事業等のリスク

当社グル-プでは、中期経営計画を推進していくための経営基盤として「リスクベース経営(ERM*1)」に取り組んでいます。具体的には、「リスク」・「資本」・「利益」の関係を常に意識し、リスク対比での「資本の十分性」や「高い収益性」を実現することにより、企業価値の持続的な拡大を図っていきます。

  • *1Enterprise Risk Management

当社グループを取り巻くリスクは、グローバルな事業展開の進展や経営環境の変化などを受けて、一層多様化・複雑化してきています。また、不透明感が強く、変化の激しい昨今の政治・経済・社会情勢においては、新たなリスクの発現を常に注視し、適切に対応しなければなりません。こうした観点から、当社ではリスク軽減・回避などを目的とした従来型のリスク管理にとどまらず、リスクを定性・定量の両面のアプローチから網羅的に把握しています。加えて、ERM態勢の一層の強化に向けた取組みを継続しており、例えば、サイバーリスクなど定量化が困難なリスクも含めたリスク評価の更なる高度化や、再保険スキームの見直しも含めた自然災害リスク管理の強化等に取り組んでいます。

ERMサイクル

  • ※2環境変化等により新たに現れるリスクであり、従来リスクとして認識されていないものおよびリスクの程度が著しく高まったものをいいます。具体的には、当社の子会社での洗出し結果に加え、外部機関等のリスク情報も参考にしたうえで、当社内での議論を経て洗い出します。
  • ※3財務の健全性、業務継続性等に極めて大きな影響を及ぼすリスクをいいます。具体的には、エマージングリスクおよび前事業年度のグループの重要なリスクにつき、影響度(経済的影響、業務継続への影響およびレピュテーションへの影響で評価し、最も大きいものを採用)ならびに頻度・蓋然性を評価し、以下の5×5のマトリクスを用いて特定しています。
  • ※4重要なリスクについて、対応策の策定(Plan)、実行(Do)、振返り(Check)および改善(Act)を行います。

(1)定性的リスク管理

定性的リスク管理においては、環境変化等により新たに現れてくる「エマージングリスク」を含めたあらゆるリスクを網羅的に把握して経営に報告する態勢としており、グループを取り巻くリスクについて随時経営レベルで論議を行っています。
こうして把握したリスクについて、経済的損失額や発生頻度といった要素だけでなく、業務継続性やレピュテーションの要素も加え、総合的に評価を行い、グループ全体またはグループ会社の財務の健全性、業務継続性等に極めて大きな影響を及ぼすリスクを「重要なリスク」として特定しています。特定した重要なリスクについては、後述する定量的リスク管理プロセスにより資本の十分性を検証すると共に、リスク発現前の制御策およびリスク発現後の対応策*5を策定し、PDCA管理を行っています。

  • *5リスク発現前の制御策としてマーケット環境や規制動向も踏まえたモニタリングやリスクの集積管理などを、リスク発現後の対応策としてマニュアル(事業継続計画を含む)整備や模擬訓練などを実施しています。

エマージングリスクの洗出しと重要なリスクの特定プロセス

[エマージングリスク]環境変化等により、新たに現れてくるリスクであって従来リスクとして認識されていないリスク、および、リスクの程度が著しく高まったリスク。エマージングリスク候補:主要グループ会社のエマージングリスク。CROとリスク管理部で洗い出した新たなエマージングリスク候補。前年度のエマージングリスク候補。外部機関等のリスク情報。 1 スクリーニング→エマージングリスク→[重要なリスク]財務の健全性、業務継続性等に極めて大きな影響を及ぼすリスク。重要なリスク候補:前年度のグループの「重要なリスク」。エマージングリスクのうち影響度が大きいもの。2 マトリックス評価による特定→重要なリスク→重要なリスクのPDCA

