M&A成功のカギ:多様な人材の育成

  • 企業・リーダーシップ
2025年1月24日

企業の合併・買収(M&A)は東京海上グループの重要な事業戦略ですが、M&Aの成功には単なる財務結果のみならず多く要素が関わります。

東京海上グループのチーフダイバーシティ・エクイティ・インクルージョンオフィサー(CDIO)であるCaryn Angelsonは、M&Aを評価する際には、財務実績と事業の持続可能性が最も重要であり、長期的な成功を収めるためには、双方の企業が多様な考えに対してトップレベルでコミットメントを共有し、あらゆる多様な才能を活かすことが極めて重要であるという理解が必要と考えます。

東京海上ホールディングス 執行役員 グループダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン総括
Caryn Angelson

保険業界のM&A市場はここ数年低迷していましたが、最近はその動きが活発化しています。2024年第2四半期における世界の保険市場のM&A取引額は280億ドルに達し、前年同期比で35%増加しました。この急成長の背景には、保険会社やブローカーが、これまでゼロから構築する必要があった特定の分野への参入を強化していることがあります。

とはいえ、すべての買収案件が必ず成功するわけではありません。

成功するためには買収先企業の一般社員から経営幹部に至るまで、幅広い人材を効果的に維持・活用することが重要です。買収後もただ買収元企業に統合させようとするだけではなく、慎重かつ計画的なアプローチを取ることが必要です。

東京海上グループは世界45の国と地域で44,000人以上の従業員を抱える国際的な企業であり、ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包括性)(DE&I)も重視したM&A戦略を掲げています。また、グループ全体で有機的な成長機会も追求し、お客様のニーズに寄り添った対応を進めることで国際的な存在感を高めてきました。過去20年間にはKiln(キルン)社、HCC社、Delphi(デルファイ)グループなどの大規模な買収を成功させ、多岐にわたる文化、経験、働き方を認める姿勢はM&A業界でのリーダーシップを発揮する基盤となっています。

M&Aを通じて、当社はお客様にグループに内在する専門的な知識・スキルを提供し、国境を越えた課題に対する効果的な支援が可能になりました。買収案件は明確な目的を持ち、慎重に進める必要があり、買収後も従業員が自らの意思で主体的に行動し、職務に全力を尽くせるような職場環境を整えることが重要です。こうしたことを重視してきたことで、M&Aにおいて当社が成功を収めてきました。

被買収企業の文化と東京海上の価値観を融合させることは、当社の成長戦略において非常に重要な要素ですが、その過程では、さまざまな問題が生じる可能性があります。従業員が持てる能力を最大限に発揮できるようサポートすることは、新しく加わった事業会社の長期的な成功に欠かせませんし、そのためには全ての関係者が協力して取り組むことが必要です。もし人材の処遇や優先順位を間違えてしまうと、新たな取り組みに多大な貢献が期待できるチームメンバーを失うことにもなりかねません。M&Aを成功させるためには多様性、公平性、包括性(DE&I)を重視し、これに十分な労力と配慮を注ぐことが重要なのです。

東京海上グループの進め方

東京海上グループでは、グローバルな人材活用を推進するための統合的な経営チームを設置し、人材の確保と従業員のエンパワーメント(自律的活動の推進)の両方を重視した取り組みを進めています。特に重要なことは当社における「DE&I」が、単に公平な処遇を推進することに留まらない点です。東京海上グループでは、DE&Iの核心は思考の多様性を促進することにあります。即ちM&Aにおいて、特定のグループが他のグループより優遇されるような階層的な構造は採用せず、意思決定のプロセスにおいてさまざまな声や視点、意見に耳を傾け、それを積極的に取り入れることを重視しています。

さまざまな従業員の意見を無視して、特定のグループだけが一方的に戦略を実行しても、買収を成功に導くことはできないということです。

当社の強固な「DE&I」戦略は、買収前からスタートします。まず財務状況やビジネスモデルの持続可能性を評価し、対象企業の価値観が当社と似ているかどうかを見定めます。もし対象企業に価値観の変革を強制すれば、従業員の不満が生まれ、事業が中断する恐れがあります。そのためM&Aのプロセスでは、共通するコアバリューに焦点を当てることが重要です。これにより被買収企業は、自分たちの判断が新しいグループの価値観と一致していると感じ、安心して事業を進めることができるのです。

「DE&I」に対する双方向のアプローチ

自律性を与えることは、時に新たな課題を引き起こす可能性があります。特に買収後において、買収側企業と被買収企業における「DE&I」に対する取り組みの進捗が異なる場合に問題が生じやすいです。当社ではトップダウンとボトムアップ両方のアプローチを用い、組織全体で理解を深めながらこの課題に取り組んでいます。例えば筆者の役割は、すべての従業員がインクルーシブな行動を実践し、アライシップ(マイノリティや弱者を支援・擁護する)文化を醸成し、障壁を取り除くことで協力して働く文化を推進することで、このミッションを迅速に達成できるよう奨励することです。

筆者が当社の目標達成に向けて主導している取り組みの一つは、定期的なコラボレーション・セッションの企画と進行です。このセッションでは様々な地域や文化の「DE&I」に関わる実践者が集まり、ベストプラクティスを共有し、経営幹部に提案すべき課題を洗い出すことを目的としています。

また当社では、役員と従業員の間で意見を共有できるよう、組織を横断した対話を積極的に促進しています。

必要に応じて経営幹部と共に教育セッションを開催し、「DE&I」に関連するテーマを深掘りして議論しています。この中で、経営幹部はインクルーシブなリーダーシップのあり方やアライシップの実践方法、さらに買収側と被買収側の従業員双方に心理的安心感をもたらす方法について、率直かつ真剣に議論に取り組んでいます。

買収後のプロセスにおいて「DE&I」に向かう道筋を一致させることは簡単ではありませんが非常に重要な要素です。経営幹部が新しい企業文化をトップダウンで押しつけ、全従業員が無条件に従うことを期待することは適切ではありません。東京海上グループでは「DE&I」を企業文化の中核として位置付け、従業員一人ひとりが自主的に行動し、同僚や顧客のために全力で仕事ができるようサポートしています。また、保険業界が変化を好まない、という一般的な見方に対しても、当社は異なる立場を取り、多様でユニークな経歴を持つ幅広い人材を積極的に迎え入れ、彼らが当社のミッションに貢献することを強く望んでいます。

当社の国際事業は買収を通じて急成長していますが、グループ全体の価値は各事業部門の合計を大きく上回っています。こうしたアプローチを取ることで東京海上グループは、被買収企業が展開する新しい事業や、彼らの持つ専門知識、さまざまな文化によって最大限の利益を得ることができています。今後世界の保険市場におけるM&A(合併・買収)がますます増えると予測される中、当社は被買収企業を支える従業員をしっかりと認識し、支援していく必要があります。

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