巨大地震発生時の物資不足をイメージできますか?あなたと家族のために、家庭内備蓄を考える

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2025年3月11日
  • この記事は東京海上研究所が発行する「SENSOR」を転載した記事です。

日本では、南海トラフ地震・首都直下地震などの巨大地震発生の危険性が高まっていますが、その一方で、巨大地震に備えた家庭内備蓄状況は不十分な実態にあります。この備蓄が進まない要因の一つとして、住民が巨大地震発生時の状況をイメージできていない可能性があります。

本稿では、首都直下地震を念頭に、家庭内備蓄状況が不十分であるとともに、地震発生の際に想定される物資不足についてご紹介します。

巨大地震はいつ発生してもおかしくない

日本は地震大国です。近年、阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震、そして本年の能登半島地震など巨大地震が複数発生しているほか、今後も発生が想定されています。その主なものとして、首都直下地震についてM(マグニチュード)7クラスの発生確率は今後30年間で70%、南海トラフ地震についてはM8~9クラスの発生確率は今後30年間で80%程度とされています*1

家庭内の備蓄状況は不十分である

地震は正確に予知することや防止することはできませんが、事前の備えを講じることで、被害を大きく減少させることができます。そして、各家庭における備えの基本の一つは食料・飲料水をはじめとする日常備蓄品の備蓄となります(備蓄にはローリングストック*2によるものを含みます)。特に、都市部では人口が密集し、災害発生時に避難所に被災者が溢れるおそれがあるほか、救援物資も到着するのに時間がかかる可能性があることから、備蓄の重要性は一層高くなっています。政府・各自治体も各家庭に対して備蓄を求めており、例えば東京都は都民に対し、在宅避難に向けた食品や生活用品を備える日常備蓄として、最低3日間分、推奨1週間分の備蓄を求めています*3

ところが、巨大地震災害に備えた日常備蓄品の備蓄状況を見ると、現状は不十分と言わざるを得ません。高層マンションが立ち並ぶ都市部の備蓄実態を把握するため、当研究所が2024年1月に東京23区および神奈川県横浜市みなとみらい地区にお住まいの2,004名を対象にアンケートを実施したところ、家庭内備蓄について不十分な実態が確認されました。このままでは、巨大地震が発生した際、避難所に被災者が殺到し、備蓄品がすぐに底をつくおそれがあります。

備蓄実態について、確認された主なポイントは以下の2点です。

(1)日常備蓄品の備蓄状況は政府・自治体が期待するレベルに至っていない

図表1は家庭における食料品の備蓄状況を尋ねたものです。東京都が最低限とする3日間分以上の備蓄割合は約50%に過ぎず、全く備蓄ができていない層も約30%存在しています。

図表1 (アンケート結果)家庭における食料品の備蓄状況
備蓄していない 32.6%、1~2日分 19.2%、3~6日分 34.5%、7日分以上 13.7%

(2)巨大地震が発生した際、避難所の収容人員を超えて被災者が集まる可能性が高い

図表2は巨大地震発生時の避難予定場所を尋ねたものです。家庭内備蓄が不十分なこともあり、巨大地震発生時に避難所への避難を予定している割合は約45%に達しています。これは、東京23区における避難所の人口カバー率(住民数に占める避難所の想定収容人員数の割合)23%*4を大幅に超過しています。

図表2 (アンケート結果)巨大地震発生時の避難予定場所
避難所に避難し、そこに寝泊まりする 23.8%、いったん避難所に避難するが、そこに寝泊まりすることはしない 20.9%、避難所には避難しないが、救援物資など必要なときに避難所に行く 31.2%、避難所には避難しない(在宅避難等) 24.1%

首都直下地震が発生したら、どのような状況になるのか

上記2.にて、災害時に備えた家庭内の備蓄状況は不十分であることをご説明しました。忙しい毎日の生活を送る中、巨大地震の危険性を「我がこと」と捉え、備蓄にまで意識を向けることは難しいかもしれません。そこで、視点を少し変えて、巨大地震が発生した際の被害状況をイメージしてみてはいかがでしょうか。巨大地震が発生した際、果たして私たちはどのような状況に置かれるのでしょうか。

