストアで使える電子クーポンを獲得できます。「エコドライブの実践度合いに応じてアプリ上の表示が変化し、背景が徐々に豊かな環境へと変わっていく視覚的な演出も取り入れました。ゲーム感覚でエコドライブを楽しんでもらえるよう、さまざまな工夫を施しています」と早川は語ります。
ドライブレコーダーに搭載されたGセンサーやGPSのデータを活用して、運転状況を測定・分析。エコドライブの評価では、運転状況を加速・定速走行・減速という3つの区分に分類してその滑らかさを計測し、点数化しています。これらのデータはドライブレコーダーに搭載した通信機能でクラウドに送信され、アプリ上で運転評価としてフィードバックされる仕組みです。

「学生時代に環境学を専攻し、GXに関心を持っていたことが、この取り組みの大きなきっかけでした」と早川は語ります。
「大学院で研究を続けるか就職するか悩んだとき、環境保護の取り組みは経済性が前提になければ大成しないと考え、研究を諦めて就職を決めました。DAPを活用したGXの取り組み余地について議論され始めた頃、学生時代に抱いていた環境保護の取組に対する想いが再び強くなり、担当として取り組みたいと自ら手をあげました。そこから、J—クレジットを活用した、クーポンチャレンジでのエコドライブ支援サービスの実現に向けて本格的な動きがスタートします。
この企画を実現するにあたっては、法令や技術的制約といった複雑に絡み合う論点を全て整理し、クリアしていく必要がありました。長年にわたりDAPの研究開発に携わってきた経験があったからこそ、課題を解決しながら着実に進めることができました。

加えて、300時間を超える社内データサイエンティスト養成講座で培ったデータ分析のノウハウも大いに役立ったと感じています」と、当時の状況を振り返ります。

安心・安全と環境保護の同時実現へ‐「DAP」の普及により実現する持続可能な未来

統計処理の結果、DAPを導入したお客様で約3.85%*5のCO2排出量削減効果が確認されています。「この取り組みにより現在の契約数ベースで年間約1万トンのCO2排出量削減を見込んでいます。より多くの方にDAPの魅力をお伝えし、さらに大きな効果を発揮できるよう取り組んでいきたいです」と強調しました。
エコドライブは環境保護だけでなく、安全運転の促進にも寄与しています。また一番の特徴である緊急通報サービスの提供でも安心・安全の実現に貢献しており、実際に事故に遭われたお客様からは高い評価をいただいています。
「DAPがお客様をお守りできた印象的な事例があります」と早川は続けます。
山間部を走行中のお客様が、落としたスマートフォンを拾おうとしてハンドル操作を誤り、車両が崖から転落してしまいました。「DAPが即座に事故を検知し、すぐにコールセンターに連絡。コールセンターからの迅速な救助要請によって、幸い大事に至らずに済みました。そのお客様からは『DAPを利用していたことで本当に救われました。DAPが付いていない車だと怖いと感じる。すでに何人にもおすすめしている、命の恩人です』という感謝の言葉を頂戴しました」と振り返ります。
DAPはIoT機器としての特性を生かし、ソフトウェアのアップデートによる機能強化も計画中です。カーボンニュートラルや脱炭素社会への移行に向けて、環境への取り組みをより一層推進していく方針です。
「DAPという1つのサービスを通じて、交通安全と環境保護という2つの社会課題の解決に貢献できます。今後もより多くのお客様にこの価値を実感していただきながら、クーポンチャレンジを通じて、エコドライブの輪を広げていきたいです」と早川は意欲を見せました。
また、DAPによる安心・安全の推進についても、収集したビッグデータやAIを活用してさらなる研究開発を進めていく方針です。

「事故は誰にとっても身近な社会問題。巻き込まれるケースもあり、車を運転しない人にとっても決して他人事ではありません。DAPというIoTサービスの提供を通じてビッグデータが集まっているうえ、最近はAIの技術もめまぐるしく発展しています。これらをフル活用してさらなる研究開発を進めることで、事故の削減と環境に優しい運転の促進を同時に達成し、持続可能な社会の実現に貢献していきたいです」と最後に力強く語りました。

  • 掲載内容は2025年2月取材時のものです。
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