エマージングリスクの例

エマージングリスク/シナリオ 対応例
①公共インフラ・企業設備の老朽化の進行
  • 公共インフラ・企業設備の老朽化が進行することで大事故が頻発し、保険金支払が増大する。
経済的影響への対応
  • リスクを適切に評価し、お客様のニーズに沿った商品の開発を行いつつ、リスクに見合った引受け、リスク分散および再保険調達を行うことで利益の安定化を図る。
  • ④については、気候変動による影響評価について研究・分析に取り組んでいる。
②宇宙リスク
  • 磁気嵐発生による広範囲の送電網故障、宇宙気象やスペースデブリの増加による通信障害の頻発等により、保険金支払が増大する。
③医療・生命工学の革新的な進化
  • がん診断技術や遺伝子診断技術の革新的な進化により、保険金支払が増大する。
④地球温暖化(気候変動物理的リスク)
  • 地球温暖化により環境破壊や災害の激甚化が進み、保険金支払が増大する。
⑤脱炭素社会への不適切な対応(気候変動移行リスク)
  • 脱炭素社会への移行に乗り遅れた投資先企業の企業価値が下落し、東京海上グループの保有資産の価値も下落する。
  • 脱炭素社会への東京海上グループの取組みが社会から不適切とみなされ、レピュテーションを毀損する。
事業継続への影響やレピュテーションへの対応
  • 気候変動に対する基本的な考え方、保険引受・投融資の方針およびこれらを踏まえた取組みを公表するとともに、気候分野における専門家・アドバイザーとの意見交換を行う。
⑥グローバルな人権重視厳格化への対応遅れ
  • 人権尊重に関する東京海上グループの取組みが社会から不適切とみなされ、レピュテーションを毀損する。
事業継続への影響やレピュテーションへの対応
  • 人権に対する基本的な考え方、人権基本方針、人権尊重に係るマネジメント態勢、責任ある調達に関するガイドラインおよびこれらを踏まえた取組みを公表するとともに、人権分野における専門家・アドバイザーとの意見交換を行う。

2023年度の重要なリスクの一覧

重要なリスク 主な想定シナリオ
①国内外の経済危機、金融・資本市場の混乱
  • リーマンショック級の世界金融危機、地政学リスク等に起因する金融・資本市場の混乱等により、東京海上グループの保有資産の価値が下落する。
経済的影響への対応
  • 地政学リスク等の市場への影響を調査する。
  • 信用リスク集積管理等により、エクスポージャーをコントロールする。
  • ストレステストを行い、資本十分性や資金流動性を確認する。
  • 金融危機、金利上昇リスクのアクションプランを整備する。
②日本国債への信認毀損
  • 政府への信認毀損による日本国債暴落、ハイパーインフレーション等により、東京海上グループの保有資産の価値が下落する。
③巨大地震
  • 首都直下地震、南海トラフ巨大地震が発生し、人的・物的被害が甚大となり、東京海上グループの事業を含む社会や経済活動が停滞するとともに保険金支払が多額になる。
経済的影響への対応
  • リスクの集積を含めて適切にリスクを評価し、お客様のニーズに沿った商品の開発を行いつつ、リスクに見合った引受け、リスク分散および再保険手配を行うことで利益の安定化を図る。
  • ③、④および⑥については、ストレステストを行い、資本十分性や資金流動性を確認する。
事業継続への影響やレピュテーションへの対応
  • 危機管理態勢や事業継続計画等を整備し、有事訓練により実効性を確認する。
  • ⑦については、サイバーセキュリティ態勢も整備し、有事訓練により実効性を確認する。
④巨大風水災(含む気候変動物理的リスク)
  • 巨大台風や集中豪雨が発生し、物的被害が甚大となり、東京海上グループの事業を含む社会や経済活動が停滞するとともに保険金支払が多額になる。
⑤火山噴火
  • 富士山噴火等が発生し、降灰等により物的被害が甚大となり、東京海上グループの事業を含む社会や経済活動が停滞するとともに保険金支払が多額になる。
⑥新ウイルスのまん延
  • 致死率の高い感染症がまん延し、保険金支払が多額になる。
⑦サイバーリスク
  • 多くの東京海上グループの顧客やそのサプライチェーンがサイバー攻撃を受け、保険金支払が多額になる。
  • 東京海上グループのシステムがサイバー攻撃を受け、重要情報の漏えいや事業活動の停滞が発生する。
⑧インフレーション
  • 原材料費の高騰や世界的な物価の急激な上昇等により、保険金支払単価が上昇し、リスクに見合った商品改定や再保険調達ができず保険引受利益が減少する。
経済的影響への対応
  • インフレーションの保険商品への影響を分析し、リスクに見合った商品改定や引受けを行う。
⑨破壊的イノベーション
  • デジタルトランスフォーメーション、革新的な新規参入者等により、産業構造が大きく転換するようなイノベーションが発生して東京海上グループの競争優位性が失われ、収入保険料や利益が大きく減少する。
経済的影響への対応
  • デジタルトランスフォーメーションの基本戦略推進とプロジェクトの実行を通じて、保険事業の競争優位性を確保する。
  • 保険事業と親和性の高い領域を中心とした新規事業を展開する。
⑩新型コロナウイルスの持続・変異
  • 新型コロナウイルスの変異や感染持続により、事業活動が停滞する。
事業継続への影響やレピュテーションへの対応
  • 危機管理態勢や事業継続計画等を整備し、有事訓練により実効性を確認する。
    (経済的影響への対応は上記①に記載)
⑪地政学リスク
  • 国家間の対立が軍事衝突に発展し、人的・物的被害が甚大となり、東京海上グループの事業を含む社会や経済活動が停滞する。
⑫コンダクトリスク
  • 業界・企業慣行と世間の常識が乖離すること等により、東京海上グループの取組みが社会から不適切とみなされ、レピュテーションを毀損する。
事業継続への影響やレピュテーションへの対応
  • 従業員の意識や行動に関する調査を行い、好取組事例の収集や展開を通じて東京海上グループの取組みを改善する。
⑬法令・規制への抵触
  • 個人情報保護、マネー・ローンダリング防止、米中対立やウクライナ戦争に関連した経済制裁強化等に関する規制等に抵触し、罰金等を科されるとともにレピュテーションを毀損する。
事業継続への影響やレピュテーションへの対応
  • 国内外の社会環境、行政機関の動向、法令規制改正等を把握し、必要な対策を講じる。