この巨大地震が発生した際の被害状況について、東京都が令和4年5月に見直した首都直下地震等による被害想定*5において具体的に示されています。

生活に欠かすことのできないライフラインについて、例えば上水道の断水率は被害が最大のケースで図表3のとおりとなり、復旧は約17日後と想定されています。その他のライフラインについても、その復旧まで電力で4日後、ガス(低圧ガス)で約6週間後とされています。さらに、被害想定手法の制約により「被害が大幅に増加し、復旧期間が長期化する可能性がある」と記載されており、復旧するまでさらに期間を要するおそれもあります。

図表3 上水道の想定断水率(都心南部直下地震発生のケース)
最も被害が大きい地域は赤色部分で断水率40%以上を示す
出典:「首都直下地震等による東京の被害想定報告書」

また、この被害想定ではライフライン以外にも、建物被害、避難者や物資面の状況についても具体的に記載されています。このうち、今回取り上げた日常備蓄品に関係する物資面では、ライフラインの停止や人々のまとめ買い行動により、以下のような物資不足に直面すると想定されています。まさに、首都直下地震が発生してからでは遅いのです。

  • 区部のみならず、都心南部直下地震では比較的揺れが小さい多摩地域においても、必要以上のまとめ買いなどにより、スーパーやコンビニエンスストアで飲食料や生活必需品、防災用品等が数時間で売り切れ、住民が物資を確保することは当面困難となる。
  • 停電によりエレベーターが停止した場合、タワーマンションなどの中高層階では、地上との往復が困難となるため、十分な家庭内備蓄を行っていない場合、必要な飲食料等の生活必需品の確保ができず、自宅に留まることが難しくなる。
  • 道路被害や渋滞、輸送に係るマンパワーや車両の燃料不足等により、避難所等へ必要なタイミングで必要な量の物資を供給することが困難となる。
  • 「首都直下地震等による東京の被害想定報告書」第5章5.35.3(生活への影響-物資)から一部抜粋

同様に、避難所においても物資が早期に枯渇する可能性が指摘されています。

  • スーパーやコンビニ等の生活必需品はすぐに品切れとなるため、自宅の被害が少なく留まることができる住民や避難所外避難者、帰宅困難者等も、避難所へ飲食料を取りに訪れるため、避難所の物資が早期に枯渇する場合がある。
  • 「首都直下地震等による東京の被害想定報告書」第5章5.15.1(生活への影響-避難者)から一部抜粋

さて、ここでちょっと想像してみてください。もし、家庭内備蓄ができていない中で首都直下地震が発生し、上記の状況に当事者として遭遇したらどうしますか。少し「ぞっと」された方や、ご家族の顔が浮かんだ方もいらっしゃるかもしれません。誰もが大切な家族が苦しむのを見たくないはずです。

巨大地震はいつか必ず起こります。巨大地震の危険性を「我がこと」と捉え、ご自身の中で備蓄の優先順位を上げて、いざというときのための準備をしませんか。

終わりに

近い将来に想定される首都直下地震や南海トラフ地震などの巨大地震への備えとして、家庭内備蓄が重要であることをご説明しました。巨大地震が発生した際に、パニックにならず冷静に行動できるよう、そしてあなたとご家族が苦しむことのないよう、その対策の必要性をご認識いただくとともに、実際の備えに繋げていただければと思います。

執筆者コメント

日本は地震大国であり、今後も首都直下地震や南海トラフ地震の発生が想定されています。これらの巨大地震に備えて、日常備蓄品を備蓄しておくことの重要性は多くの方が認識されていますが、その一方で家庭内備蓄は不十分な実態にあります。この要因として、人々が巨大地震発生時の状況をイメージできていないために、「何かあったら避難所に行けばよい」と考え、備蓄の優先順位が低くなっている可能性があります。本稿では、首都直下地震を例にとり、物資不足がもたらす困難な状況を避難所も含めてリアルに提示することで、大切な家族を守るための備蓄行動につなげていただく一助となるよう執筆いたしました。大切な家族を守るために、家庭内備蓄の重要性を再認識し、実際の行動に移していただければ幸いです。

東京海上研究所 主席研究員 柳敬治

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