(2)定量的リスク管理

定量的リスク管理においては、最新の知見に基づくリスクモデルを使用したリスク量の計測やストレステストの実施を通じて、格付の維持および倒産の防止を目的として、保有しているリスク対比で資本が十分な水準にあることを多角的に検証しています。
具体的には、リスクをAA格相当の信頼水準である99.95%バリューアットリスク(VaR)で定量評価し、実質純資産*6をリスク量で除したエコノミック・ソルベンシー・レシオ(ESR)の水準により、資本の十分性を確認しています。99.95%VaRのリスク量とは、2000年に1回の頻度で発生するリスクが顕在化した場合の損害額を意味しますが、国内外の多くの保険会社が99.5%VaR(200年に1回)を採用する中、当社グループは、より厳格な基準でリスク量の評価を行っています。
なお、当社グループのESRターゲットレンジは100~140%としていますが、2023年3月末時点におけるESRは124%であり、資本が十分な水準にあることを確認しています。
また、重要なリスクのうち、国内外の経済危機、金融・資本市場の混乱、日本国債への信認毀損、巨大地震、巨大風水災および新ウイルスのまん延等の経済的損失が極めて大きいと想定されるシナリオならびに複数の重要なリスクが同時期に発現するシナリオに基づくストレステストも実施し、資本十分性および資金流動性に問題がないことを別途確認しています。

  • *6財務会計上の連結純資産に、異常危険準備金の加算やのれんの控除等の調整を加えて算出します。

エコノミック・ソルベンシー・レシオ(ESR)の状況

124%:2023.3末 リスク*7 3.4兆円、実質純資産 4.3兆円 ESRをベースとした資本管理の考え方 ESR:更なる事業投資, and/or。追加的リスクテイク, and/or。株主還元 を実施。 140%~100%(Target Range):更なる事業投資, and/or。追加的リスクテイク, and/or。株主還元 を柔軟に検討。 100%:利益蓄積による資本水準の回復をめざす。リスク抑制的な事業運営により、リスク水準の抑制を図る。リスク削減の実施。資本増強の検討。株主還元方針の見直しの検討。
  • *7リスク量は99.95VaR(AA格基準)に基づくモデルで計算